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遅れました。申し訳ありません。
辺境までの道すがら、シャンレイからはさまざまな話を聞いた。もちろんこれまでの経緯も聞いたが、それ以上に重要なのは今この世界がどうなっているかということだ。
モンスターに蹂躙されるがままだった地上種が、辺境を開拓するまでも成長したのはきっと魔力の使い方を知ったからだろう。
おそらく、あの時ベゾフラポスにいなかった天翼人が伝えたのだ。とはいえもう天翼人が見かけないということを考えると、他種属に交じったか、絶えてしまったか。どこかに隠れ里があるかもしれないが。
さて、問題はこれからどうするかということだ。
辺境についたあと、とりあえず開拓者として登録したいとは思う。そうでなければ身分証明が面倒だからだ。
開拓者は当時は辺境でしか通じない身分だったが歴史とともに国のどこでも通じるようになったようだ。ただし、登録したての10級ではなく8級以上が条件らしいが。
それで身分を得たあと、どうする? 残念ながら私には無限の時間がある。私が勝てない存在はいるだろうが、私を殺せるような存在がいるとは思えない。
随分と広がった人類生存圏を見て回るか。シャンレイのところで働かせてもらうか。
「それで、貴方のことは教えてもらえるんですの?」
「私のこと?」
「ええ。指輪の精霊ではないとおっしゃるなら、一体何者ですの?」
そんな事をシャンレイの話を聞きながらつらつらと考えていると、今度は私が聞かれる番になったようだ。
さて困った。私はこの質問の答えを持っていない。これが少し知りたくてあの不幸な結果に終わった実験に付き合ったということもあったのだから。
「そうだなぁ。君たちは固有魔法の使い手を火炎使いだとか、水使いというんだろう? それならさしずめ私は、空間使い、といったところかな」
固有魔法は、種族としてではなく個人としてもつ魔法だ。魔法は魔術式によらない、かつてベゾフラポスが健在だったときですら、それを模倣することはできても完全な解明には至らなかった神秘の現象。
今ではそれをなんとか使いと呼ぶようだ。先程収納した男から得た知識である。
「空間使い……、空間魔術師のような?」
「それは、空間魔術師を行使できる高位魔術師のことだったかな? あいにくと私は魔術を使ったことがなくてね。知識だけは無駄に豊富だからきっと使えはするだろうが」
魔導書の類いはもともと入れられていたし、あの事故のときにもかなりの量を回収した。今までは肉体がなかったから宝の持ち腐れだったが、今ではおそらく使える、はずである。
「魔術を、使ったことがない?」
「私には使う必要がなかったからね。ただの指輪は魔術を使ったりしないだろう? それとも今は指輪から魔術が?」
「……では指輪が決して壊れなかったのは、魔術的な防御によるものではないと? 空間魔法でそのような保護が可能なのですか? あと、魔道具の中には魔術が込められたものもありますわ」
魔術が込められた道具。今はそんなものもあるのか。天翼人は全員が優れた魔術の使い手だったから、逆に発展しなかった分野だ。道具を使うより自分で何でもしてしまったほうが早い。私自身は魔道具のようなものだったが。
「その保護も魔法みたいなものだが。まあ、それを言い出すと私自身が魔法のようなものだ。指輪も、この体も、数多ある仮初の姿の一つに過ぎないし、体が朽ち果てたとしても私にはなんの問題もないだろうね。そうだなぁ、私は意識のある魔法のようなものだ。浮遊都市にいたときから同族にあったことはないから、私以外に似たような存在がいるのかは知らないけどね」
「待ってください。情報が多くて混乱してきましたわ。空間使い? 意識のある魔法? 浮遊都市? 古代に地上を支配し、一夜にして消え去ったというあの?」
ベゾフラポスはどうやら一応いまでも伝わっているようだった。まあ、地上は支配していたんじゃなくてあくまで保護していたんだけれど。
確かに私のことを対外的になんと言えばいいのかは問題だ。天翼人の体なのだから、それでもいいだろうが天翼人も伝わっていないから結局困ることになってしまう。
「まあまあ。深く考えないでいいじゃないか。空間使いのようなもの、だよ。浮遊都市はたぶんそれのことだね。私が前に起きていた時は人類生存圏は狭くて、浮遊都市が各地を保護していたんだ」
「……人類生存圏、ですか。まだ本当に人類が少なかった時代ですのね。では、かの浮遊都市の滅亡の原因もご存知ですの?」
「ああ……、まあ、私のことだね。いや、決して誤解しないでほしいんだけれど、あれは不幸な事故だったんだよ」
シャンレイは自分で聞いておきながら絶句しているようだった。
いや、たしかに驚くだろうけれど、うん、あれは事故だったから、わざとじゃないんだよ……。




