殿下の事情
「さっきも言ったが、王城倉庫の地下は面倒だぞ」
ラルクは腕を組んで呟いた。作戦は任せたとばかりに、クランは気の抜けた相槌を打って、テーブルの料理に目を遣った。勝手に厄介事を持ち込んでおいて、自分は皿を突つき始める。
一〇年相応、互いに歳を重ねたはずだが、ラルクの見るところ、クランは何ひとつ変わっていない。厨房を襲い、賄いを強奪したあの頃と同じなら、まだ多少は腕も立つのだろうが、人が動くなら、あくまで自分は楽をしようとする。
「言った通り、立ち番がいる」
扉に封印術こそないが、地下の通路は警備が厳重だ。陽動か、別の手立てが必要だった。魔術師を使いたいところだが、宮廷全域が特定の術者以外に施術のできない仕組みになっている。
「いっそ、ラエルを呼んではどうだ、曲がりなりにも宮廷魔術師だし、あいつなら大空洞にも興味があるだろう」
ラルクの提案を暫し考えて、クランは首を振った。
「大空洞は魔術師の禁足地だ、今となってはラエルも偉くなり過ぎた、実刑は謹慎程度だろうが、魔術師界隈の将来はなくなるだろうな」
「そうか」
ラルクは頷いたものの、気づいて声を上げた。
「いや、俺にもそれくらいの心配をしろ」
「料理人の経歴に大空洞なんて関係ないだろう」
クランはにべもない。
「本職は宮廷衛士なんだがな」
不貞腐れたようにラルクは言った。搦手を使わず衛士を排除することは可能だ。むしろ、難しくない。だが、抵抗すれば怪我をする。願わくば、強盗のような強硬手段は避けたかった。怨みは後が面倒だ。
「王族専用の隠し通路ならあるんだが、さすがに今回はなあ」
クランが皿をつつきながら呟く。
「あたりまえだ、殿下をまき込んだら本物の首が飛ぶぞ」
ラルクが呆れて嗜めた。
ぱん、と跳ね飛ぶ勢いで、食堂の扉が大きく開いた。堂々、乗り込む人影の後ろに、鍋を抱えた衛士が右往左往している。
「喜ぶがよい」
薄い胸を反って鼻息荒く、それは二人に声を張り上げた。
「よくはわからぬが、我を除け者にすることなぞ許さん」
戸口で踏ん反り返るキャスロードに目を遣って、クランとラルクは揃って苦虫を噛み潰したような顔をした。




