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同期紹介


 巨大な四角の水晶が、軋むような音を立てて運ばれてきた。

「次に執り行われるのは魔力の属性調査です。では、先ほどと同じように」

 促されるまま、俺は冷たい水晶の表面に手をかざし、内側に宿る「何か」を押し出すように流し込んだ。

 

 ――その直後、パキィィンと耳を劈く破砕音が響いた。

 水晶の核に走ったのは、幾筋もの鋭い亀裂。

 静まり返った訓練場。魔導士長が吐き出された羊皮紙をひったくり、その場に縫い付けられたように動かなくなった。

 

「……雷SS。風S。水A……」

 周囲がざわめき始める。だが、それは歓迎の声ではない。

 畏怖と、得体の知れない「兵器」を検分するような、冷ややかな視線の群れだった。

 

「魔力量――七星相当」

 

 その宣告で、ざわめきすら消え失せた。

 十二年前、勇者との戦いで主戦力の半分を失った帝国の最高戦力。その欠けたピースを埋める「部品」がついに現れた。皆の目がそう語っていた。

 

「流石は、異世界の御方ですな」

 魔導士長が口角を歪めるが、その声に高揚はない。

 こいつらは、俺を人間として見ていない。ただの「高出力の魔導源」として査定しているだけだ。その事実に、背筋に嫌な汗が流れる。

 

 俺はたまらず、傍らに立つガルト大尉を仰ぎ見た。

「……これで、俺も役に立てますか?」

 縋るような、情けない声が出た。

 大尉はすぐには答えず、数値の羅列を冷徹に見つめた後、重い口を開いた。

「魔力量が多いほど、戦場では目立つ」 

「え……?」

「目立つ者から死ぬ。それがこの世界の鉄則だ」

 軽口で返そうとした言葉が、喉の奥に小骨のように刺さって動かない。

 魔力が多いことが生存の保証ではなく、ただの「的」としての刻印でしかないという事実。

 

 魔力が多いってデメリットがあるのかよ。考えたこともなかった。

 まあでも……そうか。もし魔力感知とかそういうのがこの世界にあるんだとしたら、魔力が多いだけの人間って、ただの的だもんな。

 

「……気を付けます」

「“気”では守れん。行動で示せ」

 それだけ言って、ガルト大尉は歩き去った。

 ガルト大尉の言葉が、喉に小骨のように残った。七星って、そんなに特別なものなのか?

 

 翌日、入隊式を終えた俺たちは同期と顔を合わせた。

 最初に握手してきた黒髪の少年は、俺の肩を軽く叩いた。

「イナミスだ。よろしくな」

 イナミス・ヴァレンタイン。三つ編みの後ろ髪を揺らし、迷いのない足取りで距離を詰めてくる。差し出された手のひらは、剣だこで岩のように固かった。

「ルークです。以後、お見知りおきを」

 カナメ・ルーク。細く整った指先で、流れるように一礼する。落ち着いた物腰には、隠しきれない育ちの良さが滲んでいた。

「……セリナです」

 セリナ・アルヴェスティア。白い肌に淡い青の瞳。……あの時町で見かけた、少女とは違う。だけど、同じアルヴェスティアの血筋特有の、冷ややかな気品が漂っている。

「レインよ!よろしくね!」

 カルバン・レイン。弾けるような笑顔で俺の二の腕を叩く。その明るさに、張り詰めていた訓練場の空気が一気に弛緩した。

「ノエルよ」

 ノエル・スカーレット。深緑色の瞳が、瞬きもせず俺の魔力の揺らぎを観察している。

 

 ――日本人だからか、評価されている。

 魔導士たちの「測定器」を見るような目とは違う。だけど、この真っ直ぐな期待の視線は、逃げ場のない檻の中に放り込まれたようで、気まずくなる。

  

 模擬戦の相手はイナミスだった。

 魔力では押していた。だが、一歩踏み込まれた瞬間に崩された。剣が喉元で止まる。動けなかった。魔力量じゃ、命は守れない。

  

「魔力の使い方が雑よ」

 ノエルが言う。

「その戦い方、すぐに死ぬわ」

 深緑の瞳が、俺の魔力の末端まで見透かすように射抜いてくる。

「……でも俺、七星レベルなんだろ?」

 言い訳のような言葉に、ノエルは首を振った。

「七星は、生き残った人たちよ」

 胸の奥がざわつく。七星相当なのに、負けた自分。悔しさが、腹に残る。

 七星は生き残ってきた人達。俺の世界の諜報員とかを想像する。地味な見た目。地味な雰囲気。闇に溶ける黒い装備に、感情の消えた瞳。それが七星なのだろうか。


 ――その時、サイレンが鳴り響いた。

「帝国南部国境にて、ノーブル軍が侵攻を開始!」

 模擬戦の熱が一瞬で冷える。ざわめきが広がる。

 イナミスが肩を叩いた。

「まずは生き延びろ」

 

 七星相当――その言葉だけが、場違いみたいに浮いていた。誇りという響きではなかった。欠けた戦力の穴。その空白に、自分が押し込まれようとしている。

 戦争は、もう始まっていた。

感想やポイントを頂ければ次回作のモチベーションになります。

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