対ヤバい奴ら編⑬『白金の迷宮』
白金組の本拠地である、沼津駅近くの雑居ビルに乗り込んだ連夜達。
李緒が組員達を足止めしている中、組長がいると思しき上層へ急ぐ。
対ヤバい奴ら編⑬『白金の迷宮』
俺達は李緒さんと共に、白金組の本拠地があるビルにたどり着く。
そこは沼津駅南口の真正面にある、青と緑の四角い幾何学模様で彩られた白い外観のビルで、俺自身も見覚えがあった。
ビルの外観は7階建てで、四角く一部の角が丸い、独特な形をしている。
ビルの外側には無数の窓が規則正しく並んでおり、そこに広告の看板がいくつも横に並ぶ形で取り付けられているものの、3階から下が不自然なほど真っ暗で、夜の闇に溶け込んでいた。
1階の入口から中を覗いて見ると中は暗く、何もなくがらんとしている。
雑居ビルと李緒さんは言っていたが、店やテナントらしきものが入っている様子が見受けられず、何というか潰れたコンビニやガソリンスタンドのような……人けのない廃墟だった。
「このまま突入するわ!」
李緒さんは正面入口にある閉まっている自動ドアのロックを解除し、扉を手動で開ける。
そしてそのまま、俺達は正面から突入した。
8年前まで百貨店として営業していたこともあってか、1階全体が1つのフロアになっている。
細部をよく見てみると、百貨店時代の案内や意匠がそのまま残されている。
(デパートってこんな感じか……)
裾野市にデパートは無く、大きな商業施設はリンリンタウン裾野ぐらいで、後は中小のスーパーやホームセンターが点在している程度である。
S県東部の中心都市である沼津の駅前にひしめくビルの1つということもあってか、1フロア辺りの大きさはリンリンタウンに比べると極めて小さく、こじんまりとした印象を受ける。
だが売り場が2階だけしかないリンリンタウンに比べると階数が圧倒的で、レトロな意匠も相まって、廃墟とはいえ新鮮に感じられた。
そんな物珍しさ故に周囲を見回していると、突如漆黒の空間が真っ白に染まる。
照明がつくのとほぼ同時に、奥の階段や止まったエスカレーターから次々と目出し帽姿の男達が降りてきた。
「早速お出迎えね」
男達は数十人程度おり、手にはバットや鉄パイプといった凶器が握られている。
そしてそのほとんどが、片手を三角巾で括っていた。
「何じゃ、お前ら……なっ!? 碧、連夜!?」
「なんでこの場所が!?」
「おい! オヤジとカシラに伝えろ!」
「へ、へいっ!」
男の1人が慌ててエスカレーターに戻ろうとするが……。
「させないわよ!」
走る男に、李緒さんは右手から空気弾を発射!
「グワーッ!」
直撃した男は転倒!
そのまますぅーっとスライドするように床を滑っていき、やがてフロアの端の壁に激突した。
「このーっ!」
それを合図に男達が一斉に李緒さん目掛け襲いかかるも……。
「ふんっ!」
「「「ぐぉぁーっ!!!」」」
直後、李緒さんは身体をぐるりと回し、囲んで襲いかかってきた男達に空気弾発射!
男達、瞬く間に転倒!
「早く階段に!」
「え?」
「早く! 事前に言ったでしょ!?」
「わ、分かりました!」
当初の予定では、階段で上を目指す手はずであった。
エレベーターは可動しているか分からず、エスカレーターは敵の侵入口になるだろうからという理由で。
倒れている男達を避けながら、俺達4人は一番近くにある階段へと駆け込む。
「李緒さん!」
4人全員が駆け込んだタイミングで、李緒さんの方を見る。
倒れた男達は立ち上がろうとしている。
「そーらっ!」
すると李緒さんは、近くに落ちていた鉄パイプを掴むと、そのまま階段の方に槍投げのように投擲!
鉄パイプが壁の一角に当たった瞬間、金属が軋むような音とともに防火シャッターがゆっくりと降り始め、階段とフロアを遮断し始めた。
「李緒さん! 早く!」
未だにフロアの中心に残る李緒さんに呼び掛けるも……。
「こいつらは私が引き受けるわ。貴方達は上にいる組長を!」
「でもっ!」
「後から行く!」
「っ……」
男達が起き上がり、エスカレーターから更なる増援が現れたのが見えたところでシャッターが完全に閉まり、李緒さんの姿は見えなくなった。
「李緒さん……」
ここで心配そうに、よーちゃんが呟く。
『早く上に行くぞ! 階段から増援が来たら厄介だからな』
だが陽さんが平静に指示を飛ばし……。
「……了解」
その言葉を合図に、俺達はそのまま、階段を駆け上がったのだった。
――――――――。
連夜達を階段に逃がして、少し後――。
李緒は、数十人は下らぬ大勢の男達に囲まれていた。
「さて。あの子達も居なくなったし、いっちょやりますか!」
「「「行くぞコラーッ!!!」」」
「「「ザッケンナコラーッ!!!」」」
男達が一斉に、李緒に飛びかかったその瞬間。
「フンッ!」
李緒さん右脚を持ち上げ、そのまますっと床をカツンと叩く。
直後、彼女の身体から全方位に黒い炎が噴出し、襲いかかった男達は一瞬で黒い炎に包まれる。
「「「ガァァァァ!!!」」」
「「「ギャァァァァァ!!!」」」
火達磨になった男達は地面に転がり、しばらくその場でのたうち回っていたものの……。
やがて、ピクリとも動かなくなった。
辺りに、黒い炎が燃え移っていく――。
――――――――。
「さて、どうしたもんか……」
防火シャッターで封鎖された階段を登っていき、5階の踊り場にたどり着く。
目的地は最上階……事前情報通りなら組長の部屋があるはずの7階だが、階段の上の方を見ると段ボール箱が壁のように雑多に高く積まれており、この階段で登れるのはここまでのようだった。
「手筈通りなら、このまま組長のところに楽々直行……って話でしたよね?」
「そう、だったが……」
少しだけ不機嫌そうなよーちゃんの声が聞こえる中、段ボール箱を掴んでみる。
重い物が入っているのか、びくともしない。
下手に動かすと山が崩れ、下敷きになって危ないと感じ、手を離した。
「早速事前情報と違う展開だな……」
「……上までしっかり積んであるね。容易には行かせてくれないって感じか」
将軍とキララさんは手すりの隙間から、上の階を眺めていた。
『連中によって、当初は無かったものが色々と追加されてるようだな。……とりあえず別の階段から6階に上がって、そこから7階を目指そう』
「分かりました」
よーちゃんは、5階の防火シャッターの横に併設されている防火扉に手を掛けようとする。
「あ、待って! ストップ!!!」
「えっ?」
だがここで俺は、試してみたいことがあったことを思い出し、扉を開こうとする彼女を止めた。
「何だよ碧、いきなりどうした?」
「ん?」
『何か気掛かりでも?』
「いや……えーっと、ちょっと待って……むーっ……」
俺はよーちゃんが全員に治癒魔術を掛けたときのように右腕を上に掲げ、そして……。
(イメージ、イメージ、イメージ……)
目を閉じ、自分に防御力強化の補助魔術を掛けたときに行っているイメージを頭に浮かべ、そしてそれが周囲に広がっていく様子を頭に浮かべた。
すると……。
「おっ!?」
「あっ……」
「えっ、これって……」
目を開くと俺のみならず、よーちゃん、将軍、キララさんの身体にも、同じ青いオーラが現れた。
「っしゃ!」
俺は思わずガッツポーズを取った。
『自分以外に補助魔術を掛ける……李緒さんが言ってたことを実践してみたのか?』
「そう! そうです」
李緒さん曰く、魔術はイメージの力であり、イメージを上手く練ることが大事らしい。
なので、自分以外に補助魔術を掛けるイメージを練ることで、他の人にも掛けられるのではないかと考え試してみたが……思いのほかあっさりと、上手く行った。
「何!? じゃあおれも!」
「アタシも! えーっと、確かイメージ? が大事なんだっけ? うーん……」
「うーむ……」
2人は俺を真似るように手を挙げ考え込むも、何も起きない。
「……力を掛ける相手を頭に浮かべてみては? 私が治癒魔術を掛けるときやってるイメージですが……」
「なるほど、ヨウさんさんきゅー! えーっと……こうか?」
よーちゃんのアドバイスを受け、将軍は両腕を上に掲げる。
すると、俺達全員に赤いオーラが現れる。
「アタシも……ハアーッ……」
キララさんは腹に手を当て深呼吸する。
すると同じく、全員に緑色のオーラが。
赤、青、緑のオーラは互いに明滅し、やがて混ざり合い白いオーラへと姿を変えた。
「おおーっ……」
よーちゃんが拍手する。
「できるもんだな……魔術って、奥が深い」
「まだまだ、アタシ達も鍛錬が必要ってコトね」
将軍とキララさんは両腕を見つめ、感慨深そうに呟いた。
今度李緒さんに、魔術についてより詳しく教えてもらった方がよさそうだと感じながら、俺達は改めて防火扉を開け、中に進んだ。
5階は1階同様1つのフロアになっており、オフィスデスクやソファー、観葉植物の鉢植えが規則的に並べられている。
百貨店時代の様相を色濃く残していた1階とは違い内装や天井板が全て剥がされており、床はコンクリートが剥き出しで、天井もこれまた梁や空調、照明の配管が露わになっていた。
そして……。
「碧連夜とその一味……!」
「オヤジの所へは行かせねぇ!」
「おいお前ら! こいつらぶっ殺したれ!」
ソファーやデスクに座っていた連中が立ち上がり、俺達のいる方に近付いてきた。
「早速のお出ましか……」
下での対応に人数を割いたのか、数自体は1階に比べるとかなり少ない。
代わりに、三角巾をつけている奴の数も少ないようだった。
「しゃぁ行くぜ!」
白いオーラに包まれながら、右腕を回して意気込む将軍。
「先言っとくけど晴斗、炎はだめだからね?」
だがそんな彼に、キララさんは釘を刺す。
「あ?」
「あ? って。こんな古いビルで火気なんて使ったら……」
「あ、あぁー……そういうことか。しゃあねぇ拳で行くか!」
将軍は指をポキポキと鳴らした。
確かに、建物内では火気は厳禁……。
下手したら自分も巻き込まれかねず、そう考えると不便な魔術だと感じた。
「地割れや石柱も、ここでは使えないですね……てーあっ!」
「グワーッ!」
よーちゃんの判断が早い決断的先制攻撃……石弾の直撃を受けた男が卒倒!
そしてそれを合図に、なし崩し的に戦闘が始まった。
「そこの女2人は不死身で倒しても無駄だ! 足止めして、碧 連夜と炎の魔人に攻撃を集中させろ!」
「何!? ぐうっ!」
「ちいっ!」
俺と将軍に、鉄パイプとバットを持った男達がスリーマンセルで次々飛び掛かってくる。
襲いくる一撃を、俺達は何とか避ける。
「む……」
「ちょっ、何これ!?」
そして、男達の残りはスクラムを組んでよーちゃんとキララさんに、鉄パイプ椅子を盾にしながらにじり寄る!
彼女達も同様に近くに立て掛けてあった鉄パイプで応戦し、甲高い音が響く。
『奴ら、分身体のことを把握しているのか……? ともかく、早いところ排除しよう! こいつらは多分、時間稼ぎ要員だ!』
「でしょうね!」
陽さんの言う通りだと思う。
モタモタしていると、組長に逃げられるかもしれない。
「将軍! 殴り合いの喧嘩の経験は?」
「慣れてる! てぁっ!」
将軍は男達から距離を上手く取りながら、慣れた足つきで回し蹴りを繰り出すと、男達を薙ぎ払い吹き飛ばす!
「「「グワーッ!!!」」」
先ほどの魔術による強化も相まって、蹴られた男達は派手に窓際まですっ飛んでいった。
「了解! 俺は慣れてねえんで魔術で行く! はぁーっ!」
一方の俺はというと、向かってきた3人の足元に吹雪をぶち当て、動きを止める。
「なっ」
「ぐぅっ」
「動かん!」
コンクリート床に貼り付けられた脚を引き抜こうとする男達だったが、纏わりついた氷はびくともしない。
「こんのっ! たぁーっ! むぐっ!」
スタイリッシュな回し蹴りを繰り出した将軍に対し、俺は身体をよろけさせながら恐る恐るの形で、動けなくした男達を1人1人蹴り飛ばしていく。
「グワッ……」
「ヌワッ……」
「ノワッ……」
凍らせて動きを止めていることもあるだろうが、蹴られた男達は派手にすっ飛ぶこともなくその場に横向きに倒れていった。
「行きましょうキララさん!」
「オッケー! それ貸して!」
「はいっ!」
「よーし、そーらッ!」
キララさんはよーちゃんが持っていた鉄パイプ椅子を貰うと、自分が持っていたのと合わせて男達に投げつけ、さらに空いた両手から突風を発射!
「うわっ!」
「め、目がっ!」
「ぐぁぁっ!」
「むぅ!」
「のあっ」
パイプ椅子と強い風が顔面に直撃し、男達が怯んだところに……。
「そーれっ!」
よーちゃんは右手から数センチ程度の丸い小石を発射! スクラムを組んでいる男達を薙ぎ払う。
Rat-tat-tatと発射された石ころは、男達の椅子のガードをすり抜け、ちょうど男達の股間辺りに次々と直撃!
「「「「「ウオァァァァァッ!」」」」」
女子2人にじり寄っていた男達は股間に制裁を受けて倒れ、のたうち回る。
更に小石弾は後方の窓ガラスにも当たったが、そちらは細かなヒビが入るにとどまった。
『見事だな! さぁ、上に進もう!』
「はい! 皆! 上に行きましょう!」
「あいよ!」
「オッケー!」
「……そうっすね」
俺だけ考えごとをしていたこともあって、今一微妙な返事となった。
戦闘開始から数分も経たぬ内に、男達は全員床に伸びた状態となった。
率直に言って、相手が弱かった。
魔術を持つ者と持たぬ者との差で勝ったような勝負だった。
(使える相手だったら、こうはいかねえよなあ……)
内心でそう考えながら、皆と一緒に別の階段の方へと足を運んだときだった。
「待てや。ここは通さん」
不意に、俺達が入ろうとした階段に備え付けられた防火扉が開くと、そこから1人の男が現れる。
「今、オヤジとあの方が大事な商談中や。邪魔させん」
見覚えのある、派手な色のスーツ。
右袖は肘のあたりで結ばれて、そこから先が存在せず、結び目は赤く染まっている。
そいつの姿を目の当たりにした瞬間……。
「っ……」
左胸に痛みが走り、脳裏にあのときの光景がよぎる。
魔術を封じられ、危うく胸を貫かれかけたあの記憶が……。
そして次の瞬間。
右腕が不意に、上へと挙がっていた。
味方全員に、青いオーラが掛け直される……。




