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対ヤバい奴ら編⑭『北の民の末裔』

連夜達に立ちふさがるは、襲撃者達のリーダー……白金組の若頭……陽の叔母の、仇。

組長の下へ向かうには、奴と決着を付けなければならない。

対ヤバい奴ら編⑭『北の民の末裔』

「カ、カシラ……! 待ってくだせえ、そんな身体じゃ」

「だーらっしゃい!」

 気を遣う部下達を一喝するスーツ姿の男。

「へ、へいっ……!」

 男達は引き下がる。


「カシラ……、若頭ってコト?」

 俺が青いオーラを掛け直したのを見たキララさんは、緑色のオーラを全員に掛け直す。

「せや! この俺こそ、この白金組の若頭や!」

 微妙に関西弁っぽいような、そうでもないような口調で、キララさんの疑問に答える男。

「若頭?」

「組長の次に偉いヤツ……要は組のナンバー2!」

「あぁなるほど……理解した。さんきゅーキララ」

「どういたしまして!」

 将軍もキララさん同様にオーラを掛け直すと、若頭に対し構えた。


『お前たちの目的は何だ!』

「貴方達の目的は何なんですか!?」

 陽さんの言葉を代弁するように、よーちゃんが問いかける。

 このとき心なしか、よーちゃんの語気が荒いように感じられた。


「昔話や」

「えっ?」

「フンッ!」

 よーちゃんの困惑をよそに、男は残る左腕を高く掲げる。

 そこには腕輪がはめられていた。

 腕輪から光が放たれ、周囲の景色が一変する。

 またあの腕輪か……。


「ぐ、ここは……」

 気が付くと俺達は、銀世界の上に居た。

「……これは、雪原?」

「寒ッ……あれは、何の山?」

 両手を組んでこすり合わせるキララさん。

 遠くを見ると、富士山っぽい形をした山があり、その手前には葉が落ちた森が広がっている。

 そして、後方には……。

「これは、戦車か?」

 将軍が後方を見ると、そこには無数の数えきれないほどの戦車の残骸が燃えている。

 人らしき姿は、見当たらない。

 炎が上がり、熱気が漂っているにもかかわらず雪原は一切溶ける気配がなく、また空気も肌寒かった。

『この景色……ホッカドーか?』

 陽さんが考察する中、男はぽつりぽつりと話し始めた。


「俺は元々、国防軍の第11師団所属やった」

「第11師団?」

「北方方面……A県の津軽海峡で、ソ連との国境防衛を担っていた部隊や」

 男は説明してくれた。

「俺の両親も白金組組員でな、戦前は北海道出身だったんや。組が壊滅し、カタギの環境で育った俺は、家族が住んでいた土地の奪還を夢見て、いつしか国防軍に入っとった」

 男の声色は、どことなく達観しているように聞こえた。

「そしてソ連が崩壊し、北海道があのマフィア共の手に渡り、更にそれが崩れようとしている最中、ヒノモト政府主導で奪還作戦が行われたんや! 俺は当然それに志願して参加した!」

 男の声色に熱気がこもる。

「だが俺が所属していた第11師団は羊蹄山麓(ようていさんろく)で完膚なきまでに壊滅し、作戦は失敗に終わった! そう! 今ここが映し出している、この地や!」

 男は富士山っぽい、でも違う山の方を見る。

 この山が奴の言う「羊蹄山(ようていざん)」なのだろうか。

「第11師団の壊滅について、公式発表では巨大隕石の破片が降りかかったためになっとるが、真実はそうやない!」

 男は再び俺達を一瞥し、声を荒げた。

「俺は見た! 突如として現れた数人の男女の一団が放った面妖な力によって、第11師団が次々と吹き飛ばされていくのを!」

「面妖な力? まさか……」

 俺が言いかけたところで、男が遮る。

「そう! お前達が使っている魔術の力! 俺らは自然災害でやられたんやない! 魔術使いの連中にやられたんや!」

 男は俺達から視線を逸らすと、後ろに広がる雪原と、遠目で燃え上がっている戦車達の残骸を一望する。

「加えてヒノモト政府はワシらを置き去りにし、布告無しの攻撃は軍の急進派の独断によるものとのたまった挙句、国連を牛耳る九恩院グループに尻尾を振って平和条約を締結した! 俺らはヒノモト政府に見捨てられた挙句、梯子を外されたんや! 生き残った俺や俺の仲間が白金組に合流するのは必然だったっちゅう訳や!」


 男はそこまで言ったところで、ズボンのベルトに引っ掛けられている白鞘から、刀を左手一本で引き抜き逆手持ちする。

 刀身の長さは30センチメートル程度で、いわゆる「ドス」というやつか。

「かつては数万人を誇った白金組も、今や見る影もない有様。だからこそ我々には必要なのだ! あの方の力が! 故に邪魔させん! ちょうど空間(ここ)も因縁にふさわしい場所になっとるし、泣いても笑っても、ここで終わりや! 覚悟せい!!!」


 そしてドスを逆手に構え――。

「あの方から頂いた新たな力で、お前達を屠る! カァーッ!」

 ――シャウトと共に、その姿が消えた。


「なっ、消えたっ!?」

 雪原に消えた敵を探すも、

『なっ!? ……あっ! 左だ連夜!』

「え? ぐおあっ!!!!」

 直後、腹部に何かが掠った感覚が生じ、痛みが走る。

 そして奴の姿が目に入り、腹部を切られたと理解するのに時間を要した。

 幸い傷自体は補助魔術とコートのおかげで大したことなさそうな気配だったものの、すぐそばに生えていた木が攻撃に巻き込まれる形で切断され、こちらに倒れてきた。

「のわっ!」

 慌てて倒木を避ける。

 切られた木の断面は非常に綺麗で……補助魔術が無かった場合の末路を想像させ、少しだけ身が震えた。

(何だこのスピードは!?)

 そう思う間もなく、敵の姿が再度消える。

「連君!」

 よーちゃんは治癒魔術を掛けるべく、両腕を真上に掲げる。

「ぐぁぁっ!」

 だが刹那、布か何かを切り裂く音が次々と響き、よーちゃんの悲鳴が上がる。

「よーちゃん!」

 見ると、掲げた両腕を纏っていた袖が跡形もなく消し飛ばされ、皮膚には無数の横一文字の傷が付けられている。

 傷口はぱっくりと裂けて血が噴き出し、一部からは白い骨らしきものが見えるほど深かった。

「ぐ、ぐう……がぁっ!」

 両腕が使用不能に陥ったよーちゃんは、聞いたこともないような苦し気な声を上げながら、その場に腰を落として蹲った。

 彼女の足元が、赤く染まっていく。

『っ!? ぅ……』

 更に、その光景を目の当たりにした陽さんが苦しそうな声を上げ、呻く。


「碧! ヨウさん!」

「アイツ、あんな大怪我負って昨日の今日だから、まともに動けないと思ったのに……」

「ち、どこだ……? がぁっ!」

 よーちゃんの次に狙われたのは、将軍であった。

「は、晴斗!」

 将軍の目の前に男が現れ、横に一撃。

 案の定回避できず、右わき腹を切り裂かれた将軍は怯んだところで、更に右太ももに一撃を食らう。

「ぐ……」

 将軍の上着は瞬く間に赤く染まり、更に太ももからは勢いよく血が噴き出す。

 やがて、そのまま蹲ってしまった。

「晴斗! 待ってて……ふんっ!」

 再度消えた男はキララさんに迫ったようだが、彼女は間一髪で攻撃を回避する!

「見えた! たぁっ!」

 そして再び男が消えるものの、キララさんは虚空に蹴りを放つ!

「何っ! ぐぅっ!」

 するとそこから男が現れ、彼女の風をまとった蹴りが直撃した。

『っ、き、キララさんには、奴の姿が見えているのか……』

 どうやらその通りらしい。

 自分達にも一応速度上昇の補助魔術が掛かっているのだが……人によって効果の効き目に差があるのかもしれない。


「お、おのれ……ガハッ!」

 蹴り飛ばされた男は転ばずに体勢を立て直すも、直後口から血を吐く。

「ゴッ……、ぐ……傷口がぁ……」

 更に、右肘から血がじわじわと染み出し始める。

『これは……高速移動に身体が付いていけてないようだな』

「っぽいっすね」

 あの攻撃手段、デメリット持ちか……。

『連夜! 皆を回復させて、何とかしのぎぎれないか?』

「わ、分かりました!」

 俺は自分の傷をすぐさま修復し、将軍とよーちゃんの方を見る。

 よーちゃん自身、呻きながら何やら力を込め、身体から白いオーラを出し始めている。

(よーちゃんは自分で治せるよな……重症度的に、将軍を!)

 俺は将軍に右手を向ける。

 将軍はキララさんに介抱されているものの、出血量が多いのかどことなく顔色が悪く、かなりヤバそうな状態だった。

 そんな彼の足元に白いサークルが出現し、白い光が包みこむ!

 瞬く間に足元の血だまりが消え失せ、将軍の顔色は元に戻った。

「あっ、ミドリ君! ありがと!」

「す、すまねえ……」

「どういたしまして! さて、次は……」

 よーちゃんに右手を向け、力を込め始める。


 口元から血を流しながら、男が呟く。

「ぐ……オヤジとあの方は、言っとった! 碧 連夜の魔術の力は、計画の最大の障害になり得ると!」

 ……キララさんも言っていたが、腕を切断されてまだ1日である。

 奴さん治癒魔術は使えないだろうし、本来なら戦えるような状態ではないはず。


「かくなる上は、奴だけでも!!!」

 だが奴は執念で、執念だけで動いている!

 後先考えない今だけの、執念! ただそれだけ!

 そして満身創痍の男の身体は、再度姿を消す!


 よーちゃんの回復が始まったところで、男が目前に現れる。

「っ!?」

「カァーッ……」

 シャウトと共に、右腕を一閃!

「ぐあっ!」

 腱がいかれたのか、激痛と共に電気が流れたかのような感覚が生じ、右腕が麻痺する。

 右腕は力が抜けて垂れ下がり、治癒魔術の行使が止まった。

「ガハッ!」

 俺の右腕を斬った男は再度吐血!

 男の血が、己のコートにかかる。


『連夜!』

 そして陽さんの叫びから数秒も経たぬうちに男が再び視界から消え……。

「グッ!」

 直後、首の左側に何かがサクッと食い込み、ジワリと痛みが走る。

 男が首を掻っ切ろうとしてきたことを悟った俺は後方に飛び退くも、そのまま男が高速移動を再開!

「ぬおーっ!!!」

 俺は宙に浮いた状態で首に刃を当てられ、その状態のまま雪原を吹き飛ばされていく。

 残る左腕で男の刃を掴むも、自分の力より高速移動の勢いの方が勝っており、押し返すには至らない。

 だが左手を離せば、間違いなくより深く食い込んでしまう!

(ちくしょう!)

 空中で足元がおぼつかない中、俺は全身に力を込める。

「碧!」

「ミドリ君!」

 足元に白いサークルが現れ、首に食い込んだ男の刃を、組織が治癒する勢いを利用して弾き返す事を試みる。

 意識を首に集中させているせいか、右腕はなかなか治らない。

「碧! ちっ、どこに居やがる!」

「あっち! だけどかなり高速で移動してる! アタシ達じゃ追い付けないよ!」

「なんだと! ぐ……」


 それから数秒後、俺の身体は火が消えた戦車の残骸に背中から激突!

「がぁっ……」

 戦車にもたれかかる形となり、後頭部に衝撃が走る。

 後頭部に意識を回すも、身体が固定されたことで左首筋に刃が勢いよく食い込む。

「死ねぇぇぇぇぇ!」

「んぁぁぁぁぁぁっ!」

 ぐりぐりと刃を押し当てられる。

 治癒の勢いで相殺しきれず、更なる激痛と共に首から血が流れ始め……。

 やがてぶしゃっと、血が噴水のように吹き出し始めたそのときであった。


 突如、雪原に甲高い破裂音が1回だけ響く。

「ガァーッ!」

 そして男の叫び声と共に、左首筋にかかっていた抵抗が消える。

「っ!?」

 見ると、ドスを握っていた男の左腕は肩口からちぎれ飛び……そのまま地面に落下していた。

「グ、ゥゥゥゥ!」

 左肩から血を吹き出しながら、男は俺と同じ戦車にもたれかかる。

 直後、噴水のように吹き出していた血が、白い光と共にまるで逆再生するかのように俺の身体に戻っていき……そして瞬く間に首元と両腕の傷は消滅した。


 何かが飛んできた方を見ると、そこには。

「……」

 そこには歯を食いしばり、眉間にしわを寄せた、ものすごい形相のよーちゃんが右腕を向けた状態で立っていた。

 よく見ると右腕の傷は完全には治っておらず、未だダラダラと血が滴り落ちており、それを完治した左腕で掴んで支えている状態だった。

 男がもたれかかった場所の近くには何かが着弾したような跡があり、戦車の装甲板には穴が空いていた。

 飛んできたものが石弾だと気付いたのはこのときだったが、その威力は先ほどの組員達の股間に放ったものとはまるで違っていた。

『……、……』

 その光景を前にしているであろう、陽さんからの反応はない。

 耳を澄ますと、怯えるような息遣いだけが、左耳からかすかに聞き取れる。


「まだだぁぁぁ!」

 もたれかかっていた男は、腰の勢いだけで体を起こすと、そのまま俺に体当たりを仕掛けてくる!

「ちっ……」

 だが、俺が避けようとした瞬間。

「アバーッ!」

 再び破裂音と共に、今度は男の右肩口が吹き飛ばされる。

 そしてその勢いで、男は俺から離れる形に吹き飛ばされ、そのまま雪原に仰向けに倒れた。


「っ、グゥ……」

「……、……」

 両肩から血を垂れ流して呻く男をよそに、よーちゃんは無言のまま荒く息を吐く。

 そして、転がっている男の左腕に石弾を連射。

 腕輪を男の左腕諸共、粉々に破壊した。

(な、何だよ、これ……)

 目の前で起きている光景が、信じられない。

(こんな、ことを……)

 石弾を連射する彼女の形相は、先程の苦痛もしくは怒りに顔を歪めたそれではなく……信じられないほど冷たい目つきだった。

「っ……! っ……!」 

 更に苛立ちのような、怒りのような吐息を漏らしながら、今度は右上腕の残骸も同様に石弾で破壊した。

(な……)

 bratatatと、先程の小石のマシンガンとは比べ物にならないほど殺意に満ちた音が鳴り響く中、赤い煙と黒い煙が粉雪と共に舞い上がり、風景が歪んでいった――。


 気が付くと、俺達は元のビルの6階に戻っていた。

 倒れていた男達は、いつの間にか居なくなっている。

 李緒さんの方の対応に向かったのだろうか?


「……」

 スーツの男は、上に続く階段の防火シャッターにもたれかかり、もはや喋ることすらままならぬ状態。

 このまま放置すれば、あと数分もしない内に出血多量で死ぬだろう。


 だがそんな男に対し、よーちゃんはすたすたと近づいていき……。

「ぁ……ぁ゛ぁ゛……」

 おおよそ人のものとは思えないような呻き声と共に、右腕を男に向ける。

「……、……」

 その光景を目前にして、どういう訳か、身体が全く動かない。

 声も、出せない……。

『……』

 陽さんは、相変わらず吐息だけだ。


 俺と陽さんが全く対応できない中――。

「駄目だヨウさん!」

「ダメッ!」

 将軍とキララさんが咄嗟に駆け寄り、よーちゃんの身体を抑え込む。

 刹那、破裂音と共に男の真横……防火シャッターに大きな穴が空いた。


「っ!? はぁ、はぁ、はぁ……」

 ここでよーちゃんが、我に返ったように息を吐く。

 本当にせわしなく、息を吸ったり吐いたりしていた。

「あ、あっぶね……」

「よ、良かった、間に合った……」

 将軍とキララさんはよーちゃんの身体を押さえた状態でほっと一息を付いた。

「う、うぅ、うぅぅっ……」

 すると押さえつけられたよーちゃんからは、次第にすすり泣くような声が聞こえてくる。

 彼女の身体から力が抜け、将軍とキララさんに支えられている状態になった。

 

 そんな中、俺の身体は不意に男の方へと動く。

 そして、男に右腕が向き、力が入る。

 白いサークルが、男の足元に現れる。

『「ぁ……」』

 その光景を見た陽さんとよーちゃんの声が聞こえた瞬間、男の両肩に白い粒子が集まっていくと、それはやがて腕の形を成していき、光が消えると元の両腕が現れる。

 そして近くの血溜まりも、それに合わせて消滅していく。

「しょ、将軍……こいつの炎は?」

 俺は、将軍に確認してもらう。

「……気絶しているが消えてはいねえ。……間に合ったぞ」

「……分かった」

 男の両腕が元通りになり、床の血溜まりが消えたところで、俺は手を向けるのを止めた。


 その後、俺はよーちゃんの腕に治癒魔術を掛ける。

 この頃には彼女も陽さんも我に返っており、俺に問いかけてきた。

『なぁ、連夜……』

「連君。何で、こいつを……」

 それは疑念と怒りがない交じりになったような声色で、思わず身がすくむ。

「分かってる……!」

 だが、それに何とか抗うように言葉を絞り出した。

「こいつは、陽さんの叔母さんの仇。死んで当然の奴だとは思う。思う、けど……このままほっといたら、喉に魚の小骨が刺さったままになるような、そんな気がしたんです」

 よーちゃんの腕を治し終えたところで、一呼吸おいてさらに続ける。

「別にこいつに情けをかけたわけじゃないです。これは俺の……エゴですよ」

『……そうか』

 陽さんは俺の言葉を受け、ほっとしたような、そんな感じの声を返してきた。

「そうですか、では……」

 一方のよーちゃんはというと、再度男の方に手を向ける。

「なっ、よーちゃん!?」

 先ほどの、冷酷な戦闘マシーンのような彼女の有様を見ていたため不安に感じたものの、彼女の手から白い粒子が男に流れ込み始めたのを見て、それは杞憂に終わった。

「私も……魚の小骨が喉に刺さったので」

「よーちゃん……」

『ヨウ……』

「さっ! 早く行きましょう! 早く上に行かないと!」

「あ、ああ!」

 よーちゃんに促されるまま、俺達はその場を後にした。


 5階から6階への階段は、さっきとは逆で4階への道が段ボールで塞がれており、一方通行にしか進めないようにされていた。

「まじで危ねえとこだったな……」

「本当にすみませんでした……」

 階段を上りながら、よーちゃんは将軍とキララさんに謝罪していた。

「流石に殺しはダメっしょ。まぁ分からなくもないけど、さ」

「はい……」

「ともあれ、間に合ってよかったね」

「だな。『人殺しの友達』を防止できて……何より」

 いつぞやの俺の言葉を引き合いに出しながら、2人は改めて安堵する。

「……面目無いです」

『……そうだな』

 そしてそれを聞いたよーちゃんと陽さんは、申し訳なさそうな声を発したのだった。


 正直、このリスクは想定して無かった。

 極限状態で勢い余って……というのは別におかしくないにもかかわらずだ。

 李緒さんから『相手が殺す気できていたら、絶対に躊躇っちゃだめ』と言われていたのに、だ。

(やっぱ全然覚悟できてねえじゃねえかよ。俺ぇ……)

 相も変わらず覚悟が足りていない自身に対する失望感と、先の光景に対するショックが抜けきらないまま、俺は階段を1段1段登って行った。


 6階から7階への道も塞がれていたため、6階のフロアに入る。

「何だこりゃ……」

 6階のフロアには無数の白い仕切りが設けられ、まるで迷路のようになっている。

 6階から7階へはエスカレーターで上れるはずだが、肝心のエスカレーターを確認できない。

「まるで迷路だな……」

 仕切りに氷弾を放つもびくともしない。

『エスカレーターへの道を探すぞ!』


 ……意気揚々と探索を始めるも、フロアはかなり小さい。

 エスカレーター自体は、すぐ見つけることができた。

「あ、ちょっと待って!」

 早速駆け上がろうとしたところで、キララさんのストップが入る。

「どうした、キララ? ……ん?」

 キララさんはどこかへ駆けていくと、1分も経たない内に戻ってきた。

「どうしたキララ、何かあったか?」

「ちょっとね……避難路確認してきた」

「避難路?」

「ほら、1階があの様子だし、連中に気付かれないよう、別に出られるところがないかなって。一応あったから、後で案内する!」

 ダッシュで走って見てきたのだろう。キララさんは少し息が上がっていた。

「ああ……ありがとキララ!」

「ふふっ! さ、行こっか!」

「おうよ!」

「はい!」

『だな!』

「ああ!」

 俺達は6階のエスカレーターから、組長の部屋がある7階へと駆け上がった。

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