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対ヤバい奴ら編⑩『対決! 高下 李緒(後編)』

対ヤバい奴ら編⑩『対決! 高下 李緒(後編)』

「たぁーっ!」

 挑発する仕草を取った高下は、直後地面に右手をかざし、地面に赤いサークルを多数出現させる。

「ちっ!」

 すかさず回避行動をとり、そこから現れる黒い爆炎を避けた。

「っとっと……」

 そして攻撃の直後、高下の身体がよろけ……。

「……」

 そこを見計らったよーちゃんが、無言で地面に両手をかざす。

「っと!」

 高下の直下に地割れが出現し、奴の膝から下が地中に埋まる。

「よっしハマった! ぬおーっ!」

 その様子を見た将軍がオレンジ色の炎を纏った拳と共に高下に突貫!


「……ふっ」

 だがその直後、突如強い風が高下のいる場所から吹いた。

「うおぁっ!」

 突然の強風は将軍の手を止め、彼を思わず後方に飛び退かせる。

「晴斗! ……っ」

 そして刹那、高下の身体は上方向に浮き始めると、そのまま地割れを抜け出し、風の力でふわふわと浮遊する。

 同時に奴から吹く風が、一層強まった。

「ふーん、ちゃんと見ているのね。感心感心。そうやって相手の行動を見るのは大事よ?」

 風が吹き荒ぶなか、李緒は火傷を負った手で拍手する。

「でも……『ワザと作った隙』だからね、あれ」

 だがその言葉には、挑発とも煽りともとれる色が混ざっていた。

「あいつ……」

 よーちゃんの低音ボイスが耳に聞こえた直後、地割れが奴の下に発生するも、宙に浮いていたため案の定当たらない。

「地割れはもう効かなそうですね。完全に遊ばれてたって訳ですか」

「あの浮く魔術……アタシが使ってた奴じゃん。腕輪も無しに、あんな長い時間ふわふわ浮くなんて……」

 女子陣2人はそれぞれ神妙な面持ちをしている。

「うーんどうすんだ? 同じ手は二度と通じねえってのは分かるが……碧! なんかいいアイデアねえか!?」

「……無い! とにかく、振り出しだ……」

 落ち着け。

 とりあえず、再度観察だ。

 そんな風に考えていると……。


「ちょっと、ボケっとしてる暇なんてないわよ? ……炎の力と、風の力を合わせて……はぁーっ!」

 高下は浮遊した状態で両腕を斜め上に掲げると、右腕から黒い炎を噴射し、左腕からは風を生み出す。

 その後両手を前方に合わせると、黒い炎と風が混ざりあい……巨大な黒い炎の竜巻が横向きに発生!

「はぁーっ!」

 そしてそのまま、俺たちのいる方目がけ薙ぎ払うように両手を動かす。

 当然、炎の竜巻もそれに合わせて動き、俺達から見て右側から熱気と共に襲い掛かってきた。

「やっべ! 避けろ皆!」

 位置関係としては竜巻に近いのは俺と将軍で、よーちゃんとキララさんはまだ時間的猶予があった。

 熱気が顔に当たって、思わず両手で顔を覆ってしまう。

「いや避けろったって! てーあっ!」

 竜巻に一番近い将軍は俺の言葉に苦言を呈すると、右手から赤いサークルを生み出し、そのまま右拳に橙色の爆炎を纏いながら漆黒の竜巻に殴りかかる!

「確かに! ぬぉぉぁぁぁぁ!」

 将軍の意見はごもっともなことで、離れている2人はともかく、俺達2人が今から間近に迫る竜巻を避けるのは厳しい。

 将軍の苦言でそのことに気付いた俺も、彼に加勢するように右手から青いサークルを生成し、巨大な氷塊交じりの吹雪を同様に黒い渦に放つ。

 そして先に将軍の拳が、あらん限りの爆炎と共に竜巻にぶつかるも、黒い渦はびくともせず……。

「ぐぉぁっ!!!」

 刹那、爆発が発生!

「ぐぅっ……」

 黒い煙が発生したかと思ったら、そこから将軍が盛大に後方に吹っ飛ばされていき、地面に転がる。

「将軍!」

「晴斗!!!」

 続いて俺が放った氷の魔術が竜巻にぶつかるも、竜巻の勢いは止まずに吹雪が押し返され、やがて……。

「ぬおぁーっ!!!」

 白い爆発が発生し、身体は後方にふっとばされ……。

「ぐぁっ……」

 気が付くと、身体は地に伏していた。

「連君!」

「連夜!」

 陽さんとよーちゃんの声が聞こえる中、身体に熱気が当たる。

 焦げ臭い匂いが鼻に入り込む。

「そんな1人1人バラバラに放つだけじゃ、これは打ち消せないわよ~?」

 うつ伏せのままよーちゃんとキララさんの方に頭を向けると、今まさに彼女達の方に黒い炎の渦が迫っているのが見えた。

「ヨウちゃん!」

「えっ? うわっ!」

「ふんっ!」

 先の俺達2人の失敗から相殺するのは無理と見たのか、キララさんは咄嗟に近くのよーちゃんをお姫様抱っこすると、そのまま真下に勢いよく風を噴射!

 身体を宙に浮かせると、そのままに移動して炎の渦を飛び越えようとする!


 しかし、炎の渦はそれを追尾するように上方へと動き……。

「なっ!?」 

 そしてそのまま2人にクリーンヒット!

「ぐぁぁぁ!」

「んあーっ!?」

 爆発と共に2人は公園の端の方へと吹き飛ばされ、そのまま地面に横向きに叩きつけられた。

「よーちゃん! キララさん!」

「キララ!」

「はぁ……」

 俺達が動揺している最中、高下は呆れた様子でため息をつく。

「黙って避けさせる訳ないじゃん。そんな小細工に頼ってないで、正々堂々向かってきたら?」

「グッ……」

「っ……」

 先に起き上がったよーちゃんは、自分とキララさんに治癒魔術を掛ける。

 2人がゆっくりと起き上がる中……。

「炎の力と、風の力を合わせて……はぁーっ!」

 高下は再度両手に力を集め、今度は2人がいる更に奥から炎の竜巻を横向きに生み出す。

 そして2人のいる方から、俺と将軍のいる方に向かって薙ぎ払い始めた。

「がぁっ!」

「チィッ!」

 立ち上がったばかりの2人は即座に応戦しようとするも間に合わず、再度直撃を食らって吹き飛ばされる。

「畜生! ぬおーっ!」

「てあーっ!」

 そしてその様子を見ていることしかできなかった俺達は、半ばやけっぱち気味に2人がかりで魔術を放つ。

 だがそんな心持で放った攻撃が通ずる道理もなく……。

「やっぱり駄目だーっ!」

「グワーッ!?」

 案の定再度攻撃をまともに食らってしまった。

「ちっ、く……」

 服が焼け飛び、身体がひりひりと痛む。

 治癒魔術を掛ける。……痛みが消える。

 将軍にも、同様に掛ける。

「さっきも言ったけど、せっかく人数いるのに、チームワークも連携プレイもない訳? 私にあっさりやられるような有象無象でしかないと言うなら、とんだ期待外れね」

 高下はやれやれというポーズをとる。

(何か、何か……打開策は無いのか?)

 さっき同様、観察を試みる。

「炎の力と、風の力を……」

 高下は再び左右の腕に炎と風を生成し……。


(……ん?)

 そういえば、さっきも……。


『炎の力と、風の力を合わせて……はぁーっ!』


『炎の力と、風の力を合わせて……はぁーっ!』


 さっきも、その1つ前でも同じ言葉を言っていたような……。

 というか、わざとらしく攻撃を繰り出す前に律義に言っていたような……。

 

「な、なぁ碧……」

 ここで将軍が俺に声を掛けてくる。

「あいつ……さっきから同じことを何度も言ってねえか?」

「……」

 奇しくも同じことを考えていたようだ。

「確かに一字一句、同じ文言を繰り返していますね。あの技の発動に必要な条件、とか?」

 よーちゃんは首を傾げる。 

「いや、違うあれは……まさか! ねえ晴斗!」

「あん?」

「アタシの風の魔術にぶつけるように、炎の魔術を使って!」

「??? わ、分かった!」

 キララさんは何か掴んだのか、将軍に指示を飛ばす。

「合わせて……はぁーっ!」

 直後、再び黒炎の竜巻が横から薙ぎ払うように迫る。

「いっせーのーで、で撃ってッ!」

「分かった!」

「いっせーのーでッ!」

「てあーっ!」

 キララさんが合図と共に突風を召喚。

 そしてそれに合わせるように、将軍が炎を突風にぶつける。


 すると、突風に炎が吸い込まれたかと思うと、それらは1つに溶け混ざりあい……オレンジ色の炎の竜巻に変化!

 それは黒い竜巻とぶつかり合うと、爆風と共に互いを打ち消し合った!

「ん!? ……へぇ!」

 驚きの声が高下から漏れ出る。

「これは……! 連君! 私達も!」

「っ、了解……!」

 だが、これはチャンスだ。

「行きます!」

「「はぁーっ!」」

 すかさず俺達も、将軍達に習うように同じタイミングで魔術を放つ。

 すると吹雪と石弾が混ざり合ったかと思うと、それらは元の魔術とは似ても似つかない土と水が混ざった茶色い泥の波へと姿を変え、高下に迫った。

「ぐうっ!!!」

 浮かんでいる高下に波が直撃し、地に足着けていない奴は勢い良く流されていく。

 そしてそのまま高台にある公園の端から落ちかけるも、公園の端にあるフェンスによって、外への落下を免れた。

「へ……やるじゃない? タイミング合わせもなしに即座にやってのけた辺り……そっちの2人はやったことがあるみたいな感じね、『合体魔術』」

 足元の泥を踏みしめながら、口元から泥を拭い取る高下。

 彼女の服は茶色い泥があちこちに付着していた。


「『合体魔術』……か」

 さっきの泥の波は、キララさんと戦ったときにも見たことがあった。

 あのときは必死だったので特に気にも留めてなかったが、高下の言葉でそれがどういうものなのかが分かった。

 異なる属性の魔術をタイミングを合わせて組み合わせることで、炎の竜巻や泥の波といった、通常とは違う効果を得る。

 それが奴の言う『合体魔術』なのだろう。

「連携プレイってのは、そういうことか?」

「ふむ……。ただ魔術を合わせるだけじゃなくて、タイミングが大事みたいですね。タイミングが合わないとああはならないと。なるほど……」

 よーちゃんも理解したのだろう。

 神妙な面持ちで考え込むような仕草をしている。

「んんっ? キララに言われた通り動いたが……あの竜巻を潰したうえに、2人の攻撃が通った……? どういうことだ……?」

 俺とよーちゃんがそんな感じな一方で、事の次第を把握できていない将軍。

「えーっと、アイツのあの攻撃は合体魔術……2つの魔術をタイミングよく合わせないと打ち消せないってこと!」

 困惑する彼に、キララさんが説明した。

「2人て息を合わせないと駄目ってことか?」

「そう!」

「なるほど理解した!」

 キララさんの説明でようやく納得がいったようだった。


「んじゃ、これならどうかな!?」

 将軍達がやり取りを終えたのと同じタイミングで、高下は今度は前振りなしに炎の竜巻を生成。

 今度は俺とよーちゃんのいる方から将軍・キララさんのいる方へ薙ぎ払うように動かしてきた。

「また来ました!」

「よーちゃん!」

「はい!」

「「はぁーっ!」」

 すかさず2人でタイミングを合わせて魔術を放つ。

 先ほどと同様に氷の魔術と岩の魔術は合体して泥の波へと姿を変え、黒い炎の渦を打ち消す!

「……」

 だが、その様を見た高下の反応はというと、不気味なほど静かで――。

「今度はこっちが行くぞ! キララ!」

「うん! せーので……うわっ!?」

「うおあっ!?」

 ――すかさず将軍とキララさんが炎と風の合体魔術を高下にお返ししようとするも、その瞬間、高下は突如2人に対し突風をぶつけてくる。

 不意の強風を顔面に受け、攻撃の手が止まる2人。

「なっ、妨害された!?」

 よーちゃんの動揺の声が聞こえたかと思うと、次の瞬間。

「ふんっ!」

 高下は今度は唐突に火球を生成し、放つ。

 表面から見た目からは考えられないような高温の黒いボールは俺とよーちゃんの間をすり抜け……その行き先に目を向けると、隅っこに陣取る陽さんの姿があった!

「なっ! 危ない陽さん!」

「っ!? ちっ!」

 自分の方に火球が飛んできていることに気付いた陽さんはその場から真横に走り出すも、火球は彼女の後方に着弾し爆発!

「ぐうっ! がぁっ……」

 爆風によって吹き飛ばされた陽さんは、コンクリ造りの地面にべちゃっとうつ伏せに叩きつけられた。

「っ……」

 両腕によって顔面が叩きつけられるのは何とか避けたようだが、痛々しく身動きが取れないようだった。

「オリジナル!」

 即座によーちゃんが陽さんの下に駆け寄ろうとするも……。

「そっちに気を取られている場合?」

 高下はよーちゃん目がけてもう1発の火球を放つ。

 それを見た俺の脚は、咄嗟に動き……。

「っ……!」

 青いオーラを纏いながら、サッカーのゴールキーパーのように身体が横に飛ぶ。

 そして氷を放った右手で火球を弾こうとするも――。

「ぐおあっ!?」

 手が触れた途端、黒い球体は破裂し、右手首から先が、炎に包まれる。

「ぐぅぅぅ……」

 左半身が地面に着地するのとほぼ同時に右腕に力を込める。

 右手の炎は吹き出した氷によってかき消された。


「おいてめえ卑怯だぞ! 陽さんは何の関係もねえだろ!」

 不意の攻撃の一部始終を見ていた将軍は、高下に苦言を呈する。

「あいつワザと狙ってるよ……晴斗。隙を作るために」

「なんだと……」

「あら? 使えるものは何だって使うのが戦いの基本よ? 更に言えば、そこでぼさっと立っている方が悪いわね」

 高下は悪びれる様子もなく、陽さんの方を指差すと、更にこう続けた。

「自分が安全な場所で高みでいられるなんて思わないこと、ね!」

 そして指差した右手から、再度バスケットボール大の火球を生成し、発射した。

「あっ! また!」

「そっちへ行かせねえぞ! ふんっ!」

 だが、3発目の火球は、将軍の火炎放射によって高下の方へと撃ち返される!

「おっと……」

 高下は自分の方に飛んできた火球を少ない動きで躱すと、そのまま立て続けに火球や空気弾を俺やよーちゃん、陽さんのいる方に飛ばす。

「時間稼ぐよ! 晴斗!」

「おうよ!」

 そしてそれらを将軍やキララさんがカバーする最中……。

「連君っ……。オリジナル、今治します!」

「うぅ……す、すまない、助かる……」

 よーちゃんの声が聞こえ、陽さんが呻く声が聞こえた。

「ちっく……」

 そして、己の視点を右手に移すと、手首から先の皮膚が全て剥けてしまっていた。

 手の皮膚の色は所々赤いものの、大半が不気味なほど白く変色し……痛みはおろか、全くと言っていいほど感覚がない。

「ぐ……」

 かなりヤバい状態であると直感した俺は、無意識に左手で右肘を握り……力を込める。

 すると白い光が左手を通して右手の方に流れていき……右手の皮膚は瞬く間に修復され、元の色と感覚を取り戻した。

 この間、僅か十数秒程度だろうか。

「ふんっ!」

「あっ」

 その直後、将軍とキララさんのブロックをすり抜けた火球が1個、再度陽さんとよーちゃんの方に迫るが……

「させっか、ぬおーっ!」

 今度は両腕から生成した青いサークルから放たれる氷塊によって火球を弾き飛ばし、あらぬ方向へと吹き飛ばすことに成功した。

「た、助かった……すまない、ヨウ」

「いえ……どういたしまして」

 ここでようやく、陽さんの治療が完了し、2人が立ち上がった。

「2人とも、大丈夫っすか!?」

 大丈夫ですかと言おうとしたが、勢い余って舌がもつれた。

「こっちは大丈夫です! 今戻ります!」

「了解! その、陽さん! とにかく上手いこと逃げてください!」

「む、無茶を言うが……仕方ない! 分かった!」

 その言葉と共に陽さんは再び移動を始め、よーちゃんは俺達の方に走って戻る。


「ふぅ……というかさ、さっきと同じのじゃ芸がないわね〜」

 一通りの攻撃を終えた高下は一息つくような仕草をしたのち、飽きたと言わんばかりのつまらなさそうな声色で俺達4人に話しかけてきた。

「んだと!?」

「一つ覚えの芸じゃ、さっきみたいに見切られるわよ? はぁーっ!」

 高下が右手を真下に向けると、地面に無数の赤いサークルが出現する。

「避けろ! みんな!」

 赤いサークルとそこから出現する黒い爆炎を避けていると、俺と将軍、よーちゃんとキララさんが近い位置に集まる。

「……」

 赤いサークルが消えたと同時に、高下は無言で炎の竜巻を放ってきた!

「行くぞ将軍! 俺が合わせる!」

「ああ! せーの!」

 ちょうど近くに将軍が居るため、2人でタイミングを合わせて魔術を放つと……。

「てーあっ!」

「はぁーっ!」

 俺の手から放たれた白い吹雪と、将軍の橙色の火炎放射が交錯した瞬間、それらは巨大な水の球体に姿を変える。

 直後、透明な球体はぐつぐつと水蒸気を放ちながら沸騰したかと思うと、瞬く間に大きな音を発しながら爆ぜる。

 その激しい爆発の衝撃によって、黒い竜巻が打ち消される!

(水蒸気爆発……)

 炎と氷、相反する属性を合わせるとどうなるか気になってはいたが、どうやらこれでも「合体魔術」が成立するらしい。

「ナイス2人とも!」

「今度は私達の番ですね」

 俺達の様子を見たよーちゃんとキララさんが、高下目がけて合わせて魔術を放つ。

 すると岩塊と突風がぶつかった瞬間、それらは巨大な1つの岩に変化。

 浮遊する丸い岩は後方から風を吹き出すと、衝撃波を出しながら爆速で高下に迫る。

「ふんっ!」

 だが弾丸のような速さで飛ぶ巨岩は、高下が咄嗟に放った黒い炎の竜巻によって打ち消される。

 この間1秒にも満たず、正直何が起きたのか一瞬分からなかった。

 甲高い破裂音が響いたかと思うと、炎の竜巻の残滓が空高く伸びていくのが見え、それでようやく事態を把握したのであった。

「は……?」

「ちょ、あいつあれ連発できんのか……?」

 それまで両手の炎と風を合わせる仕草と共に黒炎の竜巻を放っていた高下であったが、今の巨岩の砲弾を打ち消したとき、そんなポーズをとる間もなかったはずだ。

 つまるところ、あんなポーズを使わずとも合体魔術は使用可能ということで……手の内を隠していたという訳か。

「ふう……」

 高下は神妙そうな面持ちをしながら、右手で額の汗を拭っている。

「将軍! 今度は俺達で……」

「お、おう!」

 その隙を逃さないよう、2人で合体魔術を放とうとするが……。

「っ……」

「なっ!?」

 高下の右手が、目に留まらぬ速さで真下に向けられる。

 刹那、赤いサークルが現れ、再度の回避を余儀なくされる。

「またかよ!」

 爆炎を避けたことで将軍と分断され、合体魔術のチャンスを逸する。

「また分断された……」

 しばらくすると、今度は俺とキララさん、将軍とよーちゃんが近い位置になる。

「んん? これってまさか……」

 狙いすましたかのように、さっきとは違う組み合わせ。

 そして「さっきと同じのじゃ芸がない」という高下の言葉……。

「今度は晴斗がヨウちゃんの近くに……。というか、炎の出方からして、誘導された?」

 俺が考えていたことを、キララさんが代弁してくれた。

「まさか、これでやれってことか……?」

 合体魔術後、まるで仕切り直しのようにサークル攻撃を繰り出していた。

 それは散発的にサークルを出していたのではなく、意図的に違う組み合わせができるよう誘導していたのだとしたら。

「そーらっ!」

 そんな風に考えている最中、高下が右手から炎の竜巻を放つのが見える。

 やはり、両手は必須では無いらしい。

 熱気を纏った黒い渦は、よーちゃんと将軍のいる方からこちらに向かってくる。

「っ、一橋君! 私にタイミングを合わせて!」

「わ、わかった!」

 よーちゃんの言葉で、将軍が構え、そして……。

「はぁーっ!」

「てーぁっ!」

 よーちゃんが放った石弾と、将軍の火炎放射が混じり合う。

 するとそれらは急激に地面に落ちていき……。

 地面に着弾したところから地割れと共に溶岩が噴き出す!

 真っ赤な溶岩の火柱は炎の竜巻のある方向に次々と現れ、やがて溶岩の噴出と竜巻が衝突し、互いを打ち消した。

「アタシ達も行くよ! ミドリ君!」

「はい!」

 初めての組み合わせであったが、キララさんの仕草をしっかり見て……。

「はぁぁぁぁ!」

「イヤーッ!」

 シャウトは若干ずれたものの、放たれた吹雪と突風はほぼ同じタイミングで高下の方へと飛んでいき、途中で合流!

 すると2つが合わさったところから、破裂音と共に閃光が発生!

「ッ!」

 閃光が現れるのとほぼ同じタイミングで、高下は身体を俺達から見て左の方へとずらす。

 まさに瞬時に横移動したと言うべきその刹那、奴の右側を閃光から現れた電撃が掠める。

 そして僅かのタイミングで外れた電撃は……彼女の後方にぽつんと落ちていた腕輪に命中!

「あ、ヤバ……」

 電撃を食らった腕輪に無数のクラックが入り……。

 瞬く間に、黒煙が勢いよく吹き出し始める。

「は? え?」

 俺が困惑の声を上げる間もなく、周囲の空間が歪んでいき……。


 気が付くと、俺達は現実世界に―――。

「な、のわーっ!?」

「うわっ?!」

「キャッ! なっ!」!

「うぉぁーっ!?」

「っ?! ぅ……」


 ――足元に地面は無く、遥か下には駿河湾と愛鷹山、そして伊豆半島が見えている。

 現実世界に戻ったと同時に俺達は、遥か上空に放り出されていた。

 高所の冷たい風が身体に突き刺さり、加えて何だか息が苦しくなる。

「のわっ、駄目だ落ちる! しかもさむーっ!」

 将軍の声が聞こえる中、地面めがけて自由落下していく。

「ちぃっ!」 

 重力に逆らうべく、真下に氷の魔術を吹き出すも……。

「ぬわーっ!」

 噴射した吹雪は瞬く間に手や身体に纏わりつき、両腕が氷に包まれて動かせなくなる。

 さらに悪いことに、噴射の勢いのままに身体が錐揉み回転しながら落下を始め、制御ができない。

(う、ぐ、い、意識が……)

 頭が下になったことに加え、凄まじい回転による遠心力が頭部にかかり、意識が……。


「ど、どうすりゃええんだ! あばばばばば……」

 頭痛と共に意識が薄れる中、将軍のパニくる声が聞こえる。

「落ち着いて! 落ち着いて晴斗!」

「キ、キララ……」

 だが、そんな中にあって冷静だったのはキララさんだった。

「晴斗! 今からアタシの言う通り動いて! まず、魔術で動いてミドリ君を助けてっ!」

「わ、分かった!」

 炎が噴き出す音が聞こえたかと思うと、身体の回転が止まる。

 頭の向きが、真下から真上に戻る。

「う、ぐ……」

 身体に治癒魔術を掛けながら目を空けると、俺は将軍に両腕でお姫様抱っこされている。

 そして足元を見ると、将軍の両足からものすごい勢いで炎が噴き出し、落下スピードが落ちていた。

「しっかり掴まってろ!」

「サンキュー……将軍……」

 平時なら、お姫様抱っこは恥ずかしいだろう。

 だが正直、そんなことを言っている余裕は微塵もなかった。

「オッケーそのまま……足元に向かって目一杯魔術炊いて、できる限り落下の勢いを削いで! 身体のバランスにも気をつけて!」

「りょ、了解!」

 キララさんの方を見ると、彼女はよーちゃんを抱きかかえ、両足から突風を吹き出すことで自由落下に抗っていた。

(よーちゃんは……キララさんが助けたのか。……陽さんは!?)

 顔を動かし陽さんの姿を探すと、将軍同様脚から黒い炎を吹き出している高下が抱きかかえているのが見える。

 だが、抱きかかえられている陽さんはぐったりとした様子で目を閉じていた。

「この子は大丈夫! 気を失ってるみたいだけど……。それよりも着地まであと十数秒よ! 構えなさい!」

 高下は俺の不安を払拭しつつ、将軍とキララさんに注意を促した。

 見ると、真下には公園らしき空き地とそれを取り囲む住宅街が迫っている。

「ミドリ君! 冷気で2人の炎が飛び散らないよう抑えて! このままだと着地できても辺り一面火の海になっちゃうからっ!」

「わ、分かった! うおーっ!」

 地面まで残り僅かのタイミングでのキララさんの指示を受け、俺はあらん限りの力で吹雪を真下にばらまき、炎が飛散しないよう努めた。

「ウォーッ!」

「ハァーッ!」

「-っ!」

 2人分の炎に吹雪が当たり、発生した湯気が視界に入った数十秒後……。


「う、うーん……」

「陽さん!」

「こ、ここは……」

 よーちゃんに抱きかかえられながら、陽さんが目を覚ました。


 単刀直入に言うと、将軍達の空中機動が功を奏し、俺達は無事に地面……現実世界の岡宮2号公園に着地した。

 それはさながら宇宙ロケットの発射を逆再生したかの様相で、着地の瞬間、公園には凄まじい勢いの突風と、炎が飛び散らないよう吹雪を撒いたことによって生じた膨大な量の湯気が辺り一面に散乱した。

 冬の乾燥した快晴から一転、公園から生じた季節外れの濃霧は、まるで火山の噴煙や火砕流か何かのように凄まじいスピードで高台から坂をなだらかに下っていき、岡宮の住宅街を瞬く間に飲み込んでいく。

 そして白い景色が新幹線の高架を越えて沼津の街の方へ流れていった後には、朝露が降りた後のような湿った光景が残ったのだった。


「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……」

 地面激突の危機を間一髪で逃れたものの、精神的なショックは思いのほか大きく、俺は将軍によって地面に降ろされてからもしばらく四つん這いになり、まるで犬のようにせわしなく息を吐いていた。

 そもそも、高所は苦手なのだ。

 本当に最悪な目にあった。

 次第に息が苦しくなってきたので、身体に再度治癒魔術を掛けた。


「あ、あ……危うく死ぬとこだった……」

 将軍は四つん這いにこそなっていなかったものの、身を震わせていた。

「スカイダイビングは初めて経験しましたが、パラシュート無しというのは酷いですね。……2度とやりたくない」

「だな……」

 よーちゃんは肩で息をしており、陽さんも大半気絶していたとはいえ、呆然とした様子だった。

「いやー、マジでホント。しかもめっちゃ寒かったし、息苦しさもあったし、陽ちゃんが気絶したのもさもありなんって感じだね。晴斗が気絶してなくて助かったわー……」

 落下死の危険もそうだが、危うく高山病や低体温症になるところだった。


「……さっきの称賛は撤回ね。元いた場所に戻る機能が再現できなかったから、異空間作成に使った座標に戻ることで代用してるのはまぁ分かる。でも高度軸のズレが致命的すぎるわね」

 俺達がそんな様子の中、高下は澄ました様子で身体の埃を両手で叩いて落としている。

「富士山の見え方と落下時間から見るに、ざっと3000mほど? もしこれがもっと低い位置や地中に放り出されていたら……」

 そんな高度に、いきなり放り込まれたのか。

 確かにこれが数十メートルだったら、構えを取る間もなくぺちゃんこだったに違いない。

「桜花には言っとかないと、っててて……」

 そこまで言ったところで、高下が急に地面に膝をついた。

「あっ……」

 見ると、身体のあちこちから血が染み出し、服のあちこちに赤いシミができていた。

「あの、どうぞ……」

 そんな痛々しい様子を見た俺は彼女に手を向けようとするも、よーちゃんに先を越される。

「おっ、ありがとね〜、助かるわぁー」

 よーちゃんの治癒魔術は高下のみならず、彼女含めた6人の傷を癒していった。

「……」

 本来はここで、真っ先に出ていくべきだったのではないか。

 そんな思いが脳裏によぎり、喉の奥に何かが引っかかった気がした。

 だが一方で、先程のショックもあって出られる状態ではなかったのも事実だった。


 しばらくするとよーちゃんによる治療が終わり、高下が立ち上がる。

 傷も血痕も、すっかり無くなっている……服はボロボロのままだが。

「えーと、ね……。その、ちょっと最後想定外のことが起きたりしたけれど……」

 高下は気まずそうな顔をしながら、顎に手を当てる仕草をするも――。

「結論から言うと……合格! 及第点! 君達のその力があれば、大丈夫。黒幕にも十分対抗できるはずよ。この私……『黒い悪魔』(ディアボロ・ネーロ)が保証するわ」

 ――すぐに明るい声色で、俺達の方にサムズアップした。

「でぃ、ディア……何だ?」

「『黒い悪魔』(ディアボロ・ネーロ)。黒い悪魔。こっちの呼び名の方が、うちの業界では通りがいいのよね。覚えといて頂戴な」

「は、はぁ……」

 突然聞き覚えの無い通り名を名乗られ、動揺せずにはいられなかった。


「さて、ちょうど良い所に出たことだし、付いてきなさい」

 だがそんな俺の様子を知ってか知らずか、高下は突如すたすたと公園の外へと歩き始める。

「どこへ行く? 話は?」

 陽さんが高下に問いかける。

「んと。私のクライアントから用意された隠れ家に案内するわ。話については内容が内容なんで……誰が盗み聞きしているか分からないようなここじゃなくて……そこでしましょう?」

「……分かりました」

 陽さんの同意に合わせるように、俺達は岡宮2号公園を後にし、高下について行ったのだった。



 今回の戦い、完全に高下……李緒さんの掌の上だった。

 後半なんて、完全に合体魔術のインストラクションというか、チュートリアルみたいな感じだった。

 なにせこっちはここまでの一連の事態で息が上がっているのに、向こうは戦いのときもそうだったし、その後の予定外のトラブルも含め一切動揺せず、息一つ上げていない。


 彼女は歴戦の猛者で、俺とは見えている世界が違っている。

 まさに実力の違いであり……「格」の違いでもある。

 フィクションでよく描かれるそれらを……俺はこのとき初めて、身をもって理解した気がした。

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