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対ヤバい奴ら編⑨『対決! 高下 李緒(前編)』

李緒が提示した条件……。

それは力を示し、自分に勝利すること。

未来を切り開くべく、連夜達は戦いに挑む!

対ヤバい奴ら編⑨『対決! 高下 李緒(前編)』

「さーて、どうする? そっちは作戦考えてるの?」

 高下は右腕を前に突き出すと、そのまま手前にクイクイする動作をしながら、俺達を煽る。

 即座に攻撃に移ることなく、こちらの出方を見て対応するつもりであることが態度や声色から見て取れた。

(前は2人がかりで負けたんだよな……)

 奴が待ちの姿勢を取っているのをいいことに、俺は周囲を見回し、現状の把握に努める。


 まず、俺と将軍が奴に一番近い位置にいて、俺の後方によーちゃんがいて……。

 そして将軍の後方……よーちゃんよりも遠い位置にキララさんが構えている。

 そして陽さんはというと、俺の後ろ側の公園の端っこ……奴から最も遠い位置にしゃがんで隠れていた。


「それにしても、補助魔術、ちゃんと掛けてるわね? 私の忠告、ちゃんと守っているようで何より何より〜」

 高下 李緒は仰々しく両手で拍手をしている。

「けっ……」

 小馬鹿にしているとしか思えないような声色を耳にして、思わず悪態をついてしまう。

「そして、そっちの2人も使えてるのね?」

「「……」」

 奴は将軍とキララさんを一瞥するも、2人は無言のまま返事をしない。

(あれも補助魔術の一種、だよな?)

 将軍が使っている赤いオーラはあの女と同じもので、効果はおそらく、攻撃力の強化。

 キララさんの緑色のオーラは……この前やたらと攻撃を回避していたことを考えると……攻撃、防御ときて、素早さあたりの強化だろうか?

「でも、あの子1人だけ何もないってのはあんまりなんじゃない?」

「あん?」

 高下はよーちゃんの方に顔を向ける。

 唐突に再度奴に話しかけられ、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

「それ、他の人にも掛けられるわよ?」 

「何っ!?」

「あら? 知らなかったの? 補助魔術は自分だけじゃなく他の人にも掛けられるのよ? ほらっ!」

 奴が俺に手をかざすと、己の身体に将軍や彼女と同じ、赤いオーラが現れる。

 そして心なしか……力が湧いてくるような感覚が生まれた。

「こいつは……」

「あの子……『半身』ちゃんなんか、何の強化も無しに戦わされてて可哀想じゃない?」

「っ……」

 高下の視線に釣られて、思わずよーちゃんの方を向いてしまう。

 確かに、彼女だけ何のオーラもない状態なのは、言われてみればそうである。

 思わず、気まずい気持ちになるも――。

「連君! 私は気にしないでください! それよりさっきかけたもの……何かの罠かもしれません! 注意して!」 

「っ……」

 よーちゃんは俺の視線に気付いた途端、即座に俺に向かって注意を促してきた。

「ヨウの言う通りだ! もう戦いは始まってる! 奴のペースに乗せられるな!」

 さらに後方からも、同様に注意を促す声が聞こえる。

「わ、分かった! よーちゃん! 陽さん! その……ありがとう!」

「「っ、どういたしまして!」」

 よーちゃんと陽さんの言葉を聞いて、気まずい気持ちを何とか頭から追い出した。


 自分だけ補助魔術を掛けているのは正しいのか。

 防御力強化の補助魔術の有用性を身を持って感じている。

 それ故に、奴の言い分は正しいと俺も薄々感じてはいた。

  

 だが、やり方を知らない現状は仕方ないと、その可能性を頭から追い払っていた。

 奴の言葉を聞いて俺が動揺したのは、そのことを否応が無しに感じさせられたからだ。


 一方で2人の言う通り、彼女の言い分をまだ素直に信じてよいものかどうかも、不明だ。

 自分の話に乗せてペースを掌握すること自体が目的の可能性だってある。

 わざわざ俺に補助魔術を掛けてきたことだって、その一環ではないか?

 ……疑心暗鬼を生み出すことが目的ではないか?


 ――とまぁ、そんな風に俺が色々と逡巡する中……。

「あーもうしゃらくせえ! おれがまず行く! はぁーっ!」

 蚊帳の外に置かれていた将軍が、しびれを切らしたのか奴めがけて攻撃を開始する。

 右腕に炎を纏い、そのまま横から高下に殴りかかっていく。

「あっ!? 晴斗!? ……仕方ないね! アタシも!」

 キララさんは将軍を諌めたものの、内心は彼と同じだったのだろう。

「ハァーッ!」

 将軍の突進に呼応するように右腕から空気弾を発射した。

 ……正直、深く考えずに行動に移れる2人を、この時ばかりは羨ましく思った。

「とおぉりゃーっ!」

「ふんっ!」

 将軍の炎の拳を、高下は軽々と右手で止める。

 遅れて飛来してきたキララさんの空気弾も、左手から無数の黒い炎弾を放ち、次々と撃ち落とす。

 ガスコンロに火がついたときのような「ボッ」という音が絶えず響いている。

「ちっ!」

 将軍の焦る声が聞こえる。

 見ると、黒い炎で覆われた右脚の回し蹴りが飛び、それを将軍が後方に飛び退き回避していた。

 蹴りのスピードは本当に一瞬で、俺だったら多分対応できていなかっただろう。

 だが将軍は、咄嗟に対応してのけた。

「へぇ。今の避けるんだ?」

「けっ! ざけやがって! てーあっ!!!」

 将軍は返す刀で今度は両腕を横に突き出す。

 そして腕を横向きに回しながら、前と後ろの互い違いに炎を噴射! 

 その勢いを利用し、高速で奴目がけて回し蹴りを繰り出す!

 だが加速を付けた一撃は、またしても高下の右手に止められ……。

「我流っぽいけど、悪くない踏み込みだね。……戦い慣れてる感じ?」

「ふんっ、生憎喧嘩は慣れもんで、ね!」

「でも、甘い!」

「うおっと!」

 すかさず、カウンターの回し蹴りが飛ぶ。

 こちらも避ける将軍。

「そーらっ!」

 だが高下はそのまま左腕から炎を噴射!

 さっき将軍がやったように炎の勢いで身体を回転させ、黒い炎を纏った右拳を将軍にぶつける。

「ぐうっ!!!」

 蹴りから遅れてやってきた黒炎の拳が将軍の身体を掠った瞬間、爆発音と共に将軍は後方に吹き飛ばされた。

「がぁっ……」

 将軍は腰から地面に落ちたらしく、その場で四つん這いになり、苦しそうに呻いていた。

「将軍!」

「「一橋君!」」

「晴斗ッ! チッ! このッ!」

 そしてここまでの間、キララさんは援護するように絶えず空気弾を連射していたが、それらは高下の身体の周囲から次々と放たれる、対空ミサイルの如き黒い炎弾の群れに迎撃され、彼女に届かない。

「ッ!!! これだけ撃ってるのに!」

「さっきからしょぼい弾幕ねえ……数も威力も中途半端。……飛び道具ってのはこうでなくちゃ、ね!」

 苛立つキララさん目がけ、空いた右腕から大きな炎弾を生み出し投擲する!

「おっとっと……」

 直径1メートル程度の黒い球体は空気弾の群れを次々と飲み込んでいき……キララさんの近くに到達!

「ッ!」

 キララさんは正面に緑色のサークルを召喚。

 つむじ風を放って黒炎弾にぶつけるも、直後大きな爆発が発生!

 相殺しきることができず、先程の将軍同様に吹っ飛ばされた。

「ゃっ……ぐぁッ……」

「将軍! キララさん!」

 キララさんは風で身体を浮かせて足から着地したものの、服は焼け焦げ、身体に火傷ができているようだった。

「私はまず2人を治します! 連君はあいつを引きつけて! はぁーっ!」

 よーちゃんが右腕を掲げると、即座に将軍とキララさんの足元に白い光が現れ、そこから白い粒子が2人の身体に流れ込んでいく。

「分かった!」

 俺は奴とよーちゃんの間に入り込み、彼女を庇うように立ち塞がる。

「あの子……いい技覚えてんじゃん!」

「あん?」

 すると高下はよーちゃんの治癒魔術を見るなり、まるで楽しそうな声を発する。

「補助魔術使えないみたいだしどうなのかなって思ったけれど……これなら全然楽しめそうねえ」

 言葉とは裏腹に、声色がどことなく小馬鹿にしているように聞こえた俺は……。

「っ! てぁーっ!」

 歯軋りしながら雹混じりの吹雪を奴にぶつけた。

「ちょっと〜! せっかく褒めてんのに水差さないでくれる~?」

 すると高下は不快げな声とともに、それを右手から繰り出した黒い炎で受け止めてみせた。


 そうして奴の右手が塞がったタイミングで2人が復帰し、俺の攻撃に加勢する!

「サンキューヨウさん! はぁーっ!」

 まず将軍が炎の拳で横槍を入れようとする。

「イヤーッ!」

 キララさんは緑色のサークルから巨大なつむじ風を召喚し、高下の方へ向かわせた。

「こんのーっ!」

 そして最後に、よーちゃんが石柱を召喚し、高下の頭上めがけて打ち下ろす!

「甘い甘い甘いっ!」

 だが高下は将軍の拳を左脚で止め、空いた左手で火炎弾を発射をしながら跳躍し、石柱を回避!

 そして発射された火炎弾によって、つむじ風を破壊!

 壊れたつむじ風からは無数の小さい炎弾が飛び散り、それらは攻撃していた俺達4人に次々と命中!

「ぐあっ!」

「のわっ!?」

「っと! ゃっ……」

「ッ……ったーッ……」

 つむじ風を逆利用された火炎攻撃によって、俺達は高下から距離を取らざるを得なくなった。


「動きがてんでバラバラで、連携が取れてないわね」

 炎弾に右往左往する俺達に対し、高下は両腕でやれやれと言った感じのポーズをする。

「今まではそんな出たとこ勝負なやり方で通用したのかもだけど、これから貴方達が相手にする存在はそんなごり押しじゃ通用しないわよ~?」

 その声色は、まるでこちらを審査してダメ出ししているかのようだった。

「せっかく4人もいるんだから、役割分担とかしたら? そーれっ!」

 直後、高下は巨大な黒い火球……直径2メートルはあろうそれを頭上に生成すると、俺達が居る方に投擲してきた。

「ちいっ!」

「っ!」

「うわっ」

「っ……」

 火球は丁度4人の中心点付近に着弾すると爆発し、爆風が発生!

 飛んで来るのを見て思わず飛び退いたものの、火傷しそうなほどの熱気が口元を覆う両手に当たった。

「おっとっと……」

「はぁーっ!」

 高下の足元に手を向け、力をこめる。

 すると奴の足元から氷が出現し、そのまま一気に膝上あたりまでを包みこんだ。

「なるほど、凍らせて動きを止めちゃおうって訳? 悪くないアイデアね」

 だが、足元の氷に気付いた高下は動揺する気配もなく……。

「でも、相性によっては効かない相手もいるわよ? 動きを止めること自体はいい線いってるとは思うけど……他に何かないのかしら?」

 そのまま身体のあちこちから炎を吹き出すと、瞬く間に氷を溶かしてしまった。

「っ! はぁーっ!」

 すると、その様子を見たよーちゃんは迷うことなく決断的な動きを図る。

 彼女が地面に手を当てた直後、すかさず高下の立っている地面に亀裂が入り始め……数秒も経たずに大きな陥没が発生!

 それは、そこに嵌れば間違いなく動きを止められるであろう地割れ攻撃。

 だが、高下はそんな不意の一撃を、地面の様子を一切見ずに跳躍し、あっさりとかわしてしまう。

「ぁ……」

「ふーん、半身ちゃん、いい技持ってんじゃん! ……さっきの治癒魔術といい、センスあるね?」

 そして子供を褒めるような声色で、よーちゃんに語りかける。

「っ……! 私は半身、じゃなくて、ヨウ、です!」

「そう?」

 不機嫌そうな声色から繰り出された2回目の地割れも、難なくかわされた。

「でも、狙いがバレバレっ!」

 高下が着地したところに3度目の地割れが襲いくるも、彼女は3度かわす。

 この間、一切身体のバランスを崩していない。

 いわゆる体幹が良いってやつか。

「相手の動きや癖、ちゃんと観察してる? そういう奥の手は隙を見て撃たなきゃ、今みたいに避けられるのがオチね」

「っ……」

 苛立ちとも納得ともつかないような声色を経て、地割れ攻撃は一旦終わった。


 その後も俺達は何度か魔術を食らわせるも、高下はそれらを容易く回避し、逆に火球や火炎放射、炎を纏った拳や蹴りで応戦してきた。

 入れ替わり立ち替わりで攻撃を繰り出すも、まるで手応えが感じられず、逆にカウンターの攻撃でそこそこダメージを受けてしまう。

 治癒魔術を使える人間が2人いることもあって立て直しこそできているものの、ダメージを受けているのはいつもこちら側であり、このままでは遅かれ早かれジリ貧になるのが明白だった。


 そんな最中、俺は高下の忠告通り、奴の動きに視線を向けていたのであるが……。


「てーあっ!」

「ん……」

「ぐうっ!」

 将軍の拳を、高下はやはりというか難なく受け止め、回し蹴りで返す。

 回し蹴りからは勢いよく黒炎が噴き出すと、将軍の拳のオレンジ色の炎をかき消し、そのまま爆発! 将軍の方が押し負け、仰け反ってしまった。


「ハァーッ!」

 一方、キララさんが遠目から放っている空気弾の弾幕は、高下の近くの虚空からバシバシと音を立てながら放たれる黒い炎弾によって、次々と撃ち落とされていく。

 高下の視点はキララさんではなく将軍の方を向いているのだが、キララさんの攻撃を全て読み切っているかのように、寸分の狂いなく迎撃されている。

「……」

 しかも、突如何の予兆もなく黒炎弾の弾幕が濃くなり始め……。

「なっ! ぐあっ!!!」

 逆にキララさんの方に炎弾が着弾し、こちらも将軍同様仰け反ってしまった。


(あの空中から魔術を放つやつ……一体どうやってんだ?)

 少なくとも、俺達が魔術を放つときは、手なり足なり身体の一部から放っている。

 それに対し高下は身体だけでなく、それ以外の場所からも魔術を放てるようだった。


 また、将軍との拳と足のぶつかり合いに割り込むように入ってきたよーちゃんの石柱攻撃はというと……。

「てーあっ!」

「……」

 将軍に回し蹴りを入れた瞬間にバックステップが入り、最小限の動きで難なく回避される。

「なっ、こんのーっ!」

「ふっ……」

 ムキになった彼女から放たれた石弾攻撃も、空いた左手から放った火炎放射で相殺され――。

「うわっ!?」

 刹那、入れ替わるように左手から次々と放たれた炎弾がよーちゃんに迫る。

 すかさず彼女は石柱を自分の前に召喚して回避したものの、炎弾の群れを防ぐのがやっとで、攻撃の手は中断した。


 そしてここまでの流れを見ていた俺はというと……。

「はあっ、はあっ、はあっ……」

 キララさんの空気弾の一部を迎撃していた炎弾の一部と、左手から放たれた炎弾の一部を何とか避け続けていた。

 何と、俺を狙ったものではないはずのそれらの一部は空中で軌道が大きく曲がり、あからさまに俺の方目がけて飛んで来ていたのである。

 当然、彼女は俺の方など1秒たりとも見ていない。

 にもかかわらず、俺の動きを読んでいるかのように攻撃が飛来してくる。

(ホーミングミサイルかよ……)

 黒炎弾自体は、本当に片手間としか言いようがないほど……1度に1〜2発程度しか来ていない。

 キララさんやよーちゃんに対する攻撃に比べれば、その密度は微々たるものと言える。

 だが、1つ避けるとすぐ別方向からもう1つ飛んでくることの繰り返しで、密度に反して休む隙が全くと言っていいほど無かった。


(ちっ……観察しろとは言われたが、きっちぃ……)

 ここまでで分かったことは、まず奴が俺達の攻撃を最小限の動きだけですべて捌いていることと、こっちに主導権を握らせないよう、休む間もなく何かしらの攻撃を繰り出して来ている、ということくらい。

 更に耳を澄ましてみて分かったことだが、俺達の息の音が聞こえた一方で、奴の息の音がまるで聞こえてこない。

(向こうは余裕そうだな……)

 攻撃のシャウトや、俺達の息遣いが虚しく聞こえている……。


 だが、そんな間髪なき攻撃の中、途切れ途切れで観察を続け……ようやく糸口らしきものが視界に映る。

「これは! おれが使ってた奴!」

「みんな! 離れて!」

「あっぶね!」

「ちっ! 無茶苦茶ですね!」

 それは高下が、以前将軍が使用してきた技……地面に無数の赤いサークルを出現させ、そこから爆炎を放つ魔術を行使したときだった。

 この技自体は以前将軍で経験していたこともあって、何とか避けきることができたのだが……。

「っとっと……」

(ん?)


 攻撃を避け終えたその直後、俺の視界に偶然目に入ったのだ。

 奴が体勢を崩し、片足立ちで軽く跳ねて隙を見せたのを。

(さっきからあの巨大な炎弾や、魔術陣の技を使う度に、足元のバランスを崩してね……?)

 その後も観察を続ける。


 ――大火球で再度攻撃をしたとき。

「っとっと……」


 ――再度赤いサークルで攻撃したときも。

「っと!」


 ――俺が確証を得たのは、その後数回攻撃をいなした後だった。

(やっぱ隙あるよな? ここを狙えばいいんじゃねえか?)

 『っとっと……』という声と共に、隙が生まれている。

 この声が彼女自身の癖なのか、それともわざとなのか、俺には見分けがつかない。

 だがこれ以外隙らしきものは現状見当たらず、試さない理由はなかった。


 とはいえ……。

(これをどうやってよーちゃんに伝えるか……)

 隙があることについて、向こうに気付かれるような態度を取ったら、癖にしろわざとにしろ、何かしらアクションが変わってしまう可能性がある。

 そうなったら振り出しに戻ってしまう訳で、それだけは勘弁願いたいところ。

 気付かれないように伝えるにはよーちゃんと距離を詰める必要があるが、相変わらずホーミング炎弾がこちらに飛来してきており、伝えられる状況にならない。

 よーちゃんが気付いていることを期待したものの、あちらも俺同様、高下からの攻撃に手を焼かされており、将軍やキララさんにも余裕はなさそうだった。

(みんな見てる余裕なさげだな……)

 と、まあそんな風に思っていると……。


「キララさん!」 

「ん? 何? 陽ちゃん」

 陽さんが、キララさんを呼び止める声がかすかに聞こえた。

「……こっちに」

「っ、分かった」

 キララさんは陽さんの方に徐々に近づいていく。

 当然この間も高下から炎弾攻撃を受け続けていたものの、キララさんは緑色のサークルからつむじ風を召喚し、これらを上手いこと誰も居ない方向に逸らしていた。

「……の隙……」

「なる……っけ……える!」

 遠目で2人が会話しているのが見える。

(お? これは……)

 しばらくすると、キララさんは俺達の方に向かって走り――。

「晴斗! ミドリ君! 少し遠めの位置でそいつの攻撃、一旦引き付けてくんない?」

 そして、俺と将軍に指示を飛ばしてきた。

「了解!」

「……? 分かった! てあーっ!」

 将軍は訝しむようにキララさんに返答したが、そのまま高下の正面に陣取ると、そのまま火炎放射を繰り出し始めた。

「てあーっ!」

 そして俺も、遅れて将軍の右横に立つと、そのまま両手から吹雪を放つ。

「フンッ! ハァッ!」

 吹雪と火炎放射が左右にずれた位置で高下に迫るも、奴はそれを右手1本から放った火炎放射で相殺!

 その様子を見たキララさんは、そのままよーちゃんの方へと走ったようで……ここでようやく俺も確信した。

(さては陽さん気付いたな? ナイス!)

 そして胸中でガッツポーズしつつも、眼前の黒い火炎放射を何とか食い止めようと努める。

「はぁーっ!」

 2人がかりの火炎放射と吹雪をしのぎ切った高下は、俺達めがけ黒い大火球を繰り出す!

「将軍!」

「おう!」

 俺は右側、将軍は左側に走ってそれを回避!

 着弾した大火球は、俺達が居たところに着弾した瞬間爆発!

「おっと……」

 そして、高下が体勢を崩したその瞬間!

「はぁーっ!」

「むっ!?」

 片足立ちになっていた高下の足元にひびが入り……そのまま大きな音と共に陥没!

 退避が間に合わず、奴の両脚が膝まで地面にはまった。

「今だよ! みんな!」

「おう!」

 キララさんの声に即座に応答し、俺は迷うことなく動けなくなった奴に両手を向けた。

 直後、目の前に青いサークルが現れる。

「あん?」

「奴の動きを止めました! 攻撃してください!」

「わ、分かった! てあーっ!」

 そして将軍は一瞬戸惑うも、よーちゃんの言葉で状況を理解し、こちらも高下に両手を向ける。

 将軍の目の前に、赤いサークルが現れる。

「はぁーっ!」

「イヤーッ!」

 同時に女性陣2人も高下に手を向ける。

 キララさんの眼前には緑色のサークルが現れ、よーちゃんの足元からは高下の方に無数の黄色いサークルが次々と出現!

「ぐううううっっ!!!」

 次の瞬間、4色のサークルからはほぼ同時に氷、炎、風、岩の攻撃が繰り出され……それらは高下に直撃! 辺りに白い煙が立ち込めた……。


(これは多分、やってないな……)

 あの口ぶりからして、この程度でやられるような奴だとは思えない。

「くぅ……。ふっ、ははは……」

 直後、白煙の中から笑い声が聞こえ始め……。

「あはははははっ!」

 案の定煙が晴れると、笑い声と共に高下の姿が再び露になる。

「ははは……」

 だが、奴の身体の各所をよく見てみると、服は破れ、素肌がむき出しになっている。

 露出した手足の皮膚には擦り傷やめくれ、裂け目、火傷や水膨れといった傷が至る所に見られ、それらから真っ赤な血がにじみ出ている。

 そしてそのことに俺が気付いたとき……。

「っ……」

 距離的に、空耳だろうか? 

 それとも攻撃直後の静寂ゆえ、声が届いたのか?

「っ……、っ……」

 陽さんの怯えるような声が、後ろから聞こえた気がした。


「ふっ……なかなかやるじゃん? ちゃんと「観察」できてるみたいね。いい心がけ心がけ……!」

 四肢に傷を負いながら、なお平然と高下は振舞っている。

「こいつ……」

 同じ人間なのか? と思った。

「でも、かなり効いたんじゃないですか? 見る限り」

「ああ。確かに削れてる。……」

 将軍の言うのだから、見た目通りダメージは通っているのは間違いないのだろう。

「……晴斗?」

「……削れちゃいるんだが、あんだけ怪我してるわりにゃ炎は弱まってねえ。……ほんとに効いてんのか?」

 だが後に続く疑念の言葉が、俺達の間に不穏を残した。

「そっか……。ねえ高下さん! まだやんの?」

「当然。この私に一撃当てたのは上等だけど……それじゃ、こっちもやる気出しちゃうかな!」

 キララさんの問いに軽快に答えた後、高下は滑らかに三戦の構えを取る。

「はぁーっ!」

 すると身体にそれまでの赤いオーラに加え、緑色のオーラが出現!

 2色のオーラは激しく明滅していたが、やがて点滅が完全に同調し、1つの色……黄色に変わった。

「ギア上げてこっか!!!」

 火傷で真っ赤にただれた右手を、高下はクイクイと手前に何度も動かしてみせた。

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