対ヤバい奴ら編⑧『『黒い悪魔』 高下 李緒』
襲撃者達を退け、陽とヨウを救出した連夜達であったが、失われたものはあまりにも大きい。
そんな中彼らの前に、先日の女性、李緒が現れる。
彼女曰く、「今の事態を招いた黒幕や、現状を打開する術を知っている」とのことであったが、
それを教える条件として、ある一つの事を提示するのであった。
対ヤバい奴ら編⑧『『黒い悪魔』 高下 李緒』
「高下、李緒……」
予期せぬ存在の登場に、顔が思わず歪む。
「てっきり、家で寝込んでるのかと思ったわ」
「……そのつもりだったが、やめた」
「……へぇ」
身体が緊張するも、何とかやり取りをこなす。
かなり、しっかり返せてたと思う。
「え? あれ? その人……ミドリ君の知り合いなんじゃないの!?」
そして俺と彼女のやり取りを聞いていたキララさんは、その退っ引きならない様子から、自分が何か認識を誤っていたのではないかと感じたようだった。
「なんだと……どういうことだ!?」
キララさんの言葉を聞いた将軍は、高下 李緒に対し構えをとる。
完全に警戒態勢だ。
将軍とキララさんの警戒レベルが上がり、緊張した雰囲気が走るも……。
高下は手をパシッと叩くと、俺達3人にこう告げた。
「その……緊張しているところ悪いんだけれど、せっかく連夜君が来てくれたんだし、家の片付けを手伝ってくれないかしら?」
「……あん?」
まるで、今までの緊迫した状況を意に介さないような返しであった。
さらに彼女は、俺の方を向く。
「なぜ私がここにいるのか、何の用で来たのか……貴方が聞きたいことについては、その後で……ね?」
そして、俺達に家の中へ入るよう、手で促してきた。
「……陽さん、よーちゃん」
俺は思わず、2人に尋ねる。
「……彼女は、私の方で応対しました。……今のところ、敵ではないです」
「……ヨウの言う通りだ。……わたしも聞きたいことがあるが、一旦は片付けをしよう」
「わ、分かった……」
どうやら彼女を受け入れたのは2人だったらしい。
「「……?」」
そして、将軍とキララさんは状況を把握しきれず、互いに顔を傾げたのだった。
その後、俺達5人は高下と共に、荒れ果てた陽さんの家の中を手分けして片付けた。
壊れたり割れたりしたものを怪我しないように片付け、家の外に運び出していった。
しばらくするとトラックがやってきて、ゴミや瓦礫を回収していった。
片付けはおよそ2時間程度で終わり……。
陽さんが家に鍵を掛けた頃には、時刻は午後3時となっていた。
太陽は西の方に傾いているものの、まだ空は青い時間帯だ。
「さて。片付けは終わった。説明してもらおうか?」
早速、俺は高下に本題を切り出した。
「そうね。まずなぜここに来たのかと言えば、貴方達を試すためよ」
すると高下は右手の人差し指をこちらにビシッと突き出してきた。
「試す……?」
前は『力を見せて貰う』、だったか。
嫌な予感しかしない。
「そ。もっと簡単に言えば……私と戦ってくれない?」
「は?」
やっぱりそうだ。
「戦うって……またですか?」
よーちゃんの返しが、どことなく辛辣だ。
「もし私に勝てれば、今貴方達を陥れている黒幕は誰なのか、そして今の状況を打開する手段・方法を教えてあげる。無論、協力もしてあげるわ」
だが、そんなよーちゃんの嫌そうな反応を、目の前の女はまるで意に介すことがない。
「は? いきなり戦えってどういうこと!?」
「しかも協力だと……?」
一方、彼女との遭遇を経験していない2人の声色には、辛辣さと言うよりかは訳の分からない出来事に対する動揺や困惑を感じる。
少しテンポが遅れたことも含め、無理もないと思う。
「待て。そんなことして一体あんたに、どんなメリットがあるんだ?」
そして残る陽さんはというと、平静な態度で高下の真意を問い質していた。
これができたのは、現時点で彼女だけだった。
「そうね。……その黒幕が私のクライアントの敵でもあって、できるだけ多く人手がいるから……ってとこかしら」
そして、その問いかけにより新たな情報が姿を現す。
「人手……。クライアント、か……」
それが誰かは気になるが、おそらく守秘義務があるはずだ。
教えてくれるような雰囲気ではない。
「でも人手不足とはいえ、弱い奴はお呼びじゃないの。だから試させてもらうわよ。貴方達の力が、私の眼鏡に叶うかどうかを、ね」
陽さんの問いに答え終えた高下は、俺の方に顔を向ける。
「試すって、随分とまあ上から目線なこって」
少し腹が立ち、毒の一つや二つ吐きたくなる。
「はっきり言っとくけど、貴方達に選択権はないから」
「え?」
俺の問いかけに答える間もなく、彼女は右腕を空高く掲げた。
「なっ……」
掲げられた腕には、腕輪がある。
黒仮面の腕輪に似ているが、白っぽい色のあちらに対しこちらは黒い色で、細部もよく見ると違うようだった。
「黒い、腕輪……?」
「こいつも、黒仮面の仲間なのか?」
「でも、微妙に細部が違うような……」
「そーれっ!」
そして掛け声と共に、周囲の風景が歪んでいく――。
気が付くと、俺達は公園のような場所に立っていた。
「っ!?」
これは……!?
「この地面の形にフェンスの配置……岡宮2号公園、か?」
将軍曰く「岡宮2号公園」なる場所(地名と将軍の反応を見るに、恐らく彼の家の近くの公園なのだろう)を模したであろう異空間は、四角い形をした公園のような場所だった。
だがその四角い領域の外側……本来そこに見えるはずの周りの風景が一切存在せず、代わりに青い靄のようなもので覆われている。
「うーん、思った以上に空間が不安定ね……」
高下は歩きながら、周囲をきょろきょろと眺める。
公園を取り囲む青い靄の各所には黒いノイズが走っており、いかにもバグっている、といった感じの雰囲気を醸し出していた。
「こっちも、あんまり持たなそうだし」
高下は右腕の腕輪を外すと、そのまま公園の隅っこの地面にことりと置く。
黒い腕輪の各所には風景と同じノイズが無数に走っており、更に黒い煙がプスプスと上がっていた。
「とはいえ、わずかな情報だけで急ごしらえながらここまで再現するなんて……流石は桜花ね」
そして腕輪に向けて独り言を呟いた後、呆気にとられていた俺達に向き直す。
「前も言ったけど、力を手にした以上、戦いから逃れるすべはないわよ?」
高下は再度、俺に向けてピシりと右人差し指を真っすぐ突きつける。
「なぜなら黒幕は、力を持った貴方を狙っているようだから。このまま放っておけば、彼女だけじゃない、貴方の家族も狙われることになるわ。一刻を争うのよ」
彼女は陽さんを指差すと、また俺の方に指を向けてきた。
「……ここで俺達が勝てなかったら、どうなるんだ?」
「そのときは、貴方達が死ぬだけよ」
「な……」
思わず、言葉を失う。
「それで困るのは、貴方達では?」
すかさずよーちゃんが、高下の言動に突っ込むも……。
「別に? ここで私に敗れて死ぬようなら所詮はその程度の力……黒幕に手が届くこともない。そんな力ならさっき言ったように、お呼びじゃないから」
その突っ込みはアッサリと、まるで突き放すような声色によってよーちゃんに返される。
どうやら力を試すといいつつも、殺る気でくるらしい。
「けっ」
「ま、分かりやすくて助かるね」
そして無言で聞いていた将軍とキララさんは、高下に対し武道家のような構えをとると、臨戦態勢に移行する。
「どっちにしろ、こいつを倒すしかないって意味では、確かにそうだ、なっ!」
そして陽さんはというと、2人の言葉に同意しながら駆け出すと、俺達の後方……異空間の片隅にすっと逃げ込んだ。
「行きましょう! 連君!」
「おう!」
陽さんが退避したのを見計らって、俺とよーちゃんも構えをとる。
俺は身体に青いオーラを纏った。
「……」
そうやって俺達が各々構える中、高下は立った状態で両腕を広げる。
すると彼女の右手から黒い炎が現れ、刹那身体には赤いオーラが現れた。
「未来を切り開きたくば、この私を倒してみせろ!」
青く照らされた、ノイズが走る公園を舞台に、戦いの火蓋が切って落とされたのだった……。




