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対ヤバい奴ら編⑦『連夜の悪夢』

怪人:黒仮面にまつわる騒動を追う中で、現・沼津市長の九十九つくも あきらが怪しいと踏んだ連夜達。

更に連夜を狙う謎の勢力の陰謀が、2年前に起きた陽の家族の交通事故に関わっていた疑惑も浮上する。


だがそんな中、謎の襲撃者達が大挙して裾野市にある陽の家を襲撃。

連夜、晴斗、キララの3人は襲撃者達を撃退して陽とヨウを救出するも、ついに犠牲者が出てしまった。


そしてその夜、何とか眠りに就くことができた連夜であったが、彼を悪夢が襲う……。

対ヤバい奴ら編⑦『連夜の悪夢』

――――――――。

 朝。目を覚まし、ふらふらと身体を起こす。

 時計を見ると、時刻は午前9時近く。

(疲れたな…… )

 いつもより遅い時間に起きたが、昨日は全然眠れなかったので、むしろちょうどいい。

(腹減ったな……)

 部屋から出て、階段を降りて1階に向かった。


「おう、遅かったな」

「おはよう」

 居間に行くと、父が床に寝転がってテレビを見ており、朝香は台所で何やら作業をしていた。

「おはよう……」

 2人に挨拶を交わした、その瞬間だった。

「……?」

 突如全身の力が抜け、視界がぐりゃりと一瞬歪む。

「えっ?」

 そして直後、身体から凄まじい勢いで冷気が吹き出し始める!

「おわっ!?」

 冷気は瞬く間に、居間と台所を真っ白に覆い尽くし……。

 気が付くと、寝転がっていた父はその姿のまま氷に包まれ、台所の朝香は立った状態で氷漬けになっていた。

「……は?」

 その様に驚く暇もない間に、2人は強化ガラスの如く粉々に砕け散り……。

 床には赤とピンクと白が、散らばった。


「は? は……?」


 ……気が付くと、パジャマ姿で外に飛び出していた。

「は???」

 そして、家から離れるように走っている内に――。


「連君?」

「どうした、連夜?」

「……っ!?」

 いつの間にか、ブレザー姿で学校の自習室にいた。

 自習室にはよーちゃんと陽さんの2人がこれまたブレザー姿でおり、ベッドに突っ伏す俺を心配そうに見つめていた。

「夢、か……?」

 ぼんやりとした中、周囲を見回す。

 やはり、いつもの自習室だ。

「疲れているみたいですね」

「大丈夫か? そろそろ帰るぞ」

「あ、あぁ……」

 俺は2人と一緒に、自習室から出た。


「「「……」」」

 太陽が西の地面の下に姿を隠し、暗くなりつつある道を、3人で無言で歩く。

 無言であるが、どこかホッとした気持ちで、心地のよい気分だった。


(ん……?)

 だがそんな中、俺達の目の前に派手なスーツを着た男が突然現れ……。

「っ!?」

 そいつはダガーナイフを胸から取り出して跳躍すると、そのまま俺の左胸に――。


――――――――。

「……!?」

 ナイフがザクッと刺さった感触と共に、目が覚めた。

 俺は、自分の部屋の布団の中にいた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 酷く支離滅裂な……悪夢だった。

 携帯端末を開くと、日時は11月23日の午前4時だった。

「ぅ……」

 そしてそれを確認した直後、左胸にズキズキと痛みが走る。

 慌てて胸元を見るも、傷は一つも付いていない。

(ちっく……)

 右手で左胸を押さえ、そのままぐるぐると擦りながら、俺は治癒魔術を掛けたのだった。


 その後、日が昇る前に体を起こし、恐る恐る階段を下りる。

 居間に入るとエアコンが付いており、隣の和室で父がいびきを立てて眠っているのが見えた。

「……」

 玄関のドアをゆっくりと開け、ポストに入っていた朝刊を回収し、家の中に戻る。

「……」

 そして、恐る恐る新聞に目を通す。

 そこには――。


「な……!?」

 ――陽さんの叔母さんの件については、何一つ書かれていなかった。


「なん、だよ。これ……?」

 閑静な田舎町で人一人襲われて殺されてんのに、ニュースにもならず、警察も動く気配がないなんて、いくら何でもおかしすぎる。

(何なんだよ! ほんと何なんだよこれ!)


 居間に戻った後、テレビを付けて朝のニュースも見たが、叔母さんの件は報道されていなかった。


 新聞とテレビに目を通した後、冷蔵庫に入っていた海老グラタンを電子レンジでチンして頬張る。

 そして、父が起き出す前に2階に戻り……再び布団に潜り込んだ。


 何も……する気が起きない。


――――――――。

 ……いつの間にか俺は、病室に居た。

 そこは、小さい頃に入院したことがある沼津の病院のようだった。

 病室には将軍とよーちゃん、そして将軍の両親がおり……。

「姉ちゃん! 姉ちゃん!!!」

 ベッドには晴香さんが寝かされている。

 彼女の肌は不気味な赤黒いあざがいくつも浮き出しており、そして……。


 しばらくすると医師が入ってきて、彼女の臨終を告げる。

 それは、まるで母の最期のような光景で……。

「……」 

 言葉が、出ない。

 というか、現実感がない。

 また、自分を外から眺めているような……。

「……」

 そんな中、涙混じりの声で晴香さんに縋り付いていた将軍が、突如として無言になる。

 そして俺の方を向くと、こう吐き捨てた。


「人殺し」


 その声色は、聞いたことがない位に冷たく、憎しみに満ちた声で――。


「っ……」

 ――聞いた自分の顔は、無意識に引きつっていた。


 逃げるように、病室から飛び出した。


「……?」

 そして走っている内にいつの間にか、俺は陽さんの家の中庭に居た。

「叔母さん!」

朱里あかりおばさん!」

 すぐそばには倒れている陽さんの叔母さんと、彼女を囲むようにしている陽さんとよーちゃんの姿。

 ……例によって、叔母さんは既に息を引き取っているようだった。

 しばらく叔母さんの名前を呼んでいた2人であったが、突然俺の方を向く。


「遅いよ……連君……」


 よーちゃんの声が、ひどく冷たかった。


「何で、助けてくれなかったの?」

「何で、早く来てくれなかった?」

 怒りと悲しみが混ざった声色で、2人に責められる。

「お、俺は……」

 反論が、できない。


 だがそんな恨みつらみの言葉を自分の中で消化する余裕は与えられない。


「は!?」

 今度は、陽さんの部屋にワープさせられる。

(遊園地の体験型アトラクション……?)

 そして機器やらなんやらが破壊され、荒れ果てている室内の中央に、よーちゃんが倒れている。


「……」

 ……そう。今なら分かる。

 あのとき倒れていたのは陽さんではなく、よーちゃんだ。


「よーちゃん!」

 俺は急いで治癒魔術を掛けようとするも、よーちゃんの姿は手をかざした直後、消える。

「っ!? ぁ……」

 ……身体が震える。

 ……声が出ない。


 その直後、視界が急激に真っ暗になり……。


「な、何だ……!?」

 気が付くと、辺りは何もない真っ暗な空間に変化していた。

(は……?)

 足元を見ると、原油のような黒いドロドロとしたもので覆われている。

 足がずぶりと黒いものに浸かり、まるで田んぼの上を歩いているかのよう。

(ここは……)

 顔を上げ、周囲を見回したそのとき――。

「なんで、助けてくれなかったのぉ……」

 突如声が聞こえたかと思ったら、右足首を何かに掴まれる。

 すぐさま再び下を見ると、そこには――。

「なんで、もっど早ぐぎでぐれ゛な゛がっだの゛ぉ……」

「ぁ、ぁ……」

 血塗れのよーちゃんが、這いずった姿勢のまま足首を掴んでいた。

 彼女の顔は左半分が潰れ、右腕以外の四肢はあらぬ方向に曲がりグロテスクな様相と化していた。

 その身体は、ドロドロに半ば沈んでいる。

「ぁ、ぁぁ……」

 恐怖と動揺で言葉が出ない。

 しかもよく見ると、足元の黒い液体は原油や泥ではなく……黒く変色した、血ではないか。

「れ゛ん゛ぐーん゛!!!」

 直後、黒い地面から無数の血塗れの手がはい出てきて……。

 俺の身体を掴むと、そのまま足元の血みどろへとへ引きずり込もうとしてきた。

「ぁ、ぁ……、ぁ、ぁ……」

 血の海に身体が沈む中、無数のそれぞれの腕の先には血塗れのよーちゃんの姿が無数に―――。


――――――――。

「ウワァァァァ!?」

 ――ちょうどそこで、再び目が覚めた。

「っ!? ……」

 直近であった嫌なことが混じり、ハッピーエンドがバッドエンドに塗り替わる。

 己の脳が作り出したまやかしは、痛みが無いことを除けば、現実以上に鮮明に思えた。

(ちくしょう、ちぐしょう……!)

 自分の今までを否定してくるような悍ましい悪夢を前に、身体を布団にくるみ、顔を布団に埋め、そして……。

「ぅっ、うぅぅぅぅぅっ!!!」

 身体を縮こまらせながらぶるぶると震え、ただただ泣き寝入りするより他なかった。


 結局、俺がまともに起きて活動を始めたのは正午過ぎ、お昼どきからであった。

 テレビを付けるも、昼のニュースにも例によって、昨日の出来事は無い。

 昼食を家で食べた俺は服を着替えると、父に頼んで車を出してもらい、裾野駅へと向かった。


「お前、昨日何があったんだ?」

 道中の車内で、父が尋ねてくる。

 コートの傷のことについて尋ねられるのではと思い、正直ビビった。

 だが、家にあった補修シートで上手いこと繕ったこともあってか特に触れられることもなく……内心ほっとした。

「えーっと……」

 俺は男達のことを伏せつつ、友達の家族に不幸があり、身寄りのない状態になってしまったことを話した。

「なるほど、そりゃ可哀想だねぇ……。女の子で独り身ってのも心配ですね」

 父は飄々とした様子で車を運転する。

 俺の話を軽く聞き流しているように感じた。

「だから……その、父さん、何とかできること、ない?」

「そりゃないですね」

 俺の相談内容を、父はバッサリと切って捨てる。

「やっぱ人様の家の問題だから?」

「そりゃそうよ。人様の家まで面倒見れるほど、うちにそんな余裕なんてないからね?」 

 全くもって、おっしゃる通りである。

 片親で、世話が必要な子が家に居て。

 先が見えない状態というのは、正直自分の家だって大概なのかもしれない。

「というか、色々慌ただしくなってるだろうから行かない方がいいんじゃないの? お父さん思うけど」

「でも……それでも俺は! 行きたい! 友達が、心配だから……」

 疑問を率直に口にする父に対し、そう力強く意見を述べると……。

「あっそ。まぁ、いいんじゃない? お父さん知らないから。くれぐれも迷惑かけたり邪魔したりしないように」 

「……分かってる」

 父はそれ以降、何も言うことは無かった。


 多分、陽さんの家に行かず、今日はもう家でゆっくり休む選択肢もあったんだろう。

 かつての俺だったら、布団で泣き寝入りしたままやり過ごそうとしたのかもしれない。


 だが、ここで行かない選択肢を取ったら、今後陽さんやよーちゃんと向き合えなくなる……いや違うな。

 今後2人と気まずい空気になるのが嫌だから、俺は行くのだ。

 だから行くのはある意味俺のエゴであって、単なる自己満足。

 自己満足で干渉するなら止めるべきという意味では、父の意見もある意味で正しい。

 彼女達の人生に、俺が責任を取れる訳でもない訳だし。


 とはいえ行かない選択を、俺はしなかった。

 結局これらも「やらない言い訳」でしかないと思った。

 友達が心配という親切心であれ、はたまた自分が友達と気まずくなって嫌な思いをしたくないというエゴであれ……行かずにはいられなかったのだ。


「よう、遅かったじゃねぇか。碧」

 陽さんの家に着いたとき、将軍とキララさんが庭のベンチに腰かけているのが見えた。

 俺の姿を見るなり、将軍は声を掛けてきた。

「おはよう、ミドリ君」

「あ、ああ……」

 あやふやな様子で、2人に挨拶を返してしまう。

「2人は、陽さんの手伝い?」

「おうよ。おれはキララに誘われて、家の片付けと、陽さんのもろもろの手続きの手伝いしてた。さっきやっとそれが一段落したんで、休憩してるとこ」

 見ると、庭の片隅に口を縛ったゴミ袋が沢山積み上げられており、荒れ果てた庭はある程度片付けられていた。

「はーいっ! アタシが連絡しましたーっ!」

 将軍の言葉を聞いたキララさんは、右手をぴんと挙げた。

「ほら、女の子1人……いや2人かな? で不幸があって、んで家もボロボロで大変じゃん? アタシは暇だし、力仕事もあるだろうから晴斗も呼んだって訳」

 キララさんはこれ見よがしに自分の携帯端末を見せてくる。

「なるほどな……その、すまねぇ。俺も手伝うべきだっただろ。……危うく逃げちまうとこだったわ」

 2人は早い段階で陽さんの家に行き、彼女達を手伝っていたというのに、俺ときたら……。

 だが、そんな風に俺が考えていたのを悟ったかのように、将軍は俺の謝罪にこう返してきた。

「いや……お前の反応はずっと真っ当だよ」

「……」

「むしろ、あんな目にあったのによくもまあ律義にやってくるなんて、正直尊敬しかねぇ。来なくても責めらんねぇような状況だったろ、あれは」

 将軍は座った状態で空を仰ぐと、身体の力を抜いて一息した。

「てっきりアタシは、家で寝込んでるのかと思ってたよ。一度ヒドい目にあわせたことがあるアタシが言って何なんだって思うかもしれないけどさ」

 キララさんには、俺の朝の状態を見抜かれていた。

「……」

「ま、そういう真正直なとこにアタシも晴斗も救われたんだから、ミドリ君はその辺気にしなくていいからね」

「将軍、キララさん……」

 気が休まったといえば休まったのだが、2人に気を遣われてしまい、気まずいような、申し訳ないような気持ちがある。

「……ありがとう」

 だがそれを言うと堂々巡りになるような気がしたため、ひとまずお礼だけ言った。


「さて、そろそろ休憩終わりにして、作業再開するよ! これから家の中も片付けないと」

「おうよ! そろそろ陽さん達も戻ってくるはずだ」

 2人はほぼ同じタイミングでベンチから立ち上がると、そのまま背伸びした。

「あ、その、2人とも、そういえば陽さんとよーちゃんは……?」

 ここで俺は、陽さん達の所在が気になった。

「ああ、2人なら市役所に行って……あ、戻ってきたぞ!」

 将軍が指差す方を見ると、陽さんとよーちゃんが並んで歩いてくるのが見えた。

 ボサボサのロングヘアの方が陽さんで、大きい1本の三つ編みの方がよーちゃん。

 服装は同じで、こうして見ると双子の姉妹にしか見えない。


「あ、陽さん……よーちゃん……俺は……」

「「ぁ……」」

 そばまでやってきたところで声を掛けるも、2人は俺の姿に気付くなり、気まずそうな小さい声を発し、沈黙してしまう。

「……」

 言葉が、出てこない。

 いや、出せない。

 今下手に何かを口にすれば、彼女達のためではなく、自分が楽になるための言葉が出てきてしまうような気がしたからだ。

 だから言葉がなかなか、口から出てこない。

 加えて、悪夢の光景が現実の2人と重なり、身体が震えた。


 だがそんな沈黙の時間を、世界は悠長に作ってははくれなかった。


「……あら」

 沈黙を破るように、背後から聞き慣れない女性の声が聞こえた。

「……え?」

 その声を聞き、思わず振り向いた俺は……。

 背後の家から出てきた人物を見て、気が動転した。

「なっ、お前……?」

「久しぶり。碧 連夜君。ようやく来たわね?」


 そこに居たのは先日遭遇し、俺とよーちゃんに魔術で攻撃してきた挙句、忠告を吐いて去っていった女……高下たかした 李緒りおであった。

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