対ヤバい奴ら編⑤『襲撃者達のリーダー』
連夜、晴斗、ヨウの3人は、陽の家にたどり着く。
するとそこでは、目出し帽姿の男達による破壊活動が繰り広げられていた。
更に、家の中から1人の男が現れる……。
対ヤバい奴ら編⑤『襲撃者達のリーダー』
陽さんの家に俺達が着いたとき、そこには異様な光景が広がっていた。
「うらぁ!」
「そーらっ!」
「へはっ! ぶっ壊れた!」
なんと、鉄パイプや金属バットを持った目出し帽の男達が家の敷地を取り囲み、手にした武器で手当たり次第に破壊活動に勤しんでいたのだ。
窓ガラスは割られ、外壁にはいくつもの凹みが生じ、庭の物品や花壇は無残に荒らされていく。
「なっ……おい! やめろ!」
俺は思わず、男達に叫ぶ。
すると、男達の手が一斉に止まり、視線がこちらに向いた。
「なっ!? 碧、連夜!?」
「なぜここに!?」
……またこの反応だ。
よく見ると彼らの中には、三角巾で片腕を固定している者がちらほら混じっている。
「な、炎の魔人までいる!?」
「どう、どうすりゃ……」
将軍の存在にも気付いたのだろう。
男達が狼狽えている中……。
「おめえら、何チンタラやってんだ!」
無造作に明け放たれていた玄関のドアの奥から、突如怒鳴り声が聞こえた。
「カ、カシラ……」
そして家の中から、一人の大柄な男が出てくる。
男は目出し帽を被っておらず、代わりに派手な色のスーツを身に纏っている。
スーツの左胸の部分には、ナイフホルスターが装備されている。
その風貌は、こいつが男達を指揮するリーダー格であると一目で理解させられるようなものだった。
そして、その両手には……。
「なっ……」
「あれは……」
「ッ……」
男の右手には、血がべっとりと付着した金属バットが握られており……。
左手では、1人の女性を掴んで引きずっていた。
「さっさとそいつら弾かんかい!」
赤く染まった凶器を振り回し、狼狽える男達を一喝するスーツ姿の男。
「で、でもあいつらの力が……」
「カシラ、たのんます!」
「ったく、仕方ねえなあ……」
カシラと呼ばれた男は、左手で引きずっていた女性を無造作にこちら側に投げ転がす。
「っ……」
女性の身体は、まるでゴミか何かのように、中庭の砂利に転がる。
頭部は血塗れで、ピクリとも動かない。
(この人、まさか……)
体格と顔は、陽さんではない。
ということは……同居しているという彼女の叔母さんか?
「それ貸せや!」
「へ、へい!
そして女性を放り捨てた男はというと、近くの別の男から金属バットを空いた左手で引ったくる。
血塗れのバットと合わせ、二刀流だ。
「碧、連夜ァ! うちの子分達を随分といたぶってくれたなぁ……。だがこれで終わりだ!」
そして、男は俺に怒鳴りつけ、右腕を掲げる。
男の右腕には、例の「腕輪」が。
「あの腕輪……!」
もう、何度も見た展開だ。
やはり、こいつらも黒仮面と……。
不明だった事象に、答え合わせがなされる。
「なるほど……そういうことね」
「……来るか!?」
キララさんと将軍が身体を構える仕草をする。
するとキララさんの身体には緑色のオーラが、将軍の身体には赤いオーラが現れた。
俺もすかさず構えを取り、青いオーラを身体に纏う。
「あのお方からいただいた! この力で! ハアーッ!」
男のシャウトと共に、周囲の景色が歪み出す――。
「これは……沼津港!?」
将軍は周囲を見回している。
辺りの風景は、つい先日訪れたことがある漁港を模したものに変わっていた。
気温は11月の夕方のそれで、普通に寒い。
空は朱色に染まり、西日が海の向こう側に沈もうとしている。
奥の方には有名な巨大水門が見えるが、例によって離れた箇所のディテールはいい加減だ。
そして周囲を見ると、俺達3人と男だけではなく、その部下達も一緒に入り込んでいた。
「俺は碧、連夜をやる! お前達はそこの2人をやれ!」
「分かりやした!」
「うおーっ!」
男の号令とともに、目出し帽達が動く。
狙いは俺ではなく、少し後ろにいた将軍達だった。
「2人とも!」
俺は後ろを向こうとするが――。
「お前の相手は俺や!」
「っ! ぐっ!」
スーツの男は右手の赤いバットを勢いよく、俺目掛け打ち下ろしてきた。
それを何とか、横に走って間一髪で回避する。
「行かせるか! はぁーっ!」
だが直後、男は両腕を左右斜め下に下ろし、構える。
すると、俺と男を囲うように円筒状の白い半透明の壁が出現し、俺を将軍達と分断した。
「ぐっ!」
「こいつぁ! 碧!」
「晴斗!」
「ちぃっ!」
将軍は俺の方に向かおうとするも、目出し帽の男達の攻撃を受け、そちらに対応することを余儀なくされていた。
「どうだ! これこそあの方に与えられた力……『反魔術空間』だ!」
「何……!?」
俺は男に手を向け力を込める。
だが……。
「なっ!?」
冷気が、出てこない。
いつも通り力を込めているはずなのに、何も起こらない。
「どうだ! あのおかしな氷の力さえ使えなければこっちのもんよ! 死ね!」
男はバットで攻撃してくる。
「ぐぅ……!」
二刀流のバット殴打を、拳を握った両腕で受け止める。
バットが腕に勢いよく当たり……強い衝撃が走る。
(それほど痛くはない。……防御魔術は有効なのか?)
身体を見ると、青いオーラはそのままだ。
(さっき掛けたのが、そのままなのか? んじゃ……)
身体に力を込める……治癒魔術は発動しない。
防御魔術も、再発動できないようだった。
(まずいな……)
ダメージを回復する手段がない。
今は防御魔術が残ってダメージが軽減されているものの、もし切れたら……。
「ふんっ!」
「ぐぅ!?」
バットの一撃が両腕の防御をすり抜け、左肩に命中!
少しズレていたら、頭部に直撃していた。
「ちっ!」
後方に飛び退くと、男の張った障壁が背中に当たる。
障壁の範囲は半径3、4メートルほど。
距離を取ってかわすには、狭い範囲。
(防御魔術が切れる前に、ケリをつけねえと)
とはいえ魔術が使えないのにどうすれば……。
「逃げ場などないわ!」
「うおっ!」
男の一撃を横っ飛びで避けると、将軍とキララさんが炎の魔術と風の魔術で敵を片付けている様が視界に入る。
さっきは不意討ちされ動揺していたようだが、あちらの戦況は将軍達の優勢で、じきに手が空きそうな感じだった。
「2人とも! この防壁何とかしてくれ! 魔術が使えんくてやべえ!」
俺はあらん限りの声で2人に呼びかける。
「まじかよ!? キララ!」
俺の話を聞いた将軍は、キララさんに呼びかける。
「分かってる! てあーっ!」
「ちっ! 碧、もうちょい耐えてくれ! ハァーッ!」
将軍とキララさんは、残り少ない敵に魔術を放つ。
「ちっ! あいつら……! 助けが来る前に仕留める!」
スーツの男はバットで何度も何度も俺を殴りつけてくる。
その様は、まさに止まるところを知らない狂戦士であった。
「ぐぁっ! げぁっ!」
バットが腕、肩、胸、腹、脚に次々とヒットし、痛みが走る。
気が付くと、俺は障壁の片隅に追いやられ……。
男の猛連打を前に身体を丸くし、頭部への直撃を避けるのに手一杯だった。
「おーらっ!」
「どぅぅぁ!」
渾身の一撃を両腕で止めるも、障壁にもたれかかっている状態で完全に逃げ場がない!
「おらっ! おらっ! うおらっ!」
「ぐ、ぐっ、ぐぅぅっ!!」
頭を守るのでやっとで、身動きが取れない。
あちこち叩かれ、激痛が走るも、倒れたら最後、もう立ち上がることはできないと感じた俺は、足を広げ、腰を落とした姿勢のまま耐え続ける!
(早く来てくれーっ!)
そう願いながら両腕に力を入れ、2本のバットを受け止めた瞬間だった。
「はあーっ!」
「てぁーっ!」
突如、背中に強い衝撃が走る。
「ぐぅ……っ!? な、何ぃ!?」
そして男の動揺に満ちた声とともに、腕への圧迫感が弱まる。
見ると、バツ字型に交差するように打ち下ろされた2本のバットが、俺の両腕と接している面からじわじわと氷漬けになり始めている。
(これは……!?)
男の力が弱まった隙を見て周囲を見ると、目出し帽連中は全員パンツ一丁の状態で伸びており……。
「碧! 大丈夫か!」
「終わったから加勢するよ!」
そして将軍とキララさんが、しきりに障壁に魔術をぶつけていた。
障壁を見ると、あちこちにヒビが入り始め、それに対応するかのように、バットへの氷の浸食が進んでいく。
「助かる! ぬおおおおっー!」
渾身の力を両腕に込めると、2本のバットはバツ型の状態で氷漬けになっていき、氷の浸食がスーツ男の腕に迫った。
「ちいっ!」
男はバットを持った状態で後方に飛び退くと、そのまま俺目掛け、氷でくっついたバットを投げつけてくる!
投げつけられたバットは、男の手から離れた瞬間、完全に氷漬けになった。
「あっぶね!」
横っ飛びしてバットをよけると、バットは障壁にぶつかった。
だが、そのせいで隙が生まれ、対応が遅れた。
俺がバットを避けている間に、男はナイフホルスターからダガーナイフを取り出すと、そのまま跳躍。
左胸から胸骨の真下を貫くよう勢い良く……。
「うおぁぁぁっ!!」
「碧!」
「ミドリ君!」
だが、その凶悪な命を奪う形をした両刃の短剣が、俺の肋骨の間隙を縫うことはなかった。
「何ぃっ!?」
胸元にそれが突き立てられた瞬間に響いた音は、おおよそ人体に当たったときのそれではなく、甲高い、まるで金属音のような音だった。
例えるならば、映像作品において硬い刃と刃がぶつかり合ったときに鳴る効果音のような……そんな音だった。
胸に圧迫感と痛みが走る。
だがそれは、絶望的なほどのものじゃない。
体に掛けていた青いオーラは、男の致命的な一撃を大幅に軽減していた。
「なら! ぬおぉぉぉぉ!」
男は渾身の力をもって刃に力を込め、斜め向きにグリグリとねじ込もうとしてくる。
オーラによって深い皮膚への侵襲が阻まれているとはいえ、圧力は狭い面積に直に加わり、圧迫感と痛みが強まっていく。
「ぐ、ぐうぁぁぁぁぁ!」
さらに悪いことに、青いオーラがチカチカ点滅を始める。
(やばい! 防御魔術が切れる!)
そしてそれに対応するかのように、ナイフの先端がズブリと皮膚に侵襲を始めた!
「んうぅぅぅぇぁぁ……!」
「碧ーっ!」
「ミドリ君っ!!!」
左胸に経験したことのないような激痛が走る中、俺は男の右腕を両手で掴み、そのままありったけの強い力を込めて抵抗する。
「ゔぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「なっ! がっ! うあああああっ!」
すると、男の腕はみるみるうちに凍結していき……そして。
「うおおりゃぁぁぁぁ!」
「ぐああああああっ!」
ナイフを掴んだまま氷漬けになった男の右腕は、肘の手前あたりの所で、まるで石像か何かのようにぽきりと折れる。
同時に、俺の両腕と胸にかかっていた抵抗の力が失われた。
「ふんあぁぁっ!」
横に跳ねのけようとする勢いそのままに、すかさず俺は折れたそれを左横に投げ捨てた。
「それ」はそのまま地面に叩きつけられると粉々に砕け、赤と白が混ざったものが異空間のアスファルトに散らばる。
右腕にはめられていた腕輪もこのとき一緒に砕け散り、周囲の景色が再度歪んでいった……。
気が付くと、俺達は元の、陽さんの家の中庭に戻っていた。
「ぐ……あ……」
うずくまり、呻くスーツ姿の男。
「か、カシラ!」
「そんな……!
「ち、ぢくしょう! カシラまで! ば、化け物……!」
「化け物がぁ!」
「ぐ……」
スーツ男は凍り付いた『右肘』を押さえながら、パンイチ姿の目出し帽の連中達と共にふらふらと町の奥へと逃げ去っていった。
去っていった先には、道標のように赤いシミが残されていく。
「う……」
ここで、身体の力が、抜けた。
「碧! 大丈夫か!?」
「ミドリ君!」
「あ、あ……」
自分の目の前には氷漬けになったナイフと、「男の右腕だったものの破片」、そして赤いシミが散らばっている。
(俺が、やったのか……?)
目の前の光景に手が震える。
こんな力……いつかこのような事態が起こるのではないかと思っていた。
でもこんな、こんなことになるなんて……。
「ぃっってぁ!」
だが気が抜けたせいだろうか、胸元に激痛が走り、思考が上書きされる。
うずくまりながら着ていたコートを脱ぎ、胸に手を当てると、じわじわと赤いしみが広がっていくのがぼんやりと見えた。
コートの左胸には横一文字の切れ目が生じ、胸を押さえた手には、血がべっとりと付着した。
「大丈夫か!?」
「ぐ……」
将軍の声が聞こえる中、俺は胸元を押さえて力を込める。
白いオーラが現れ、流れた血と痛みはあっという間に消えていく。
コートに付着した血も消えたが、切れ目はそのまま残った。
「アタシ、警察に電話する! 2人はそこの人を!」
「おう! 頼んだ、キララ!」
キララさんはポケットから携帯端末……空星さんの両親から新たに与えられた端末を取り出すと、そのままその場から少し離れ、警察に電話をかけ始めた。
「よし、んじゃ……っ!? ……」
「急がねえと……」
俺は急いで両腕を倒れている女性に向け、力をこめる。
刹那、白いサークルが倒れている女性の下に出現。
そこから放出された白い光と粒子によって女性の傷がみるみるうちに消え去り、元に戻っていく。
そして、数十秒もしない内に身体の傷や血は完全に無くなり、程なくして白い光とサークルは消えた。
「よし、これで……」
女性の怪我が元通りになったのを見て一息つきそうになったとき……。
「なぁ、碧……」
横槍を入れるように、将軍が声を掛けてきた。
「あ? どうした将軍?」
「この人……。命の……炎がねえんだが……」
……え?




