対ヤバい奴ら編③『You have found out too much.』
連夜とヨウが遊びに行く中、陽は一人自室で今までの出来事を整理していた。
対ヤバい奴ら編③『You have found out too much.』
あいつが通信を切ると言い出したとき。
正直、少しだけほっとしてしまう自分がいた。
今日、あいつは商店街の方に遊びに行くと言っていた。
以前一橋君とキララさんを尾行していたときには偶然通ることが無かったエリア。
あいつは全く気にするそぶりを見せていないようだが、あの近くには……。
だからこそ、そのことを気にしないで済み、作業に打ち込める状態ができてほっとした。
だが……。
(もし、これが本当なら……)
さっき九十九について調べている中で気付いてしまった「ある事実」。
……わたしもいい加減、向き合わなければならないだろう。
わたしはかつて、沼津の岡宮にある家で暮らしていた。
経済的に恵まれ、何一つ不自由のない暮らし。
わたしの心は一点の曇りもない、正に太陽の光で照らされていた。
あれは年に1度のお父さんとお母さんの結婚記念日。
沼津駅近くにある喫茶店……店の中に水が流れている不思議なその場所で、去年と同じようにパフェを食べた。
だが……わたしの太陽は、あの日失われてしまった。
太陽は落ち砕け、あれ以来のわたしは、ほぼほぼ死んだも同然の状態だった。
事故でできた身体の傷が癒えても、暗闇の中で呆然としている状態だった。
それでも光を捨てきれずに高校へ進学しようとしたが、理想と現実のギャップに打ち砕かれ、行く気が起きなかったときにあいつは現れた。
自分と瓜二つの姿をしたあいつを見て、わたしの中に最初に生まれた感情は、どういう訳か安堵だった。
ああ。これでわたしは心置きなくこのまま死んだ状態でいられると。
だが、あいつはどういう訳かお節介焼き……いやお節介とは違うな、己自身の後悔からわたしを助けようと思っている奴を家に連れ込んできた。
実際の所、あいつから話を聞いていて強い興味はあった。
わたしと違う、「何か」を持つ存在。
あのような場所で腐ることなく、「光を持ち続けている」存在。
会ってみた印象は正直、思っていたのと違っていた所もあったが、それでも「もうどうでもいいかな」と思っていた。
だが彼は。よりによってわたしが内心目を背けていたことを指摘してきた。
わたしはあいつを、自分より下に見ていた。
わたしはあいつを、自分の所有物、もしくは自分の体の一部か何かだと思っていた。
あいつはわたしとは違う、独立した意志を持った存在。
自分の代わりか何かのように扱うのは間違っている。
わたしの欺瞞を、彼は痛烈に暴き、そして正した。
挙句、彼はわたしに「何度だって手を取って助ける」だの、「友達になろう」だのと言ってきた。
でも、その言葉を聞いて思わず手を取ってしまったのを見るに、わたしはああいう存在を、やっぱりどこかで求めていたのかもしれない。
わたしの過ちを正しつつ、それでいてわたしに優しく手を差し伸べてくれる勇者、あるいはヒーロー。
現実に現れたそれは思いの外頼りなくて、恰好も決していい訳ではなかったが、それでも失われた太陽を蘇らせるには十分な存在だったのだろうと、わたしは俯瞰して考えている。
そしてそれ以来、わたしは彼とあいつの役に立ちたいと思って戦いをサポートし、更に黒仮面の事を調べ始めた。
加えて前に進むために、それまで見ない振りをしていた過去の出来事も調べた。
その結果、先の黒仮面の正体バレで……ついにわたしは気付いた。
現在進行形で起きている事件と、わたしの忌々しき過去に繋がりが存在するのではないか、ということに。
(若き女市議の躍進の裏で起きていた、彼女と政治的に敵対する者達の不審な死。死因は、雷に心臓発作に……転落事故死)
この死因……真白先輩の起こしていた「黒仮面」の死因にそっくりではないか?
落雷もそうだが、雷の力を上手いことやれば、心臓発作に見せられるんじゃないか?
(まさか……これも先輩の仕業だったのか!?)
……やらされてたのか?
先輩は自身の目的とは別に、九十九に何かしらの形で脅され利用されていたのではないか。
九十九からしてみれば先輩は、彼女自らが手を汚すことなく敵対者を排除可能な有用な駒ということになる。
分身体の力によって、実質2人分の働きができるとなればなおさらだろう。
だがその駒は……先日魔術に覚醒した連夜によって突如倒され……消えた。
(もしかして、連夜を危険視している理由は……)
そう考えると、先輩の死後から彼に介入が始まったのも説明が付く。
……キララさんは言っていた。
黒仮面は人の認識を改変する力を有していると。
(まさか……不自然な人気もそのためか?)
更に言えば事故だって……そこまでは、論理が飛躍しすぎているか?
(でも事故を起こした黒井市議の証言を考えると……信号やスピードメーターの見え方を改変して、事故を誘発させた?)
「歩行者が見えなかった」とも証言していたらしいが……これは昴さんのときと同じやり口では?
市議の自殺だって、死に方を見るに自殺に「見せかけて」真白先輩が始末したように思える……口封じのために。
そしてさっきネットで見つけた、事故現場での黒仮面の目撃情報。
わたしの事故が起きた前後に、事故現場近くで黒い仮面を付け、ローブを身に纏った不審な人物を見たという話。
――考えれば考えるほど、わたしの家族に起きた事故の裏に黒仮面、更に言えば九十九市長が一枚噛んでいるのではないかという思いが強くなっていく。
確定できる証拠はまだないものの、疑念は深まっていく。
理不尽な事故だと、ずっと思っていた。
だが、もしその理不尽が誰かによって意図的に仕組まれていたものだとしたら?
そしてその誰かが、わたしの幸せを踏みにじって利益を得た挙句、更にわたしの親しき存在に不幸をばらまこうとしているのだとしたら?
(わたしは……許せない!)
その事実に気付いたとき、それまでのわたしの中に薄っすらとあった悲しみや諦観の感情は瞬く間に消え失せ、義憤の感情に置き換わっていた。
なんで、今もわたしは生きているんだろうな、とずっと思っていた。
だが……その答えが今見つかった。というか、あった。
わたしには、生きていなければならない理由が……存在していた。
あのとき連夜の手を取っていなければ、きっとわたしは真実に気付くことなく……。
彼には、感謝の言葉が尽きない。
早く、調べたことを連絡したい。
そう考えた矢先、玄関のチャイムが鳴る音を、わたしは部屋のドア越しに聞いた。
容姿端麗の天才少女は、中二で壊された。
事故で家族を失い、心身ともに深い傷を負った陽は、終日ひきこもる日々を送っていた。
ずっとそれは変わらないはずであった。彼女が力に目覚め、そして彼が現れるまでは……。
――親の遺産を食いつぶすだけの日々。
――なんで、今もわたしは生きているんだろうな、ってずっと思ってた。
これは一人の少女のどん底からの再起の物語。
だが、彼女の幸せを踏みにじった「誰か」は、そこにいる。
きな臭い魔術の、きな臭い力の元凶は、彼女から最後の縁すら奪わんとしていた……。




