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対ヤバい奴ら編②『とある少女の消失』

連夜、ヨウ、晴斗、キララの4人は三連休の初日、沼津駅近くの喫茶店で昼食を取ることにした。

その最中、キララは沼津市長、九十九の不穏な噂について話し始める。

噂の中には、2年前の市長選で九十九の対立候補が起こしたという交通事故の話があった……。

対ヤバい奴ら編②『とある少女の消失』

「は……?」

 これって……。

 俺もすかさず携帯端末を操作し、同じ日に起きた事故の記事が無いか探してみる。

 すると……。


――――――――――――――――

『2006年10月30日 市議の車は信号無視、法定速度を大幅超過か 沼津市家族4人死傷事故』


 S県沼津市の交差点で4人が死傷した歩行者事故で、容疑者の運転していた自動車が信号無視と速度超過をしていたことが警察の調べで分かった。


 事故は10月8日正午ごろ、同市大手町の交差点で自動車が横断歩道を渡っていた4人に衝突。

 会社員のあおい 光義みつよしさん(42)、妻の朱日しゅかさん(40)、長男で小学5年のてるさん(11)の3人が全身を強く打ちまもなく死亡、長女で中学2年のひなたさん(14)が軽傷を負った。


 県警は車を運転していた――。

――――――――――――――――


「……、……?」

 ……言葉が出ず、思考がまとまらない。

 目の前に見えている文字が上手く認識できない……いや違う、認識できてはいる。

 だが……現実感がない。

 まるで、端末の画面を見ている自分を外から覗き込んでいるかのような感覚に襲われる。

(これが、陽さんの事故……)

 知りたくなかった真実を知ったときというのは、こういう感覚なのか。


 特に、自分が調べた記事とよーちゃんの記事の両方に書かれている「全身を強く打った」という文言が強く印象に残った。

(これって……)

 つまるところ、陽さん以外の3人は車に轢かれ「原型を留めていない」状態になってしまったということだろう。

 そしてそれを、陽さんは目の当たりにした。

(そりゃ、引きこもりますわ……)

 彼女の身に起きた凄惨な状況が頭に浮かび上がる……。

 そして俺の中で、陽さんがどういう存在なのかの認識が更新され……彼女に対する見方が不可逆的に変わってしまったような気がした。

(俺は、何てことを……)

 再び自己嫌悪が頭によぎる。

 俺なんかが、彼女に軽率に話しかけるべきではなかったのではないか。

 陽さん当人が気にするなと言っていたにも関わらず、ネガティブな感情が再び頭をもたげる。

(あー! もう駄目だ。またネガティブが……)

 事故についての話は、よーちゃんや陽さんから聞いてはいた。

 でもどういう訳か、その詳細について直接調べようという気には今までなれなかった。

 なぜならそれを調べることは……陽さんやよーちゃんの触れられたくない部分に触れてしまうような、そんな気がしていたから。

 そしてそれを知ってしまえば、もう以前のように彼女達と接することができなくなると思っていたから。


 だがここにきてこうして調べることになり……。

 案の定、俺自身が受けたショックは、思いの外大きかった……。


「どうした、碧……!?」

 俺が開いていた携帯端末の画面を、横から見づらそうな様子で覗き込んだ将軍は記事を見て、そのままよーちゃん同様に固まってしまった。

「え? どうしたの皆。突然固まったりして」

「……キララさん、これ……」

 訝しむ様子のキララさんに、俺の端末の画面を見せる。

「ん? っ!? そんな……」

 自分の知っている情報との突き合わせで事の次第を理解したのか、キララさんも口を手で覆い、その格好で固まってしまったのだった……。


 それから十数分後。

 俺達は『ころころ』を後にし、商店街を南口に向かって歩いていた。

「「「「……」」」」

 しばらくの間、皆重苦しい雰囲気で、固く口を閉ざしていたのであるが、ここでキララさんがよーちゃんに話しかけた。

「その……ヨウちゃん、ゴメン!」

「……え?」

 それまで無言で歩いていたキララさんが、よーちゃんに両手を合わせ、上半身を傾ける仕草をした。

「その……あんなことがあったなんて知らなくて、アタシ、軽いノリで語っちゃって……」

「大丈夫ですよ。気にしないでください。オリジナルはともかく、私は別に問題ないので」

「そっか……」

 よーちゃん視点で見れば、2年前の出来事はあくまで陽さんの記憶を通して見る出来事でしかない。

 凄惨な光景であったことは違いないが、それでも実際に経験した者と記録を通してみた者とでは反応に差があるということなのかなと、彼女の穏やかな言葉を聞いて思った。

「むしろ市長の噂について、知ることができて良かったです。ありがとう、キララさん」

 よーちゃんは穏やかな声色でそう告げると、キララさんにそっと頭を下げた。

「うう、ヨウちゃん~っ!」

「ちょ、キララさん……?」

 キララさんは感極まったのか、よーちゃんに横から抱きつくと、自分の顔を彼女の顔にすりすりさせる。

 よーちゃんの方はというと、キョトンとした顔をしているように見える。

(実際にやる人いるんだ……)

 というかキララさん、化粧してるっぽいのにそれはええんか……?

 やられたよーちゃんは……特に気にしてなさそう。


 アニメなんかで見るような表現を目の当たりにした俺の心中からは、先程までの重苦しい空気はすっかりどっかに飛んでしまっていた。


 そして、女子2人がそんな感じで打ち解けている中……。

「それにしてもまさか、陽さんにあんな事情があったとはな……」

 気まずそうな様子なのは、将軍も同じようであった。

 確か、陽さんからは分身体のことと、今の状況(引きこもっていること)についての話は聞かされていたはずだが、なぜ今の状況なのかについての話はなされていなかったはずだ。

「引きこもってヨウさんを代わりに学校に行かせていると聞いたとき、何か触れられたくねえもんがあんのかなと思って流したけど、そりゃあ……無理もねえわ。うんうん」

 首を縦に何度も振っていた将軍であったが、走り出して先頭に立つと、俺達の方を向く。


 ……全員の足が、止まった。

「つかよ。もし仮に市長が噂通り例の事故を仕組んだってんなら、陽さんやヨウさんにとって、家族の本当の仇……ってことになるよな? もしかして、一連の碧襲撃事件の真相は、実は陽さんが狙いなんじゃねぇか?」

「……えっ?」

 何でそうなる?

 将軍の口から、推理小説でよく見るような迷推理が飛び出し、脳裏に無数のハテナマークが浮かんだ。

「あいや、その、例えば、碧を襲っているのは事態を撹乱するためのミスリードで、実はその近くにいる事故の生存者の口封じが真の狙いとか……」

「いやそれはないな」

「ないね」

「無いと思います」

「なんだと……?」

 ……否定の言葉が揃う事って、あるんだ。

 さっきまで仲睦まじい様子だったよーちゃんとキララさんも、冷めた声色で将軍の推理にツッコミを入れており……何だか少し肌寒さを感じた。

「だってそれだと、ミドリ君をピンポイントで指定する理由なくない? また結論ありきで推理組み立てる癖出ちゃってるよ、晴斗……」

 キララさんは呆れたような声色で将軍を嗜める。

 ……彼女の口ぶりからして、いつものことのようだ。

 好事家の将軍が、いつかヤバい陰謀論に引っ掛かったりしないか心配だ……キララさんがいれば大丈夫だとは思いたいが。

「そ、そうか……。すまん……」

 キララさんの指摘を受け、将軍はばつの悪い顔をした。

「もしそうなら、とっくにオリジナルは襲われてますよ。市長になってから2年経ってるんですよ? 今更動き出すなんておかしくないですか?」

「確かに……」

 よーちゃんのツッコミを聞いた将軍は口元に手を当てた。

「俺も2人と同意見。で、今思ったことがあるんだけど……仮に市長が事故を引き起こすように仕向けたんだったら、陽さんを襲うメリット、無くね?」

 俺が当初言いたかったことを2人がほぼ話してくれていたが、少し経って新たに考えが浮かんだため、追加で話すことにした。

「どういうことだ……?」

「現状、事故の犯人は自殺した市議というのが世間の認識なんだろ? ただ、それを疑う声も多数ではないもののある状態、って話だよな? 噂を聞く限りだと」

「そうだが……それで?」

「もしここで、事故の被害者が何者かによって襲われるなんてことが起きたら……どう思う?」

「っ! そうか! 『関係者を口封じしてまで隠したいことが有ります』って言ってるようなもんだ! 陽さんをターゲットにするのはリスクしかねえって訳か」

 将軍もようやく気付いたらしい。

「そうそれ! 襲撃によって『やっぱ陰謀があったんじゃねぇか』って話になっちまう。だから陽さん狙いは違うんじゃねぇかなぁ。やっぱ名指しで指定入っている俺だろ、どう考えても真の狙いは……」

 現状、市長の躍進を訝しんでいるのは一部の外野のネット住民のみだ。

 この街の市民については、本心で市長を支持している者、他にまともな奴が居ないから消極的に支持している者、日和見主義的に勝ち馬に同調している者、そもそも政治に関心がない者が入り混じっている……というのが9割5分の支持率の実情だろう。

 本心で支持している奴ら以外は何かあれば手の平を返すことが容易に想像できるので、下手にボロを出しかねないような真似はしないのではないか……と思ったのだ。

「なるほどな……。んじゃ、結局真実は分からず仕舞いってことか? うーん、いい線行ってると思ったんだが、良くねえ癖が出ちまったな……」

「そこまでは言い過ぎだと思いますよ? どうあれ市長が怪しいので調べる。現状の方向性は、間違ってなさそうです」

 気落ちした将軍に、よーちゃんがフォローを入れる。

「そうか……」

「アイデア出し自体は大事だと思う。そういう意味で、将軍の意見は興味深かったよ。仕組んだ奴の視点で考えたらどう動くのが最善か、ってのは将軍の話を聞いて初めて考えたしな」

 これは本心からそう思った。

「そうそう! まぁ……晴斗の推論は、いつも話半分で聞いといた方がいいとは思うけどね」

「うぐ……いつものことだが、キララに言われちゃ反論できねえなぁ」

「いつも?」

 いつもさっきみたいな迷推論をしては、キララさんに窘められてるのだろうか。

 何と言うか、尻に敷かれているような……。

「ああ。だっておれなんかよりずっと頭良いんだぜ? キララは。正直、マジで尊敬してる!」

「ちょ、晴斗……」

 一方で、将軍の本気か冗談か分からない言葉に対し、恥ずかしそうな声色で返すキララさん。

 本当に仲がいいんだな、と思った。

 こういう普段の将軍とキララさんのやり取りは見たことが無かったため、新鮮だった。

「まぁそれも、空星さんが元になってるっつうことが分かって、腑に落ちたんだよな」

「……そっか。そうそう、ちなみになんだけど、アタシ最近、晴斗の勉強教え始めたんだよね!」

「ちょ、キララ!? ……」

 何かを偉そうに誇ってるかのようなキララさんの言葉を聞いて、将軍は気まずそうな声を発した。

「そうなんですか!? あ、じゃあ! 今度一緒に、勉強会しませんか?」

 そしてその言葉を聞いたよーちゃんは、キララさんに提案する。

「あ、いいね! やろうよ! ミドリ君はどう? やる?」

「俺は賛成。……将軍は?」

「えー……勉強するためにわざわざ集まんの? せっかくの休日に集まって勉強なんてやだろ……」

 俺は特に異論がなかったものの、将軍はダルそうな様子だった。

「え? 別に、アタシは苦になんないけど?」

「そうだった……。キララは勉強苦になんないタイプだった」

 将軍はしまったというような声色と共に、顔に右手を当てた。

 反応を見るに、一度2人で勉強会をやったことがあるのかなと思った。

「ひっどーい! 何その言い方!」

「っ、ごめん……」

 すると、その反応を見たキララさんの声色が怒った感じになり……。

 そして将軍がそれに対し申し訳に縮こまり、ギスギスした雰囲気になるも……。

「ふっ、アハハ! 冗談だよ晴斗! まぁ、時期的に期末も近いんでしょ? それに、アタシ学校行ってないし、家に住まわせてもらえるようになった代わりにバイトもできんくなっちゃったから、普段暇なんだよね。……終わったら、4人で一緒に遊ぼうよ。午前中勉強会して、午後は息抜きに遊ぶとかでもいいじゃん?」

 ……どうやら今のが「冗談」のノリらしい。

 ……やっぱり、俺には判別するのが難しい。

「っ、そうか……。分かった。良いよ! おれも付き合うよ!」

 そして、ここにきてようやく、将軍も提案に乗ってくれた。

「ありがとね! 晴斗!」

「これで決まり、ですね」

「だな……」

 4人で勉強会か。

 それはそれで楽しそうだなと、俺は3人の姿を見て思った。


 その後、俺達は商店街を抜け、再び沼津駅の南口の道を歩く。

 よーちゃんが先頭を歩き、その後ろに俺が、さらに後ろに将軍とキララさんがいた。

「あの、よーちゃん?」

「はい、何でしょうか? 連君」

 ここでふと、俺は気になったことをよーちゃんに尋ねた。

「事故の詳細って、知ってた?」

「はい。オリジナルの記憶から知ってました。加害者が沼津の市議で、事件後自殺したというのも」

「なるほど……」

 陽さんは当時中学生とはいえ、唯一の生存者。

 この辺は流石に彼女の記憶にある出来事か。

「でも……市長の周囲で人が死んでいるという話の延長線上にあの事故があったというのはオリジナルの記憶にもなく、初耳で……」

「だからさっき驚いたのか」

「はい。話にありましたが、仮に市長がクロで、あの事故や、それを引き起こした市議の死も何かしら仕組まれたものだったとしたら……」

「全部の話がひっくり返っちゃいますね」

「ですね。まぁ……現状は証拠がないんですが」


 知らず知らずのうちに、闇に蠢く陰謀の一端に触れてしまっていたのだとしたら。

 更に、それに陽さんの家族も巻き込まれたのだとしたら。

 それはもはや、俺だけの問題では無くなる。


 とはいえ、現状確定的な証拠がなく、仮説どまりだ。

 更に言えば、市長ですら何者かの駒に過ぎない可能性だってある。

 だが、現状他に手掛かりが無い以上、この線を深堀するしかないのも事実。


「とりあえず、今から陽さんに電話しようと思う」

「分かりました。お願いします」

 ここまでの話、早いとこ陽さんに相談したい。

 九十九のことを調べているとのことなので、同様の結論に行き着いているかもしれない。

 ……ともかく早く、彼女とちゃんと話がしたい。


 俺が立ち止まり、陽さんに電話をかけようと携帯端末を開いた、その瞬間だった。


 突如、前方から何かが地面に落ちる物音が響く。

 画面を見る視界の外側に、何か布のようなものが広がるのが映る。

「え……?」

「は……?」

 そして後方からは、将軍、キララさんの声が響いた。


 俺が顔を上げると……。

「え……?」


 目の前にいたはずの、よーちゃんの姿は無く……。


 彼女が着ていた衣類やアクセサリ、靴、持っていた荷物が、地面に散らばっていた……。 



 正直、俺達はあまりに楽観視しすぎていた。

 俺を陥れている奴の目論見をここまで阻み続ければ……当然そのまま無傷でいられるはずなどなかったというのに。

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