異世界第25話
午後はレオナルドとホワイティアが光の魔力を持っている子を探すと言って出かけて行った。エヴァちゃんもどう?と誘われたけど、私はついていかない事にした。
ゲームの主人公であるヒロインは私と同い歳。きっと今は可愛らしい三才児なのだろう。
名前は気になるけれど、本人を実際に見に行くのは怖かったのだ。
実は今だに自身が断罪される夢をたまに見る。私がヒロインを虐めて殺害未遂をする場面も夢に出てくるのだ。本人を見たら悪夢が更に酷くなりそうな気がしたから、お誘いは断る事にした。
しかもホワイティアとレオナルドの事だ。まだ魔力を纏っていないヒロインと契約は出来ないにしても、普通に話しかけたりしそうだし。私は悪役令嬢なんだし、下手にヒロインに関わらないのが一番だと思った。
夕食の頃、レオナルドとホワイティアが戻ってきた。どうやら予想通り、光の魔力の持ち主は三歳の女の子だったらしい。
ヒロインは母子家庭らしく、三歳児なのに家で一人お留守番をしていたらしい。レオナルドとホワイティアは、そんなヒロインの家でゆっくりお邪魔してきたみたい。
しかも三人で、炊けていたお米でおにぎりを作って食べたり、絵を描いて遊んだと言っていた。やっぱり、だいぶヒロインと関わって帰ってきたみたいだ。付いて行かなかった事は正解だと思いつつ、何だかんだ言っても二人は優しいんだよね。
と思いながら、私が一番気になっていた話題へと切り出してみる。恐る恐るその子がどんな名前だったのかを二人に聞いてみた…。
ヒロインの名前はマリーというらしい。本名か愛称なのか不明だが、私がゲームで付けた“もち明太子”で無いことは確かだと分かった。
心からホッと安堵する。
夕食後、私は皆んなから逃げるように自室へと急ぎ、予定の時間までベッドでゴロゴロしていた。
「そろそろかな」
エヴァは成長魔法で17歳になって、瞬間移動である場所へ向かう。
この姿で向かう場所は一つしかない。
「あらーっ、エヴァちゃんじゃないの〜!またこんな遅い時間に来て!今日はお酒はほどほどにねっ!」
店に入るなり今日も元気な乙女のマスターに注意される。
「この前は心配かけてごめんね。今日はお酒は飲まないつもり」
ふぅ〜ん。とマスターに疑うような目を向けられて、私はカウンターの奥の目立たない席に腰掛ける。
「まぁ、後一時間で店も閉店だからね。飲んでもエヴァちゃんなら大丈夫だと思うけどっ。なんなら閉店後うちのジョルジュに送らせるし、無理しないで飲んでいけばいいんじゃない?」
ウフフと言いながらマスターは厨房の方へ向かって行ってしまった。
マスターの気持ちは嬉しいんだけど、それだけは勘弁して下さい。とてもじゃないけど歩いて帰れない距離から私は来ているんですよ?こんな遠くから通う常連は私とクロードしかいないよ、マスター。
しかも今日は飲みに来たんじゃ無くて、マスターにお願いをしに来たんだからね。
厨房の奥からジョルジュが出てきた。
ヴァンパイアの様に魅惑的な赤い瞳と目が合う。
「……いらっしゃい。注文決まったの?」
いつもの様に近くに来たら目を逸らし、素っ気ない態度で注文を聞いてくる。
注文票を持っている彼の手が少し震えている様な気がした。
……お姉さんが君のコミュ症を治してあげるからね!接客は大変だと思うけど、人間と話すの大事。ジョルジュが魔王にならない様に、是非とも私が尽力いたします!!
そんな事を思いながら、笑顔で注文をしていく。
「……今日は飲まないんだな」
いつもお酒を飲む私がそれを頼まなかった事に驚いたのか、ジョルジュはすこし動揺して私に聞いてきた。
「実は、今日はマスターにお願い事をしに来たのよ。真剣なお願い事だから、お酒を飲まない事にしたの」
お願い事とは、二年後マスターが死ぬのを防ぐ為にも、お店がお休みの日にやっているという慈善活動を手伝いたいという事だ。マスターが縦に首を振るまで今日は帰らないつもり。
そして話が終わったら、閉店後のお店の手伝いをするつもりでもいる。こちとら(前世で学生時代の頃は)レストランで二年間働いていた経験があるのよ。片付けから洗い物まで私に任せて頂戴っ!
エヴァはジョルジュにお酒を飲まないと伝えて、目が合った彼にパチリとウィンクを飛ばした。
失礼な事に、ジョルジュは胸を押さえて苦しそうに厨房に戻って行ってしまった。
あれ、私のウィンクってそんなに気持ち悪いのかな…。今日の夜は寝る前にウィンクの練習をしよう。と心の片隅で思っていたら、
「いらっしゃいませ〜!あら、イケメン!お一人様?良かったらあちらのカウンターへどうぞ〜。」
マスターの元気な声に、新しく入ってきたお客さんを見て思考が止まる。
な、な、な、な、な、何で?!!!
彼はキョロキョロ辺りを見回していた。
それは紛れもなく、隣国の勇者と言われている現在は私の家にいるはずのレオナルドではないか!!!
どうしてこの場所が?!!
エヴァは今、成長魔法で17歳に変身していた。更に、一般市民の女の子が着ている素材で尚且つとても地味な色のワンピースを着用していると思い、心を落ち着かせて素知らぬふりを決め込んだ。
私だとバレる筈がない……ドキドキ。
「はいっ!エヴァちゃんお待たせ〜〜!スワンプラプターの蒲焼きよ〜ん!」
マスターの元気な掠れた声が響き渡る。
マッ…マスターーーーーー!!!!!!
レオナルドはエヴァを見てニヤリと笑った。




