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異世界第24話




昨日会ったばかりなのに、今朝ルイス王子から手紙が届いていた。


内容は、一緒に魔法を使って竜を出せたのが嬉しかったという事。その竜に王妃様は大変驚いていてくれてルイス王子の成長を褒めてくれたのだと。

夜はエリアス陛下と共に王妃様の部屋でお茶を飲んで三人で楽しい時間を過ごせたらしい。


王妃様の病が回復して本当に嬉しいんだろう、ルイス王子の筆は止まらない。

便箋は十枚以上にも渡り、私への感謝の気持ちと昨日の王妃様との出来事がこと細かに綴られていた。

途中でこれはルイス王子の日記か?と思うほどだったが、前回の手紙が“エヴァに会いたい”の一言だけだったのを思い出して、なんとも感情が分かりやすいルイス王子の手紙に笑いが込み上げる。


手紙の最後にはまた会いたい、また王宮へ是非来て欲しいと書かれて締めくくられていた。



う〜ん、どうしよう……。



今までルイス王子の暗殺と戦争を止める事しか考えていなかったんだけど、ゲームでは幼い頃にルイス王子と私は婚約が成立している。

そして婚約したが最後、結局は17歳になってゲームの終盤で断罪イベントと共に婚約破棄をされてしまうのだ。


ルイス王子の事は正直、まだゲームの様に腹黒君になっていなくて(ゲームをやっている時はヒロイン目線でそれも魅力的だったんだけどね)、純粋で素直で可愛いと思うし、顔も天使の様で癒されるからまた一緒に会えるのは嬉しいのだ。

だけどこのまま仲良くなると確実に婚約が決まってしまう……!!


そもそも私は結婚なんてまだ考えられないのだ。

公爵家という地位の高い家に生まれてしまったけど、私はどうしてもこの魔法のあるファンタジーの世界を見て回りたい。

魔物を魔法で倒してその肉で仲間と一緒に酒を呑みかわしたり、竜に乗ってどこまでも高く空を飛んでみたり、エルフやドワーフのいる国に行ってお友達になってみたり……

ゲームじゃないこの現実で、私の知らない世界を冒険してみたいのだ!


昨日のクロードとフィンセントの父親の冒険の話を聞いてて尚更そう思った。

クロードが付いてきてくれるなら、“恋マジ”で死ぬ予定の人をなんとか助けた後になってしまうけれど、一緒に冒険したいな…って密かに思っている。


両親には心配かけちゃうかもしれないけど、冒険が終わったらちゃんと家に戻って結婚するつもりだし、親不孝はしないつもりだから。


だから何としてでも、ルイス王子との婚約は断固拒否なのだ。

私に会いたがってくれているルイス王子の誘いを断るのは心が痛い、痛すぎるけど、私の未来の為に今後出来るだけ会わないように回避していこう……。


エヴァは苦渋の思いで筆を取る。




―――――ルイス殿下へ


お手紙ありがとうございます。


王妃様の病が回復されたとの事、私も心から嬉しく思います。


実は、私は心の病を患っていまして、今回勇者様がアイゼンハワー公爵家にいらしてるんですが、彼にも治すことが出来ない病でした。


そんな訳でして、静かに家で療養しようと思います。


ルイス殿下の申し出は嬉しいのですが、王宮へ行けない事をご了承ください。


今後はなかなか会えなくなると思いますが、どうぞお元気でお過ごしください。


         エヴァーミリアンより―――――




心の病とは、ここが前世でやった“恋マジ”という乙女ゲームと言う名の皮を被った鬼畜な殺人ゲームの世界と知ってしまった精神を犯す病である。

こればかりは勇者の癒しの魔法でも治せないのだ。

決して私は嘘をついていない。

堪忍してくれルイス王子………。

と思いながら侍女に手紙を託す。



さてと、この後は使用人達の健康診断をするので診察室へ向かうとするか。

診察室の前には既に今日診る人数の使用人達が並んでいた。

あら、待たせてしまって申し訳ない…と思い、急ぎ足で横を通り過ぎ、部屋に入る前にすいませんと言って皆んなにペコリとお辞儀をする。


「ガチャリ…」


扉を開けるとクロードの他に例の二人が居た。


「遅いぞエヴァ」

「やっほ〜!俺も治療に参加させて貰うね」

「うふ。恋の健康診断は私に任せて頂戴?」


ぐはっ!!

お客さんはゆっくりしててくれていいのに〜。

ホワイティアは何を言っているのかちょっと分からないけど…。はいはい、一週間はずっと一緒なんだと覚悟しますよ。

実際クロードと私の接触が無ければ、ホワイティアも普通だし、レオナルドも笑い上戸でおかしくならないしね。


そう思って健康診断に協力してもらっていた…。




「……深淵に響く祈りの声に我はあり 静粛を繋ぎとめる音無き歌に汝あり 闇ある処に光あれ 汝の虚を払いし寂光にて浄土へ解き放て 幻想曲(ファンタジア)療法(セラピー)!!」


カッ……!!!


眩しい光が患者の女性を包む。



「あ……声が…でます!」


風邪をこじらせて喉から声が出なかった女性が喜んだ。


「小鳥さんの様な愛らしい声だねっ。どうかお大事に」


「キャーーー!!」


レオナルドの輝かしい微笑みに、その女性は顔を赤らめて興奮し、彼に握手を求めていた。

診療室の外へ続いている使用人の列は、まるでアイドルの握手会に並んでいるファンの列の様だ。


エヴァも最初は治療していたが、横で治療しているレオナルドの鮮やかな厨二病パフォーマンスに、後に続く使用人の女性達がキャッキャしているのを目の当たりにして、気を使って男の人だけ担当する事にした。

しかし今日は女性が多いな。

あ、次は男性だ…。


「は〜い、次の人こちらへどうぞ」


モジモジして男性が入って来てエヴァの前の椅子に座る…かと思ったが、

その使用人は顔を真っ赤にして体をくねらせ、私に訴えてきた。


「ぼ……僕も、ゆっゆゆ勇者様に診て貰いたいですぅ!!」



ハ?ナニヲイッテイルンダコイツ?


私の後ろにいる執事のレイモンドと私は同じ気持ちでその使用人を睨む。

彼はレオナルドの方をチラチラ見て私達の鬼の様な顔を見ていない。

私は瞬時に彼の魔力の滞りを探り、唱え始める。


「男子たるもの漢らしくあれ 何人たりとも万物たる理に反するものなかれ 刹那にて仕事を全うせよ  記憶喪失(シャキッとしろ)!!!」


「……あれ、僕何でここに…?」


執事のレイモンドは人の息の根を止めれるんじゃないかって程の顔をして静かに言う。


「早く仕事に戻りなさい」


「ヒッ……ッ!!ハイィ〜〜ッ!!!」


クネクネしながら彼は走り去って行った。


「お嬢様…使用人が大変失礼致しました。あの者には後ほどキツく言い聞かせておきますので、後日また身体検査に回させてもよろしいでしょうか」


「いえ、彼の体にはどこも異常は無かったので、身体検査は大丈夫よ。勇者様を見た今朝の記憶だけ時間を巻き戻したから、これで少しは集中して仕事につけるでしょう…」


「流石…でございます」


クスッと笑ってレイモンドと私は微笑み合った。


それにしても、女性だけではなく男性も魅了するとは…厨二病パフォーマーは凄いな。

執事のレイモンドも勇者のレオナルドがいる前ではあまり大きく出れないみたいだし、流石に目で威嚇しているけど、キャッキャしている女性陣の使用人達は気づいていない。後でどうなる事やら…。


そんな感じでレオナルド以外は暇でまったり座っていると、ホワイティアが話しかけてきた。


「暇ねぇ…。ねぇ、何処か美味しいご飯のお店ってないの?私、人間の作る料理が好きだから今回精霊から人間に化けたんだけど、この後どっか連れて行ってよ」


「ええ〜〜?お店って言ったって、私三歳児だし出歩けないもん。公爵家の料理人達はもう私達の昼食作ってるんじゃないかな?」


「何それ、つまんないわ。昼食の後でもいいからどっか連れてってよ〜」


「そんなぁ…」


美味しいご飯のお店って、マスターのお店しか思い浮かばないけど、なんかあそこにはホワイティアを連れて行きたくないな…


「…マスターの店ってどこなの?」


「!!!」


ホワイティアめ……私の心を読んだな?!!


精霊は人の心を読める。が、無意識に読めるわけではないらしい。

読もうと意識しなければ読めないのだ。

クロードも心を読めるので最初は緊張したけど、私が言葉を話せる様に成長した時に、意図的に心を読むの辞めると誓ってくれたので、今まで安心していた。


「そうなの?クロードも優しい男ね。うふふ。」


「ちょっと!読むのやめてよね!」


ホワイティアは意地悪だ。もうっ!!


「分かったわよ。読まないから、そのマスターの店?に連れて行って頂戴」


「何を話しているのかと思えば…ホワイティア、おぬし我儘であるぞ?その店は我の気に入った店なのだ。絶対におぬしには教えぬ。エヴァ、もう何を聞かれても口を開くで無いぞ?」


「あら、クロードのお気に入りの店なんて珍しいわね。ますます気になるわ〜。エヴァちゃん、こんなの置いていって二人でその店に行きましょうよ。貴族の女が良くやるお茶会的な感じでさぁ」


「女子のお茶会…」


まだ女の友達がいないエヴァには魅力的な言葉だった…。


「おい、エヴァ。此奴の口車に乗せられるでない。大変になる事は目に見えているであろう」


確かに…。危ない危ない!

エヴァはホワイティアに断った。


「もぉう、つまんな〜い。じゃあ、ご飯を食べたら光の魔力を持ってる子、探しに行こうかな。微弱にしか感じないから、まだ魔力を纏ってはいない様子ね…子供なのかしら?」


子供……やっぱり“恋マジ”の主人公だよね?

それは気になるな……特に名前がどうなっているのかが…。


「むふ。エヴァちゃん気になるなら一緒に行かない?!」


ニヤニヤしてホワイティアは言ってくる。


また心を読みやがって……記憶喪失(心を読むな)の魔法をかけちゃうぞ!


と思っていたら健康診断を無事に全員終えてくれたレオナルドが話しかけてきた。


「あれ?皆んな魔法で治療出来るのに何で俺だけ人が集中してたんだろう?お陰で、呪文の引き出しが空っぽだよ〜また新しいの考えなきゃ」


どうやら厨二病パフォーマーの彼は、皆んなに違う呪文を唱えてあげてたみたいだ。ご苦労さん。

それにしても、女子がキャーキャー言って握手まで求めて来てたのに彼は無自覚なのか?


「どう?いいでしょう。レニーは頭が切れる癖に、そういう所はお鈍さんなのよっ。レニーに惚れた腫れたと言っている女子と、それに気づかない彼を見て、誰とどう恋愛に発展して行くのかを想像するのが私の趣味でもあるのよ。うふふ」


ホワイティアはコソッと嬉しそう教えてくれた。


ほぉ。それはまるで恋愛ゲームの主人公。

やっぱり光の精霊に選ばれる人は、そういう性質を持っているんだなぁ。としみじみ思うエヴァなのであった。



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