異世界第23話
ここはアイゼンハワー公爵家。
エヴァは昨日の出来事を思い出す。
朝から公爵家の使用人達の健康診断をして、
午後に王宮に向かうなり王子が現れず、
やっと出会えたと思ったら魔法を連発して王妃様を驚かせて、
王宮の患者を診る為に訪れた場所には攻略対象者のフィンセントがいて、
彼を笑わせる事に成功し、
患者を治した後は勇者と光の精霊がいて、
私の最終目的である王妃様の治療は勇者がやってくれたっていう……。
一生懸命走り回ってたけど、結局私が何もしなくても王妃様は死なずに済んだのか…と思うとやるせない気持ちになるけど、王妃様の治療の為に始めた公爵家の健康診断では、チラホラと治療する人がいる事も分かったし、定期的に継続していこうと思う。
エリアス陛下と王妃様のあの様子だと2人は相思相愛だったみたい。
ゲームではエリアス陛下の側室の幼馴染と恋愛関係だってなっていたけど、あの後臣下の人達から、それは側室本人が流したデマの噂だと聞いた。
ゲームでもルイス王子に酷い仕打ちをしていたけど、やっぱり側室の幼馴染はどうしようもない人間なんだな…。
エリアス陛下は出会った時から王妃様に夢中だったみたいで、王妃様の回復に臣下の人達は心から喜んでいた。
これで“恋マジ”のゲーム中盤で起こる、ルイス王子がエリアス陛下と側室だった王妃を暗殺して戦争を起こすという恐ろしすぎるイベントは回避されたのかな。
ふぅ……。
安堵と共に、本当に大変な一日だったと振り返ってまた疲れてしまった。
居間のソファーでグッタリしていたら、エヴァは光に包み込まれた。
………あ…春の様な柔らかな日差しの空の下、緑の芝生の上で寝転がってゴロゴロしている時の様な穏やかな気持ち…ああ…落ち着く………
光が消えた頃にはエヴァの心と体は癒えて、疲れた気持ちは消えていた。
「……ありがとうホワイティア」
「いいのよ〜。どう?癒しの魔法。契約したくなった?」
ムフフと笑うホワイティアは私の隣に座っていた。
向かいのソファーにはクロードとレオナルドがいる。
そう、もう一度話の冒頭に戻る。
ここはアイゼンハワー公爵家。
エヴァは昨日の出来事を思い出す。
王妃様の治療が無事に終わって、レオナルドとホワイティアには王宮で1週間程過ごす話が出ていた。が、二人とも頑なにアイゼンハワー公爵家で過ごしたいと駄々をこね始めた。
レオナルドはとにかく口が上手い。
国王陛下を立てつつ、アイゼンハワー公爵領に昔から興味を持っていたなんてさも今考えた様な嘘を、彼の知識と情報量そして相手を上手に褒めて気持ちよくさせる巧みなトーク力によって、一週間のアイゼンハワー公爵家での滞在を許可して貰っていた。
隣国の勇者を王宮でもてなさず、公爵家に丸投げなんて出来る訳がないと私は思って、レオナルドは精神干渉魔法を使ったのかな?と思ったけど、使っている形跡は一切なかった。
厨二病勇者…恐るべし。敵に回すべからず。
しかしクロードは許さなかった。
レオナルドが国王陛下に滞在許可を勝ち取った瞬間、また時の魔法で私達四人以外の時間を止めて怒り出した。
どうもクロードは私がレオナルドとホワイティアに攻撃される事を嫌がっている様だった。
レオナルドは私をジッと見てから、精霊の誓いをすると言い出す。
今後、金輪際レオナルドは私に攻撃はしないと、破った時には死が約束されてしまうという精霊の誓いを立てたのだ。
え?
えええええええ?!!!
死ぬとか…とんでもない事を誓ったみたいだけど大丈夫?!
そもそも何で私が攻撃される前提なの?!私が何かしたのか?!
私一人が混乱している中、クロードとホワイティアは了承して、レオナルドの精霊の誓いは立てられる。
誓いを立てた瞬間レオナルドは光り、彼の指には指輪にも見えるような細いリング模様の印がついた。
しかも左の薬指に。よりによってその指に……それ、一生消えないのかな………。
レオナルド……後悔していないのか?と見ていたら、彼は私を見て微笑んで「エヴァちゃんと結婚したみたいだね」とあっけらかんと言った。
またゴゴゴゴゴ……と大地が揺れた気がしたけど、この国は地震大国だったかな?
そしてレオナルドが誓いを立てる前、実はホワイティはそれに反対していたんだけど、エヴァと契約したら深淵化はホワイティアが止めるから大丈夫と言って、ホワイティアと私の契約を了承してくれたらレオナルドの精霊の誓いも了承するとクロードに話を持ちかけていた。そしてそのまま二人の喧嘩は始まった。
ていうか、深淵化って何?!さっきから疑問がいっぱいなのに、私を置いてけぼりにしてクロードとホワイティアの言い争いは止まらない。
クロードが魔法で攻撃しそうになった瞬間、レオナルドが止めてくれた。
どうやらこの国に入った時にホワイティアが気づいたらしいが、私以外に契約出来そうな人物の魔力を感じたらしい。しょうがないから何かあった時はその子と契約すると言って、ホワイティアは泣く泣くレオナルドの精霊の誓いに了承していた。
多分それって“恋マジ”の主人公の事だろうな。と思いつつ、私を攻撃する気はあるんだと思うとホワイティアが少し怖かった。
やっぱり私が悪役令嬢だからなんだろうか。
それをこの三人は薄々分かっているのかもしれない…。
私自身、フィンセントと話している時に自分が意地悪な人間だと気付いてしまったし。
このままゲームに逆らえず、悪の道に走って断罪されてしまう未来なのだろうか。
どうしよう、怖いよ………。
「皆さまお待たせいたしました。朝食の準備が出来ましたのでご案内致します」
また昨日を思い出して心を落ち込ませていたら、使用人の言葉によって現実に戻された。
ソファーから立とうとしたら、クロードが手を伸ばしてきて私は軽々と持ち上げられてしまった。
………え?
「何か良くないことを考えておっただろう?」
クロードは私を優しく包み込む。
「うん……」
クロードだけは私が悪の道に走る悪役令嬢になってしまったとしてもずっと一緒にいてくれるだろう。
そう思ったら心が温かくなった。
ジワっと泣きそうになったのでクロードの胸に顔を隠す。
「………クロードさん、ホワイティアが発狂しそうになるから、そろそろエヴァちゃんを降ろしてくれないかな?」
「レニー!何を言っておるのじゃ!クロードよ、そのまま女子を胸に抱えておるが良い。そのおぬしの胸元が女子の涙で濡れるたび…二人のどちらともつかなかった気持ちが次第に分かってくるのじゃ。そう永遠に変わることのない愛だということにな……。キャーーーーーー!!!のうのう、おぬしら、そろそろ妾に接吻を見せてたもう!それまでこの屋敷からは離れぬからのぅ!」
「っくっくっく……落ち着けよホワイティア……ぷっ、くっくっくっく………」
「また訳の分からぬことを…一週間我が我慢してやると譲歩したのに、それ以上とは絶対に許さぬぞ?」
「嫌じゃ嫌じゃ、妾はおぬしらの恋を見届けるのじゃ〜〜!それまでここに居させてたもう〜〜〜!」
朝食の部屋へと続く道のり、レオナルドが離脱した。
腹を抱えて笑い、これ以上歩けないみたいだ。
どうやら彼は笑い上戸なんだろう。
ホワイティアのお陰で涙は一気に引っ込んだ。
何故なのか分からないが、ホワイティアは公爵家では人間の姿で滞在するらしい。
もちろん今の話も、これからホワイティアが話すと予想される事も全部使用人に筒抜けになる。
案内してくれていた使用人の歩き方がガクガクしてロボットの様になっている気がする。
どうか、これがホワイティアの戯言だと分かった上で、仕事上の守秘義務を彼女が守ってくれると信じている。
はぁ………。
大きなため息と共に、この先の一週間を思うと疲れてしまう。
三歳児をここまで疲れさせるとは…
………おぬしら、ゴタゴタぬかしてないで
はよう国へ帰ってたもう〜〜〜!!!




