異世界第21話
「来たのは分かっておった。ホワイティア」
クロードは8年前の最後にホワイティアと会った時と同じ意思を宿した瞳だった。
光の中から生まれたような精霊のホワイティアは、透けるようなクリーム色の緩やかな長い髪を片手であしらいながら言う。
『あら、バレちゃった?嫌ね、そんな怖い目で睨まないでよ〜。今回は争うつもりなんてないんだから。むしろ助けに来たのよ?』
「何をしに来たかなどどうでもよいわ。貴様に何を言っても意味を成さぬ事は分かっておるが、我に関わると容赦はせぬぞ?」
『ふぅ〜〜ん。……クロードにでは無くて、その大切そうに抱えている子供に関わるなって事かしら?それに人間の格好までしちゃって…余程その子に入れ込んでいるのね』
ふふっ、とホワイティアは煽る様な笑顔で言った。
その瞬間、クロードの体から黒く禍々しいオーラが立ち昇る。
それを見てもホワイティアの隣にいる男は怖がりもせず、何知らぬ顔をして近づいて来た。
「ねぇねぇ、その女の子可愛いね〜。まさかクロードさんの新しい契約者だったりする?」
男が発言した途端、彼の足元に真っ暗なブラックホールの穴が出現し、物凄い勢いで吸い寄せられた。
「うわわっ!!」
『ちっ…!レニー、防御して!』
ホワイティアは舌打ちをして、ブラックホールに光の光線を放ち相殺させる。その衝撃で物凄い爆風が起こるが、クロードの空間遮断と、ホワイティアの光の壁により周りに影響は出さなかった。
『あんた馬鹿じゃないの?!どんだけその子が好きなのよ?!とって食う訳じゃないんだし、攻撃してこないでよね!面倒くさいなぁ〜』
「関わると容赦はせぬと言ったではないか。しかし、その男はレオナルドという名ではなかったか?」
『レニーは愛称よ。あんた人の名前覚えないくせによく覚えてたわね。……まさか、8年前の事まだ根にもってるの?!』
「あれは一生忘れはせぬ。多勢に無勢であった我の契約者を殺した卑怯者のレオナルドであろう?」
「痛てて…。ひぇ〜〜、俺クロードさんに恨まれてるの?確かに魔王を倒したけどさ、そもそも魔力制御できずに魔王に深淵化したアイツが悪いだろ?」
自己防御したレオナルドだったが、近距離での爆風に
飛ばされてお尻を打ったみたいだ。
そんなレオナルドの言葉に、クロードは苛立ち、彼の周りの空間を真空状態にする。
「……っっ!」
『もうっ、いい加減にしてよ!!』
ホワイティアは癒しの風で空間に穴を開け、さっき痛めたレオナルドのお尻ごと癒して、空間を破壊した。
『……分かってると思うけど、その子が魔王に深淵化しない限りこちらからは何もしないわよ。少し落ちついてよね。それに…その子、信じられないけど、創造神の加護が付いているわね。それならある程度まで魔力オーバーしても深淵化は防げるんじゃないかしら?』
「げほげほ…っ!あ、凄いね!虹色の魔力なんて初めて見たよ。綺麗だねぇ〜。あの子ならホワイティアとも契約出来そうだね」
『あら、確かに』
クロードは今日1番の怒りに達し、燃えるような青黒い炎が立ち上がる。クロードの周り一帯は炭と化して床すらも消えてしまった。宙に浮いた彼はホワイティアとレオナルドを凄い形相で睨んで警戒している。そうしているうちに、クロードの腕の中にいるエヴァがモゾモゾと動きだしたのに気づき、やっと我に返った。
クロードは時の魔法を使い素早く消し炭になった場所を再生する。
「ん……あれ、私寝ちゃってた?
………え?!ここクロードの空間魔法の中?何かあったの?!」
「いや、特に何も無い」
さっきまで鬼の形相をしていた男が、エヴァを見て少し微笑んで返事をした。
ホワイティアとレオナルドは、おいおいと盛大に突っ込む。
『初めてまして、クロードの契約者さん。私は光の精霊ホワイティアと、この子は隣国の勇者レオナルドよ。よろしくね』
「よろしくお嬢ちゃん!可愛いね〜お名前は何て言うの?」
目覚めて見たのがクロードのアップで、それからの美女と美青年を連続で目の当たりにして、エヴァの目は美しさに耐えられず頭も回らなかった。
「はへ?」
「はへちゃんって名前?」
「そんな訳はあるまい。貴様らなどに教えてやる名など無いのだ」
レオナルドがアホなことを言った瞬間、クロードは一刀両断する。
エヴァは動揺して未だに付いて行けない。
「いや、怖いよ〜クロードさん。8年前の事があるからなんだろうけど、俺だって魔王の事は一生忘れないよ。俺こんなんだけど、人を見る目だけはあるんだ。魔王は悪いヤツじゃなかっただろ?戦っててもクロードさんを気遣いながら戦ってた。俺だって、魔王が深淵化さえしていなかったら、戦いたくなんて無かったんだよ…」
クロードの剣幕や攻撃にもあっけらかんとしていたレオナルドが、顔を歪めて下を向いている。拳からは血が流れるんじゃないかと思う程強く握られていた。
『レニー…』
「クロードさんお願いだ。魔王の名前を教えてくれないか?俺、その名前一生忘れないから。お願いします!!」
レオナルドは姿勢正しくお辞儀をした。
クロードは予想外の事に驚いて言い淀んでいると、腕の中から声が聞こえた。
「 マクシミリアン。
マクシミリアン・アダムズだよ。
…レオナルドお兄さん」
何故かエヴァが発言した。
そうだよね?とクロードに聞くと、ああ…と戸惑いながら返事をする。
クロードは前の契約者の名前をエヴァに言った記憶が無いからだ。
エヴァも何故名前が口から出てきたのかが分からずにいた。話の内容も朧げにしか聞いていなかったのに、思わず口から出てしまったのだ。何とも不思議な気持ちになっていたらレオナルドが話しかけてきた。
「マクシミリアン…か。教えてくれてありがとうお嬢ちゃん。もう一度聞くけど、お嬢ちゃんの名前は?」
いや、だから、名前はマクシミリ………。
「………エヴァーミリアン」
「エヴァーミリアンか。じゃあエヴァちゃんかな?なんだか名前も雰囲気も彼に少し似てるね。ふふっ、よろしくねエヴァちゃん」
一瞬自分がエヴァーミリアンだということが分からなかった。どうしたんだろうこの感覚…。
クロードもエヴァを見て呆然としていた。
そしてその反面、ホワイティアはクロードとエヴァを見てずーっとウハウハしっぱなしだった。
何千年も昔からクロードを見てきたが、前回の契約者の時から様子が違うとなと思っていたら、今回のエヴァに対してのクロードの態度と言動でハッキリしたのだ。
これって……マジでラブじゃん!!
きゃーーーー!!!
ホワイティアは他人の恋愛が大好きだ。
クロードみたいに鈍感な男が恋愛をして、好きなのに自分の気持ちに気づいていないもどかしいラブは大好物だった。
うふふふふ!!しかも幼児を好きになるってどんだけ年齢差あるんだって話よね!犯罪級でしょ!
しかも精霊と人間!歳も人種も違う2人が禁断の恋に落ちるとか!いや〜〜ん!私興奮しちゃう!
これは是非ともエヴァちゃんと契約に漕ぎ着けて近くで観察しなければ!!うふふふふ……
『エヴァちゃんって、癒しの魔法とか興味ないの〜?』
いきなりホワイティアが怪しい顔で尋ねる。
「…え?癒しの魔法ですか?」
『そうそう、疲れた時なんか癒しの魔法を使って一発で元気になっちゃったり出来るし、それ以外にも、好きな人ができたら好感度アップさせる事ができる精神魔法もあるのよ〜!どう?私と契約しない?』
ゴゴゴゴゴゴゴ…………
大地が揺れだした。何故だか分からないが、クロードの顔に影がかかって見ることが出来ない。
エヴァは正直美味しい話だなと思って聞いていた。
前世で社畜だった頃の疲れを思い出す。あの疲れに時の魔法を駆使したら疲れる前に戻るかもしれないが、また疲れて戻すという永遠に歳をとらないピーターパンになってしまうだろう。
やっぱ疲れ知らずの癒しの魔法は魅力的だ。
あと精神魔法…。なんて恐ろしく誘惑的な名前なんだ。この魔法があれば、ゲームのフラグなんて簡単に折れて断罪を避けるのなんかチョチョイのチョイなんじゃないのか…?じゅるり…。
そもそも、光の精霊ってゲーム主人公が契約していたよね?!あれって精神操って好感度上げてたのかな?!うわっ、マジか…ズルっ!!!
…とは言うものの、そもそも私が契約していいのかな?
あれ、でも確か契約する時って……あ、ダメだ!恥ずかしくて流石にもうできないよ!!
「契約のお話は嬉しいんですが、契約するのはちょっと……」
『え?何で?してもいいって思ったんでしょ?』
ゴゴゴゴゴゴゴゴ………
今だに地響きが鳴る中ホワイティアもエヴァも構わず話す。
「け…契約する時に……く、口付けをするじゃないですか?!わっ私は、もう、好きな人とじゃなきゃ出来ないんですぅ!!!」
『「はっ?!口付け?!!」』
ホワイティアとレオナルドが声をあげる。
………地響きが止んだ。
『え?確かに口付けでも契約はできるけど、普通は血の契約が主流よ。ちょっとエヴァちゃんの血を貰えれば済む話なんだから…………まっまさか!!』
ホワイティアは興奮してクロードを見た。
「なっ何なのだその顔は?!仕方がないではないか!我とエヴァが契約したのは3年前、生まれたばかりの赤子を傷つけて血を取るなど怖くて出来ぬわ!!」
『き………きゃああ〜〜!!もう接吻が済んでおるとは思いもしなかったぞよ?!クロードよ!おぬし奥手と思うておったがなかなか手が早い奴じゃのぅ…。生まれたばかりの真っ白な女子を自分色に染めおってからに!いやらしいのぅ…。まだ妾に隠している事はないのか?2人の馴れ初めをはよう教えてたも〜〜う!』
ホワイティアは興奮しすぎて隠していた地が出てしまった。
「ホワイティア……」
クロードとエヴァはホワイティアの言葉に顔を真っ赤に染めて言葉を詰まらせた。
レオナルドは久しぶりにその言葉遣いを聞いたと言って腹を抱えて笑っている。
光の精霊の興奮は冷めやまず輝きは増すばかりだった……




