異世界第20話
「ははっ。父の口癖は“呪いの魔法のせいだ”だと、母が言っていました」
「いや、それは我が彼奴に言ったのだぞ?これ以上酒を飲むと呪いにかかると。それを彼奴はいつも無視しおって、毎回朝には屍になっておったのだ。おぬしの母親にこってり絞られておるのに、いつも我の言うことを聞かぬのだぞ?」
「くっくっく…。それは初耳です。父はどうしようもない酒飲みだったんですね。父のセンスは絶望的に酷いとは母によく聞いていたのですが」
「あぁ、あの“ご当地人形”なるものか?あれは確かに酷いものであったな…。確か我も押し付けられていくつかまだ持っているぞ。……………ほれ、見てみろ」
「な、何ですかこの奇妙な小豆色の物体は…!!」
「これをおぬしの父親は可愛いと言うのだぞ?意味が分からぬであろう?…ほれ、父親の形見としておぬしにも1つ分けてやろう」
「………非常に悩む所ですが、正直欲しくはないですね」
「くっ…くくく、そうであろう?これが可愛いと思える奴に是非とも会ってみたいものだな」
「「はははは……!!」」
………………え、何だこの状況は?
エヴァがフィンセントに笑顔を見せろと発狂して(もちろん笑顔は見れず)しばらくして落ち着いた頃、フィンセントの父親とクロードの旅の話を、ふと思いがけずに聞いたのがきっかけだった。
こんな展開になるとはつゆ知らず、気づいた時には2人の会話に全く入っていけない私は置いてけぼり。
私があれ程苦戦してやっと一瞬だけ笑顔を引き出せたというのに、今やフィンセントは普通に声を上げて笑っている……。
サイボーグフィンちゃんは何処へ行ったんだ?!
そしてクロード…。
3年間ずっと一緒に居る私が、1番クロードの事を知っていると思ってたのに…。
クロードは私に、前の契約者の事なんてこれっぽっちも話してくれなかった。
教えてもらえなかった彼の昔話を、他の人に笑顔で話している姿を見るのは結構ショックだ。
本当に何なんだこの状況…。
因みにその小豆色の人形?キーホルダーみたいなやつ、シュールで私は可愛いと思うんだけどな……。
ジト目で2人の事を見ていたら、ハンス侍医が部屋に入ってきた。
「エヴァーミリアン様、クロード様、お待たせしてしまい申し訳ございません。そして本日は誠にありがとうございました。今回の報酬の件は、アイゼンハワー公爵様に後ほどご確認をお願いします。つきましては、非常に申し上げにくいのですが、もう1つお願いがございまして……」
「王妃様の件ですか?!」
エヴァは待ちきれなくて発言した。
「!……いかにも。本日治療して頂いた患者は、王妃様のご病気と同一でございます。度重なり申し訳ございませんが、ただ今から治療の程お願いしてもよろしいで…「その必要はない」」
いきなり誰かがハンス侍医の言葉を遮った。その声の方を向くとドアに1人の男性が立ってる。
「バークファン侍医長……!!何故ここに?!」
バークファン侍医長……この人が王宮医師団の統括か。……でも何処かで聞いた名前だな。
「国王陛下のご命令だ。アイゼンハワー公爵家ご令嬢のエヴァーミリアン様と専属医師のクロード殿、謁見の間へご同行願う。話はその後だ」
偉い人だけに何とも威圧的な口調だなーと彼を見る。
スラリと高い身長に中性的な顔立ち、碧色の髪は短く後ろにかきあげられていて爽やかさを醸し出している。
髪と同じ色の瞳は少し鋭く、翠色冷光のごとく静かな輝きを帯びていた。
………彼とよく似た人を私は知っている。
威圧的で鋭い顔つき、碧色の髪と目、そしてその名前……間違いない。
彼の娘の名はメルバ。
フィンセントルートで断罪される悪役令嬢のメルバ・バークファンだ。
フィンセントのトラウマの原因でもある彼女だが、もうそれも心配無いように思える。
前提に彼はずっと孤立していた状態で、やっと笑顔を見せれるくらい気を許したメルバに心を傷つけられてトラウマになる。
しかし既に彼は、彼が助けた患者(仕事の同僚)達に好意にされているし、先程笑顔も連発していた。
だからと言って、メルバが放った言葉は相当の殺傷力があるから少し彼が心配だけど、ちょくちょく私とクロードで様子を見に会いに行けば大丈夫な気がする。
そこが解決しても彼女が断罪されないと決まった訳ではないので、どうにか彼女と接触して話してみたいけど…。それは追い追い考えよう。
それにしても、エリアス伯父さまの呼び出しって何なのかしら?
早く王妃様の治療をしたいのに…もうっ。
フィンセントとハンス侍医とはここで一旦お別れして、バークファン侍医長の案内に付いて行く。
この男、後ろも見ずにサッサと歩いていく。
バーロー!私は頭脳は大人、見た目は子供の3歳児だと分からないのか?
バークファン侍医長の歩幅に付いて行けないエヴァは、しょうがないからクロードに抱っこされて進む。
……うふふ。しょうがないよね?
今日は朝から立て続けに魔法を使って少し疲れたし、つかの間の癒しを堪能しよう。
目を閉じてクロードの胸板ににギュッと抱きつく。
ほわわ〜〜クロードのいい匂いがする。温かくて癒されるわぁ〜〜ほよよ〜〜。
………………。
謁見の間に着いた頃にはエヴァはすっかり熟睡していた。
荘厳な扉を警備兵が押して開く。
だだっ広い部屋の中には国王陛下であるエリアスが玉座に座っていて、その隣にはエヴァの父である氷の宰相も控えている。
護衛兵と王宮魔術師、王宮医師団の医師も何人か顔を揃えていた。
その他に、謁見の間にはクロードの知っている人物が2人居て、周りの人とは次元の違う異彩を放っていた。
2人…と言っても、1人は精霊の姿だ。
全身を白く輝かせている妖艶な女の精霊は、現れたクロードを見てニヤリとした笑顔を向ける。
クロードの顔は険しく、2人を睨むと同時に時の魔法を使用した。
辺りが藍色の空間に覆われてて、クロードとエヴァ、向かい合う2人以外の時間を止める。
『クロード、久しぶりね?わざわざ会いに来てあげたわ』
「………来たのは分かっておった。ホワイティア」
そう言ってエヴァを抱きかかえている彼の腕は、決して離しはしないと言っているかの様に、よりいっそうキツく彼女を抱きしめたのだった。
書き始めて今日で丁度1ヶ月が経ちました。
ブックマークや評価をつけてくれた方々、ありがとうございます。頑張る糧になっております。こんな拙い文章をここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!!




