(改稿)セレーディア王妃side1
改稿しました。内容少し変わりました、すいません‥。
この病は因果応報なのです。自分の行いは巡り巡っていつかは自分に返って来るのです。運命とは自らの行いが生んだ必然なのですから、私は受け入れなければならないのです。だけど……
「ルイスに会いたいわ…」
「そうでございますねー」
「ルイスから貰ったお花がもう枯れてしまいそうだわ…」
「そうでございますねー」
「ルイスは今何をしているのかしら…」
「そうでございますねー」
「……ちょっと、ばぁや!ちゃんと人の話を聞いているの?!」
「お話は聞いておりませんでしたが、セレーディア様がルイス殿下を愛している事は充分存じております」
「んもう、ばぁやったら!」
「セレーディア様、病は気からでございますよ!いつまでもショボくれていないで前向きにお話をいたしましょう。あっ!ほら、見てください!北東の方角へ竜が群れをなして飛び立ちましたね…そこのリウマチの竜、待ちな!…なんつって…ンゴホッ、ゴフォッ!!」
「ばぁや……あまり無理して話さなくて良いのよ。私もやっと咳が落ち着いて話しかけたのがいけなかったわね。北東の方角…あの竜騎士達は私の故郷の国へ向かっているのかしら…」
「ンンッ…ゴホッ。大丈夫でございます。お見苦しい所をお見せして申し訳ありません。お懐かしいですね…。故郷のジークヴァルド王国は今頃雪が降っている季節でしょうか。…雪の季節でスノウ…」
「……そうね、懐かしいわ…。この国は四季はあるけれど雪が降る程寒くはならないから。あんなに厳しい冬に降る雪を恋しく思うとは不思議な話ね。あの竜にルイスと一緒に乗ってジークヴァルドの雪景色を見せてあげたいわ…」
「そうでございま……ブッゴフォン、ブォッフォン!!」
「…………。」
私の名はセレーディア。ジークヴァルド王国の第1皇女として生まれ、5年前に遥か南西にあるウィンチェスター王国のエリアス陛下に嫁ぎ王妃となったのです。
ジークヴァルド王国……もう二度とあの地を踏みしめる事が出来ないなんて……
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あれはジークヴァルド王国の長く厳しい冬を越えて、やっと儚く短い春を迎えた頃だった。
雪に隠れて寝ていた草や土がお日様に起こされて顔を出し、温かく乾いた風がまだ青いその匂いを舞い上げる。私は深く呼吸をして、この一瞬の季節を感じ、満たされていた。
私はお庭で趣味の恋愛小説を読もうとしたら、お父様と偶然鉢合わせる。
『セレーディア、もう少しで7歳の誕生日だね。何か欲しい物はあるかな?』
『欲しい物…。お父様、食べ物でも良いのですか?』
『ん?セレーディアはこんなに華奢な体なのに、宝石やドレスではなく食べ物が欲しいのかい?』
『はい…。以前ワイルドボアのお肉を塩胡椒で食べたのですが、美味しくてまた食べたいなと…』
『うーーん……よし、セレーディアの願いだ!私が叶えてあげよう!』
『嬉しい…。お父様ありが…『セレーディア!!』』
『?!お兄様…?』
『お前は全く、今の国の現状が分かっていない!お前が父上に頼んだ物は今の時期ほぼ入手困難なんだぞ?我慢で父上を困らせるのではない!』
第1皇子のお兄様はセレーディアに何かと厳しく当たる。同じ第1王妃から生まれた兄妹だというのにあまり姿が似ていない兄を、セレーディアは少し苦手に思っていた。
『まず、ワイルドボアは遥か遠くの南の森に生息する。王宮には魔道具の冷蔵庫はあるが、一般市民は冷蔵庫などの高級品は持ち合わせていない。冬が終わった暖かい今時期に、ワイルドボアを長い道のりをかけて運送するとなると肉は傷んでしまうのだ。それに胡椒がこの国ではいくらに跳ね上がっているのか知っているのか?今や胡椒は同じ重さの金よりも値がはるのだぞ!胡椒の原産国であるウィンチェスター王国からいくつかの国を経由して、そのルートにある隣国のトルジャン王国と我が国は今、国交断絶の真っ只中だ。要するにセレーディアのお願いはお父様を大変困らせるものであるのだぞ!』
兄が説明をしてくれたけれど、まだ6歳のセレーディアには少し難しくあまり理解出来なかった。
将来自身が政を行うわけでは無いし、セレーディアは将来国の為に政略結婚をする事は確定なので、その為の淑女の作法や礼儀などの勉強で今はいっぱいいっぱいだったのだ。
お父様を困らせるつもりは無かったので、ひとまず謝る事にする。
『…そうだったのですね。お父様無理を言ってしまってごめんなさい。私、違う物を考えますわ』
『セレーディアすまない…。宝石やドレス、甘いお菓子ならいくらでもセレーディアの為にプレゼントするからね。時期が来たらまたワイルドボアのステーキを用意するから、それまで待ってておくれ』
『ありがとうございます、お父様。嬉しいけど、お父様に無理はして欲しくないわ。もし私が隣国のトルジャン王国に嫁げば国交は良くなるのかしら』
『なっ、何を言ってるんだ、セレーディア!ウィンチェスター王国の様に魔道具も発達した栄えている国ならともかく、トルジャン王国の様な金の亡者で意地汚い小国にセレーディアを嫁がせるなんて許さないぞ!』
『…お父様。では、いつか私はウィンチェスター王国に嫁ぐわ。そして魔道具と胡椒をこの国に流通させて、お父様の役に立ちたいわ』
『セレーディア……!!』
『ふっ、セレーディアの弱いおつむでウィンチェスター王国などに嫁げるわけがないだろう』
『コラッ、そういう事を言わない。兄なんだから妹に優しくしなさい』
そうこうしているうちに、ドスドスと地響きの様な足音達がこちらに向かって来るのが聞こえた。
『あっ!セレーディア姉様!今日もお父様のお隣に座ってお話ししているなんてズルイですわ!!』
『『ズルイですわー!』』
『まぁまぁ、皆してセレーディアを責めるでない。』
『…父上はセレーディアを甘やかしすぎではないですか?そんなに甘やかしていたらロクな育ち方をしないと思いますよ』
『おお〜〜怖い怖い。いいではないか。第一皇子なのにそう怒ってばかりいると女の子にモテんぞ?』
『なっ…そんな事はどどど…どうでも良いのです!父上っ!!』
昼食後の麗らかな陽気のお庭で静かに本を読むつもりが、何だか賑わってきた。
お父様であるジークヴァルド国王陛下の周りには皇子、皇女達がギュウギュウにひしめき合っている。
そう、ぎゅ…『牛牛…でございますね。セレーディア様』
『………。』
乳母であり侍女のばぁやが、ボソッと後ろから私の耳元で呟く。
侍女を統括する侍女長にと声がかかったのに、その高給職を蹴ってまで私担当の侍女として働いている、ちょっと変わり者のばぁやだ。
愉快なばぁやの発言の数々に対して、私の辞書には突っ込むという言葉は無いというのに、それでもへこたれない精神は素晴らしいと思うが…。
そして私は、何も自らお父様の隣に座ったのではない。お父様が私の隣にいつも座ってきて話しかけてくるのだ。
その理由は私の予想でしかないが、私以外の皇子、皇女達が皆さん牛…膨よかな体型をしているからだと思う。
こんなにも膨よかな集団に囲まれたら少し暑くなってきたわ…。
『では、私はそろそろセレーディアと瓜二つの美人な王妃の元へ向かうかな。皆、仲良く遊ぶのだぞ?』
『『はぁ〜い!!』』
あら、お父様額に汗が…。
お父様が立つ前にセレーディアがハンカチで汗を拭いてあげると、お父様はありがとうとセレーディアの頬にキスをして去って行った。
周りの兄妹達が殺気立ち、空気が変わる。
『……ばぁや』
『はい、セレーディア様。参りましょう』
ばぁやはセレーディアの気持ちを瞬時に理解し、声をかける。
セレーディアは、ばぁやの声で立ち上がり微笑んで言う。
『では、皆さま御機嫌よう』
『『………。』』
セレーディアの父であるジークヴァルド王国の国王陛下は、3人の王妃に27人の側室を持つ大所帯の王宮であり、皇子や皇女などは数え切れない程いた。
過去の戦争で広大な領土を誇る国だったが、女にうつつを抜かす国王の政治は酷いもので、それに伴い近隣諸国との力関係もいつのまにか均衡してしまう。
我が国はいつ戦争になるか分からない状態が続く中で、表向きは戦争を避ける為に妹達の皇女が他国へ嫁ぐ中、溺愛されていたセレーディアは17歳の歳までぬくぬくと王宮の暮らしをしていた。
―――――そんなセレーディア17歳の冬。
父の愛情を独り占めして兄妹には嫌われているし、王妃と側室のドロドロな人間関係に関わるのも疲れたセレーディアは、王宮の外へ抜け出し貴族令嬢達が開くお茶会に頻繁に参加していた。
今日は、ばぁやの実家でもあるクリューガー侯爵家でお茶会が開かれていた。15歳前後の令嬢達が集まり、今話題になっている貴族御用達の店のお菓子と旬の紅茶を嗜みながら話に花を咲かせている。
『この前王宮に行きましたら、例の彼女を見かけましたのよ。なにやら陛下の側室の集団に囲まれて扇子で腕を叩かれていましたわ』
『まぁ…恐ろしい』
『私も…、王宮で開かれたサロンで彼女が紅茶をかけられている所を目撃しましたわ』
『まぁ……!!』
最近の話題の中心は、“奇跡の手を持つ英雄”の妻であるユーリヤという女性の話だ。
我が国の英雄は人々の病を治し、作物を豊かにさせる奇跡の手を持っている事から、平民は勿論、王族や貴族からも懇意にされていた。
そんな彼が国外からの刺客に狙われてしまい、王宮で妻と子も一緒に匿っているとは以前から聞いていたが、どうも私の父である国王陛下が妻のユーリヤをえらく気に入ってしまったみたいなのだ。
セレーディアの2つ年上で19歳のユーリヤは、平民出身だというのに知的で気品のある美しい女性だ。
しかしその平民の女が陛下からの好意を受けている事に側室達は我慢ならなかったのだろう。
『セレーディア様は王宮にお住まいですから他にも色々ご覧になられておいででしょう?』
『いえ、何故だか私はその様な現場を1度も目にした事がないのよ』
『それはどうも作為を感じますわね…。王宮のサロンでの事も、セレーディア様がご退出されてから起こった出来事でしたわ』
『国王陛下の愛し子でいらっしゃるセレーディア様に悪事を見られてはさすがに不味いと思ったのでしょう。しかし私たちにまんまと見られるなんて、側室の方々も爪が甘いですわね』
『本当におっしゃる通りでございますわ』
『『おほほほほ…』』
国王陛下の側室達は他国からの姫君が多く、王宮で我が物顔のように踏ん反り返っている傲慢な態度を、令嬢達は不快に思っているのだ。
セレーディアもお茶会の噂では耳にするが、実際に見た訳では無いので国王陛下に安易に伝える事も出来ずにいた。
他にも聞くに耐えない噂は聞いていたので、近々ユーリヤ本人に話を聞いてみようと考えていたら、いつの間にか令嬢達の話題が変わっている。
『先日ウィンチェスター王国のエリアス皇子を王宮で見かけましたのよ!』
『私もお見かけしましたわ!一週間ほど王宮に滞在していたらしいですわね。我が国の皇子達とは違い、とても麗しいお姿で…!す、すいませんセレーディア様!ご兄弟の事を悪く言ってしまい…』
『ふふっ。いえ、大丈夫よ。私の兄弟達はぷくぷく太ってお父様にいつも怒られているのですから。ダイエットしなさーいって』
『うふふ…国王陛下は美意識が高いですわね』
『本当ね。セレーディア様が国王陛下に溺愛されるのも頷けますわ。エリアス王子も美しいセレーディア様に一目惚れをしてしまったのではないかしら?』
『そ、それはあり得ないわ!あまり話す機会も無かったですし…』
セレーディアは顔を赤く染めた。
正式に発表するまで皆んなには伝えられないが、数日前に急遽、ウィンチェスター王国のエリアス皇子との婚約が決まったのだ。
数ヶ月前、お父様が長年やり取りをしていたウィンチェスター王国の国王陛下が病で伏せてしまう。
後継者であるエリアス皇子と私の婚約を、病を機に急遽国王同士が取り決めてしまったのだった。
大国同士の政略結婚…と割り切っていたが、エリアス皇子を見た瞬間一目惚れをしたのはセレーディアの方だった。
金髪碧眼の優しそうな笑顔を見た途端、恋をした事が無いセレーディアは何故かビビビッと心臓を鷲掴みにされて運命を感じた。
セレーディアは会話があまり得意では無い方だが、誰かに緊張して話せないなんて初めての体験だった。
数回、父や側近も含めて食事をしたが、全く自分からは話せずじまい。
エリアス皇子は優しく声をかけてくれたけど、何て言ったら好きになって貰えるんだろう、なんて考えていたら言葉が出なくなってしまって、結局彼の中での私は酷い印象しか残らなかっただろう。
そう思い出して顔を青くしていると、衝撃的な言葉が聞こえた。
『私の従兄弟がウィンチェスター王国にいるのですが、エリアス皇子には昔から結婚を約束している幼馴染の女性がいると聞きましてよ』
『まぁ…!やはり、あの美貌ですものね。婚約者の1人や2人いて当たり前ですわね』
セレーディアの心臓が一気に冷たくなった。
何を自分は浮かれていたんだろう…。
昔から、好きでもない相手と政略結婚する事は覚悟の上だったはずだ。
側室生まれで王位継承権下位の弟や妹達は好きな人と結婚ができて、王宮を離れ自由に暮らしているのをずっと羨ましく思っていた。
出る事の叶わない王宮の鳥籠の中で、私は行き場のない気持ちを恋愛小説で紛らわしては、現実を思うと辛くなり、また恋愛小説を読む…。
そんな私の前に現れたのがエリアス皇子だった。
覚悟をしていた政略結婚がついに決まってしまった…と恐怖を感じたが、まさか、出会った途端好きになるなんて思いもしない。
いや、本当は心の底では期待していたんだろう。
どうか結婚相手は素敵な人でありますように、私にも恋愛をする事ができますように…と、ずっとずっと願っていたのだ。
まさか私の密かな願いが叶うなんて思わず、エリアス皇子を想う気持ちは一気に膨張して、初めて感じる地に足の着かない感情に私は翻弄されていた。
エリアス皇子と一緒にいる時間は胸が高鳴り心が躍る。
言葉足らずで冴えない私だけど、エリアス皇子となら恋愛小説よりも素敵な恋愛ができるかもしれない、
と、期待をしていたのが…
馬鹿だった。
自分のお父様を思い返してみる。
第1王妃であるお母様を愛していると呟き、他の女性とも愛し合っている。
側室でお父様と話している所を見たことがない女性でも、お父様との子供はいるのだ。
お父様は特に自由な人だと思うが、貴族の男性に妾や愛人がいるのはよく聞く話だ。世の中の男性は皆そういう生き物なのだと思えてしまう。
恋愛小説に出てくる一途に私だけを見てくれる男性が現れるなんて、広大な砂漠の中で一粒の砂金を探すようなものなのだ。
王宮への帰り道はひどく足が重かった。
どうか神様がいるならわたしのこの重い足を翼に変えて下さい。
そして、あの王宮と言う名の鳥籠からこのまま逃げ出して、まだ見ぬ砂漠へと自由に飛んで行きたい。
砂漠の中で力尽きてもいい、他には何も望まないから、
私は一粒の砂金をこの手に掴んでみたかった…。




