異世界第14話
アイゼンハワー公爵家から王宮へ向かい馬車で20分程走ると、前世のヨーロッパで見る様な美しいデザインの建造物が建ち並び人々が賑わう城下町に入る。
背の高い建物が多く、美味しそうな匂い、人々の行き交う声、行商人の馬車や貴族の馬車が何台も走っていて、エヴァは初めて訪れるこの街に興奮しその光景に釘付けになる。
王宮に近づくにつれ、警備兵の数が増えてよく目にする様になってきた。
城下町を抜けると広大な湖が見えてきて、そこにはまるでフランスのモンサンミッシェルのごとく水中に浮かぶ巨大なお城が聳え立っている。
湖畔のほとりには立派な橋がお城のある島まで架かっていて、そこからでしか王宮への出入りはできない様になっている。
エヴァの乗る馬車が湖の上の橋を渡り城壁に囲まれた門まで着くと門番兵に招待状を見せる。確認が取れたらお城の中を通り抜けてまた少し馬車を歩かせるとルイス王子がいる宮殿に辿り着いた。
あの大きなお城は軍事施設を兼ねているみたいで、普段は騎士や魔導師が利用しているみたい。
この島の大きさにもお城や荘厳に佇む宮殿にもエヴァは驚きっぱなしだ。
宮殿の前に馬車を止めて応接室まで案内される間も、エヴァは建造物の美しさや壁画や絵画などの美術品に目を奪われてキョロキョロしながら歩く。
「エヴァ、ちゃんと前を見て歩くのだ。転んだら危ないではないか」
「え〜、だって宮殿だよ!見とかなきゃ損だよクロード!公爵家も凄いと思ってたけど、やっぱり宮殿は別格だね!後でお城の中も見せてくれないかな〜?」
と言った瞬間、エヴァは足をつまずいて転びそうになった。仕事のできる侍女は光のごとくエヴァを支えてくれて難を逃れる。
「あ、ありがとう」
「お気をつけくださいませ」
「ふっ…。ほら見ろ」
ぐっ……!!確かに転びそうになったのは私が悪いけどさ、この宮殿に興味を示さないなんて信じられないわ!!
あの階段の手すりや扉の取っ手に窓の縁、他の細部に至るまで統一された美しいデザイン。壁に掛けてある絵画の配置は絶妙なバランスで、絵画本来の美しさを際立たせる様な計算された飾り方。壁紙も決して他の調度品の邪魔をしない色合いと柄になっている。一つ一つは絢爛豪華な物ばかりなのに全くもってギラギラした嫌な感じはせず、落ち着いた品格すら漂うこの空間は賞賛に値するわ。
ふっ…。美的センスを養うのって大事じゃん?クロード君。
って思ったんだけど、あのちょっと古臭い言葉と考え方をしているクロードは、意外と服のセンスが良い。
私の様に侍女に服を選んでもらってる訳でもないし、お父様に服を買ってもらってるわけでもない。
人間になる時に着ている服は全て自前の物だ。生地も上質で仕立てもスタイリッシュな服をいつも着こなしている。
何処で買ってるのさ?っていうか、お金はどうしているの?…まさか、お店から盗んでいるんじゃ?!
って以前聞いたら怒られた。
なんでも昔、道の木陰で人間の姿になって昼寝しているとよく盗賊に襲われていたらしく、返り討ちにしてお金を得ていたらしい。
服は前の契約者の人と一緒に店で買ったのがいっぱいあるとか。
特に興味ないし適当に選んで着ているって言ってるけど、毎回色の合わせ方とか小物の使い方とかが上手いんだよねぇ。…本当にズルイ男だわ。
そんな事を考えつつ私と人間化したクロードと侍女の3人は、案内役の人に続いて応接室まで辿り着く。
午前中、王宮のお抱え医師に病気の患者を診てほしいと頼まれたので、急遽クロードにもお願いして一緒に来てもらう事になったのだ。
………そして約束の時間を過ぎても一向にルイス王子は現れない。
応接室にいる王宮の使用人達が慌て始めて、つい先程王子付きの従者が未だルイス王子が部屋から閉じこもって出てこないと謝りに来た。
え?ルイス王子は私に会いたいんじゃなかったの?!
あの手紙から2日経ってるし会うの嫌になったとか…?引きこもってたら余計気持ちは病んじゃうよね
…。大丈夫かな?
と心配していたら、お尻に違和感を感じた。
ん?
見るとルイス王子から貰った手紙の封筒と同じ封筒がお尻の下敷きになっている。
座るとき全然気づかなかったわ。と思い、封筒を開けてみたら…
ルイス王子の字だ。
“エヴァへ―――――
しりとりで僕が勝った時の、僕の最期の単語を覚えてる?
その塔の下で待っている。
―――――ルイスより”
はへ??
しりとりのルイス王子の最後の単語……私が食べ物単語を連発してビールを飲みたかったのは覚えてるけど、何だっけ?!
っていうか覚えてたら凄いわ!!ルイス王子…なんて無茶苦茶な!!もう、行けなかったらどうするのよ!
全く覚えてないので、王宮の使用人の方に塔の話しを聞いてみた。
別棟の塔は東西南北に4箇所。
サラマンダーの剣の塔、ウィンディーネの槍の塔、シルフの弓の塔、ノームの杖の塔があるそうだ。
ファンタジーっぽくってカッコイイな…。と思ったけど、聞いても全くどの塔か分からない。
そういえば、王宮の医師の人が王子との謁見が終わったら槍の塔に来てくれと言っていたな。
そこでは無いよねぇ〜?
仕方ない、地道に思い出そう…。
サラマンダー、だー…ダッカルビ、だし巻き卵、大根…いや、“ん”で終わるけど何か違うな。
じゃあ剣、ぎ…餃子、銀杏、牛丼………牛タン!!!
そうだ!串カツからの牛タンで頭はビール祭りだったのよ!!良かった、思い出した〜。
って事はサラマンダーの剣の塔にルイス王子はいるのね。何なのよ、このナゾナゾ!!
王子付きの従者に案内してもらい、少し怒りながらサラマンダーの剣の塔へ向かう。
塔の下には警備兵が数人いる。その手前の茂みに金髪碧眼のルイス王子が立っているのが見えた。
…少し痩せたのかな?遠目でもやつれた顔をしている。
「ルイス……!!」
「ルイス殿下!!」
怒っていたのも忘れて、私はルイス王子の元へ駆け寄る。従者も久しぶりに引きこもっていたルイスの顔を見た為か、涙ぐみながら走った。
「エヴァ……」
「ルイス、ビックリしたわ!こんな所に呼び出してどうしたの??」
ルイス王子が今にも消え入りそうな声を出したので、消えてしまわない様にとルイス王子の手を掴んで尋ねる。
「お母様がここの塔にいる。……エヴァにお願いしたい事があるんだ」
ルイス王子、その顔は反則だよ…。きっと断れないだろうと思いながら、エヴァはルイス王子の手をギュッと強く握った。




