異世界第13話
「はい、じゃあ次の人〜」
公爵家にある診察室の外には使用人が20人程並んでいる。
先頭に並んでいる使用人の男は緊張のあまり脂汗をかき目の焦点が定まらないまま部屋に入り、私とクロードの目の前にある椅子に座る。
「お、おおお…お願いします!!!」
「はいは〜い。うーん…………あなた、右の手首が痛かったりしませんか?あ、左も少し痛みます?」
「え?!……あ、はい。先週くらいから右手が腱鞘炎になってしまって、利き手を庇って働いていたら左手も少し痛みだしてしまって…」
「ふんふん先週ね、成る程。厨房だと重い物持ちますもんね〜?じゃ、クロード先生お願いします」
「……この程度であれば我で無くてもよいであろう。そろそろエヴァがやってみてはどうだ?」
「えっ?!で…出来るかな?」
「我が右手を治すから、左手はエヴァがやるとよい。何事も経験を積まねば上達せんぞ」
「そう?じ…じゃあ、やってみようかな!」
「ひっ……!!」
使用人は何処から出したか分からないような声を上げた。その声に、エヴァの横に控えている執事のレイモンドはギロリと使用人を睨む。
「すっ、すいませんっっ!!!」
涙目になりながら背筋を正し、使用人は大声で謝る。
も〜、そんな大きな声出したら外で並んでいる使用人達がビビってしまうよ!レイモンドもただでさえ恐い顔してるんだから、こんな事で睨まないでよぉ〜。ほら、あの人胃をさすってる。…胃の辺りの魔力が滞りだしたよ。治療部位が増えたじゃんか〜バカっ!
とはレイモンドには怖すぎて言えないので、私は何も言わず治療をする事にする。
実は2日前のルイス王子から手紙が届いた日、私は朝食をとった後すぐにルイス王子の元へ駆けつけようとしたが、お父様に止められた。
いくらルイス王子が引きこもっていて予定が無くても
、王宮にいきなり押しかけて王族に会える訳はないらしい。お父様が今日の午後にアポを取ってくれたので、私はその頃目掛けて王宮へ向かう事になった。
そして今は午前中の空き時間を利用して、クロードに教わりながら魔力を使用して健康診断を実施している。
前世の記憶を思い出してから、ルイス王子の母親である王妃様の病気をどうしたら治せるかずっと考えていた。
私はクロードの力を使ってお母様が無事に出産した事が頭によぎり、もしかしたら…と思いクロードに相談してみたのだ。案の定、力を使えば病気を治す事が出来ると聞いて私は喜んだ。後は王妃様に会う方法をどうしようと悩んでいたら、2日前に至る。
私はすぐさまお父様にその事を伝えたが、信頼性のない未知の治療法では王妃様を治療する許可は下りないし、ご病気の状態では普通に謁見する事すら叶わないだろうと言われてしまった。
それなら信頼性のある実績を積んだ治療法にすればいい!と、公爵家の使用人総勢181名(多っ!!)の健康診断を実施して治療する事を提案したのだ。
正直クロードが大精霊で私が魔力を使えるという事は、家族と執事のレイモンド、そして出産のあの場にいた数少ない使用人達だけしか知らない。
いくら仕事上公爵家内で知った情報は守秘義務があるとはいえ、これだけ数多くの使用人達に知れ渡るのはリスクが高い。
ルイス王子の二の舞で、使用人達には奇異の目で怖れられるだろうし、世間に情報が漏れたら私は色々な面で大変な状況になってしまうだろう。
私もそれは避けたいが、王妃様に会う手段が無い以上このままでは死んでしまうし、確実に将来戦争になってしまうので致し方ない。
お父様は私の提案に大反対したが、王妃様を他に助ける手段は無いと粘り強く訴え続けて、昨日の夜やっと許可が下りたのだ。
とりあえず人数が多いので全員いっぺんには無理だから、1日30名ずつ診断していく事になった。
クロードは使用人に確認も取らず一瞬で右手を治していた。
おお……さすが!!魔力の滞りが無くなっている。
しかし、治療された本人は気づいていない様だ。
私は勿論確認をとる。
「では、…左手も治していきますね」
「………っ!!」
使用人は梅干しを食べた時の様に目を閉じて、脂汗をダラダラ流し始めた。
そうだよねー、こんな経験の無い3歳児に魔法で治療されるのは怖いよねー。しかし、これもこの国を守る為。痛くしないように頑張るから未来の糧になっておくれ!
私は彼の左手首を掴み、慎重に時間を巻き戻す魔法を使った。1週間前の手首に戻れーーっ!!
「……どうですか?痛みはありますか?」
「………!!な、無いです!全然痛くないです!!」
ふぅ…良かった。一応、さっき彼が痛めていた胃にも手を当てて時間を戻してあげる。
クロードの横に座っている公爵家と王宮お抱えの医師2人が、使用人を再度確認して診断書を書く。
使用人は未だ緊張しながらも笑顔でお礼を言って部屋を去ろうとしたが、レイモンドに執拗に守秘義務を守れと厳重注意された後また胃をさすって部屋を出て行った…。
「は〜い、次の人どうぞー」
………とりあえず30人の健康診断は無事終わったけど、怪我をしている人は何人か居たが病気の人は居なかったな。良い事なんだけど、実績が…!
と思っていたら、王宮お抱えのお医者様が、「午後に王宮を訪ねる時に是非診て貰いたい人がいる」と言ってきた。
これは棚から牡丹餅なのでは…?と思いすぐ了承をして、ルイス王子に会いに行く為の準備をする。
初めての王宮で気合が入っているのか、侍女は私に豪華な仕立ての青いドレスを着せて、髪の毛は手の込んだアップスタイルにダイヤが散りばめられた青い薔薇の髪飾りをつけてくれた。
凄いゴージャスな3歳児だな…。
そしてルイス王子から貰った手紙をもう一度見る。
“エヴァに会いたい”
届いた手紙の内容はたった一言のみだった。
前回の手紙は3歳児なのにさすがルイス王子!と思うくらい、季語を使った時候の挨拶から始まり丁寧な文章を2枚に渡って綴られていたのに、今回はこの一言しか書かれていなかったのだ……。
たった一言なのに、ルイス王子の悲痛な思いが伝わる。
はやる気持ちが抑えられず、令嬢としてははしたないが駆け足で馬車に乗り込んだ。




