異世界第10話
「ルイス・ウィンチェスターがここに宣言する。エヴァーミリアン・アイゼンハワーよ、本日この場をもって貴様に婚約破棄を言い渡す」
周りの卒業生達は驚きのあまり騒然となる。
それはウィンチェスター魔法学園での卒業パーティーの最中に起こった。
3ヶ月前に国王に即位したルイス陛下が、卒業生代表を兼ねて壇上で式辞を述べるはず‥であったが、いきなりの断罪イベントが始まる。
陛下の幼馴染でありこの若さで第2騎士副団長を務めるアルフォンスは、たくましい腕で私の手を背後に捻り上げた。
いっ‥痛いよアホンス(アルフォンス)!脳筋の朴念仁の君はもっとレディーへの扱いを覚えたまえ!
陛下の後ろには2人控えており、側近であり弟のルークと、秘書としても有能な執事のフィンセントは、陛下と共に軽蔑の眼差しで私を見下している。
ルークったらチャラ男に育っちゃって‥いつまでもそんな目をしてたら女の子が離れていくわよ。
フィンセント‥クーデレとかお父様とキャラ被りまくりなのよ。国王の秘書なんだから、せめてその死んだような目を何とかしなきゃ国の印象が悪くなるわ。
先生一同が慌てている中、担任であるジョルジュ先生は興味のかけらもないのか退屈そうに欠伸をする。
コミュ障のヤンデレ先生、あなたはもっと社会人らしく頑張りなさいよ‥。
攻略キャラ全員集合の中、断罪は続く。
「エヴァーミリアン、貴様は大罪を犯した。その極悪非道の数々は決して許されはしない。よって貴様を‥極刑に処す!!」
バタン‥!とパーティー会場の扉が開いて、清楚で可愛らしい女の子が入ってくる。
「待って、ルイス陛下!いくらエヴァーミリアン嬢が陰で私を虐めて、殺害未遂の行為をしたとしても、死刑はあんまりだわ!」
光の精霊を伴い、後光がさすような眩しさを背景にしてヒロインは訴えると、陛下の隣へ向かい肩を寄せ合うように並ぶ。
そう、2人は無事に分岐点を経てハッピーエンドのエンディングへと向かっているのだ。
「ふっ、私の愛しい女神よ、安心してくれ。私が無駄な死に方をさせるわけが無いだろう。
今は戦時中だ。善良な一般市民ですら徴兵される中、罪人が懲役という生温い刑罰では許されない。
死刑と言っても国民の為に戦地へ赴き、最前線で死ぬまで味方の盾になり続けて貰うだけだよ。
そう、名誉ある死だ。エヴァーミリアンよ、私を光栄に思うがよい」
ルイス陛下‥幼い頃の面影はもはや何もない。そもそも戦争を起こしたのは腹黒くんのあんたでしょ。無慈悲に命をもてあそぶ奴は後で痛い目を見るぞっ!
ヒロインは哀しげな眼差しで私を見る。
そして陛下はヒロインへ顔を向け、笑顔で言った。
「今まで待たせて悪かった。やっと君に伝えることが出来る」
「‥ルイス陛下」
「どうか私と結婚して欲しい。愛してるよ‥もち明太子!!」
‥もち‥明太子‥‥‥?
―――――私は悪夢から覚めた。
そうだ、私は前世で数少ない休みの前日に、ちょうど宅配ピザとビールを飲みながら新作の“恋マジ”をプレイしたんだった!ええ、それはもう最高の時間でしたよ。
そしてネーミングセンスのない私は、その時食べてたもち明太子チーズピザから拝借してヒロインに名前を付けてプレイしていた。
‥いや、まさかね?ここの現実では、そんな名前のヒロインにはならないよね?
マルゲリータとか食べてれば良かったな‥。
しっかし、何て夢だ!!
私が極刑になるのはゲームでは自業自得みたいなもんだけどさ、あれが現実になるかもしれないと思ったら色々ゾッとするわ。
回避だ、回避!!まずはルイス王子をどうにかしたいけど‥
結局ルイス王子に手紙を出してから3日後に返信がきた。
やっぱり王妃の体調はあまり良く無いみたいで、私は王妃様にどうしても会いたいアピールを熱烈に手紙にしたためて、すぐに送った。が、1週間経っても返信は来ない‥。
そういえば、ほぼ王妃様のことだけしか書かなかったからかな、変な奴だと思われて警戒されちゃったかもしれない‥。はぁ、初っ端から行き詰まってしまった。
落ち込んだまま夕食を終えたエヴァは、気分を変えるため久しぶりに夜の街へと繰り出してみる。
部屋にクロードがいなかったけど、マスターの店にいるのかな?と思い店の扉を開ける。
「あらっ、エヴァちゃんじゃない、いらっしゃ〜い!」
あの大雑把なおじさんのマスターが、少しかすれた柔らかい声をだして出迎えてくれた。
先日クロードに乙女心をマスターと語った後、私が前いた国では(前世でとは伝えてない)、トランスジェンダーは広く認知されていて男性が女性の心を持っているのは普通だよ〜とか、新宿二丁目に行った時の店の話を面白おかしくしているうちに、徐々にマスターが変化し始めてしまったのだ。
わ‥私のせいだよね‥?
ハッピーエンドならぬ、乙女マスターエンドのエンディングへ彼は着実に向かっている模様だが、私が誘導する前の分岐点に魔法で時間を戻してあげたい‥。私はこのキャラ変に責任取れないよ!
カウンター6席の他に、4人がけのテーブル席が5つある店内は、この時間大盛況だ。
クロードはいなかったので空いてるカウンター席に適当に座る。
「この時間帯に来るの久しぶりじゃない?クロードいないし、あんた可愛いんだからナンパされない様にそっちの隅の席にしなさいよ〜」
ナンパされるとか憧れるんだけど?と下心はあったけど、大人しく隅のカウンターに移動した。
「ほらっ、エヴァちゃんに変な虫が付かないように、ちゃんと守ってあげなさいよ!ジョルジュ!」
マスターはそう言って、店の手伝いをしている孫のジョルジュのお尻を叩いた。
「くそじじぃ‥」
「ほら、エヴァちゃんのオーダーとってあげて!」
「ちっ‥」
そうなんです、私はもうすでに会っていたんです。
1番厄介で大変な鬼ルートの隠しキャラである、
ジョルジュ・アダムズという魔王の息子と‥。
クロード、あんたはなんちゅー店に通ってるんだ。
「……何にするの」
ジョルジュは私と目を合わせずに聞く。
正体が分かってちょっとジョルジュにビビってしまうが、コミュ障キャラのはずの彼が接客とか大変だろうな‥と思いつつ、
「あ、じゃあとりあえず、ビールと漬物とワイバーンの唐揚げ、アルミラージュの香草パスタに豚串3つ‥塩で、それと‥」
「‥や、食べすぎだろ」
彼にツッコミ属性があると分かったエヴァは少し安心したのだった。




