異世界第9話
「クロード殿、部屋の居心地は如何だったかな?」
「…うむ、悪くは無い」
「良かった、何かあれば遠慮なく言ってくれ。あと、近々クロード殿のお世話をする為に近侍をつけようと思うんだが、差し支えないだろうか?」
「‥我は精霊であるぞ?何をするにも造作無い。そのような者は邪魔にしかならぬ。そもそも我は食事など摂る必要は無い故、今後はいらぬからな」
「まぁ、そう言わないでくれ。クロード殿は私の愛する家族の命の恩人であり、エヴァを今後も守ってくれる大切な精霊だ。これからも一緒に過ごしていくんだし、クロード殿には私達と家族の様に接してもらいたい。エヴァから聞いたよ、よく食事をしに市街地に行っているそうじゃないか。残念だが、近侍はあきらめよう。しかし、せめて私達と共に食卓を囲む事だけは拒否しないで欲しい。意に反する事かもしれないが、私もクロード殿と家族の様に接したいのだよ。なぁ?エヴァ」
「‥え?そうだね、うん」
「なっ‥!エヴァまで何を言うか!訳が分からぬ事を申すでない!精霊の我に家族など‥何をたわけた事を‥!」
怒涛の1日を終えた次の日の朝、お父様と人間化したクロードと私の3人は朝食を囲んでいる。
2人が何かブツブツ話していたが、私はそれどころでは無い。
もう一度言うが、それどころでは無いのだよ。
昨日私は、弟である“ルーク・アイゼンハワー”の名前を聞いて全てを思い出してしまった。
そう、ここは、私が前世で死ぬ直前までプレイしていた乙女ゲーム《大戦乱!恋はマジカルクーデター 〜戦いの夜明けは貴方の腕の中で〜》の世界で、しかもエヴァーミリアン・アイゼンハワーはその中に出てくる悪役令嬢のうちの1人だということを‥。
前世でプレイしていた二次元のゲームが三次元の現実になるなんて思いもよらなかったし、全く気づかなかったわ。
しかもこのゲーム、ただの乙女ゲームではない。
学園モノの乙女ゲームをベースに、魔法を使い戦闘するRPG要素が盛り込まれていて、名前の通りめちゃめちゃ戦乱勃発して物騒な世界設定のゲームなんだよ〜!!
主人公は光の精霊と契約をして強力な魔力を持つ一般市民の女の子。15歳の時にウィンチェスター魔法学園へ編入してゲームが開始される。
攻略キャラは全部で5人。メイン攻略キャラの王子、公爵、騎士、執事の4人と、隠しキャラの先生1人。
隠しキャラ以外の4人にはそれぞれセットで悪役令嬢がいて、もちろん最後は断罪される。
しかも、ハッピーエンドでもバッドエンドでも死ぬ事になる究極の断罪‥。
ちなみに隠しキャラの先生ルートでは、なんと悪役令嬢4人フルコース!しかもこの先生、実は魔王の子供という生い立ちで、ハッピーエンドで悪役令嬢は全員死んで、バッドエンドでは国ごと滅ぼして魔王になるっていう激やばルート!!ひょぇ〜〜!!
私はルイス王子担当で、全員抹殺魔王先生との2人のルートを気をつければいいんだけど、他のルートの悪役令嬢も断罪されて殺されないようにどうにか対策していかなきゃな‥。
そして極め付けは、全ルート共通でゲーム中盤頃になったら、国王と王妃が暗殺されて隣国との戦争が始まるのだ。
マジでクーデターゲーム。因みにゲーム名の略は“恋マジ”。今の私は、辛マジ。
まずは、戦争だけはなんとか回避したいから、国王と王妃の暗殺を止めたいんだけど‥。
実は裏で糸を操り2人を暗殺し、戦争の原因を作った人物というのが‥あのルイス王子なんだよぉおおおお!!!!
あの可愛い天使のルイス王子が!!お姉さん悲しくて泣いちゃうよぉおお?!
あんなに可愛いルイス王子だけど、幼い頃に王妃であるお母様が病気で亡くなってしまったのを皮切りに、彼を取り巻く環境が激変してしまう。
昨日会った時は、温室の中に彼のお母様が好きなお花があって、どうぞとお裾分けしたからまだ今現在は生きている筈だ。
因みに温室のアボカド収穫は、私の事をまるで食い意地が張っている人を見るような目で一瞬見た後に、笑顔で断られた。
そういえばお昼に、誕生日のホールケーキをまるごと食べましたが、何か?
そして彼自身が言っていた様に、ルイス王子は周りの大人達から恐がられている環境の中、国王陛下は側室だった女性を王妃に迎える。
元々、王子の母と国王陛下は政略結婚で、側室だった女性とは王妃と会う前から恋愛関係だった事もあり、そこはしょうがないのかなぁ、と思う。
でも父親が、自分の母親より側室だった女性の方を愛しているって分かった王子は絶望する。辛いよね‥。
そして王子は、母の身分も魔力も才も器量も全てが完璧な王の資質を備えていて、元側室の王妃は自分の息子を王にさせたいが為に、王子に対してそれはそれは風当たりが強かった。
国王陛下もといエリアス伯父さま、とっても優しい方だけど女を見る目はなかったのね!ふんっ。
そして国王陛下は優しい温厚な性格が国の政治にも出ていた。戦争をしないように出来るだけ武力を持たず、他国と摩擦を起こさない為に弱腰にも見える政治をしていたのだ。周辺の国はそれを見逃す筈はない。国の辺境地域では他国からの被害が続出していた。
それを王の資質を持つルイス王子は良く思っていなかったのだ。
それら全てによって、ルイス王子は徐々に自身の気質が捻じ曲げられていき(腹黒王子に変身)、17歳の学園卒業の年に暗殺を実行するのだ。
本当に何とかせねば‥!!
ふぅっ。思い返しただけでも疲れたな‥。
昨日はショックのあまりに一睡も出来なかったし。
ひとまず、王子に昨日のお礼と王妃の体調の探りを入れて手紙を書いてみよう。うん。
他のフラグ達はまた後で考えよう‥。
そうして手紙を書き侍女に託して、目をこすりながらクロードの元へ向かう。
「クロード、眠い‥」
「‥全く、仕方がないな」
いつもの様にクロードの腕に抱きつきながらベッドで眠る。
‥え?
別に、昨夜はクロードと部屋が離れてショックで眠れなかった訳ではないよ?ホントウダヨ?
‥え?甘えすぎ?
だって私まだ3歳だもん。アラサーの下心はご了承下さい。
クロードって精霊なのにいい匂いがするんだよね〜。なんかズルくない?
完璧っていうか‥あ、でも、そうでもないか‥。
頭固いし、なんか古くさいし、天然だし‥食生活も‥偏ってる‥し………
「む‥?我の悪口が聞こえたような。‥気のせいか」
クロードは眠りについたエヴァの頭に恐る恐る手を伸ばし、壊さないようにと大切な物に触れるかの様に優しく撫でてみた。




