異世界第8話
私のお誕生日をお祝いしてくれた国王陛下と王子殿下にお礼を言って見送った後、アイゼンハワー公爵家全体が緊張感に包まれバタバタしていた。
ちなみに私は自室でクロードの腕に抱きつき足をバタバタさせ興奮している。
クロードは抵抗するのを諦めて、エヴァのバタ足の振動でグラグラしている。
何でそんな状況なのかって?
原因はつい2時間程前に、お母様が破水して出産に入った為だ。
「クロード、弟かな?妹かな?どっちかなっ?」
「ふむ、母体のお腹の中の魂を見たが、あれは多分‥「いや!言わないで!」」
「‥?エヴァから聞いてきおったのに何なのだ‥」
「いや、クロードが知ってると思わなくて。生まれた時の感動が減るから聞くのやめとくかな」
「‥む、そういうものなのか」
「うん。じゃあさ、後どれくらいで産まれるのかは分かる?」
「そればかりは分からぬな。だが二人目は最初のお産より早いからな。上手く行けば今日中かもしれぬぞ」
「何か詳しいねクロード。出産とか興味無さそうなのに」
「興味はないが、我は二回出産に立ち会っているからな。経験から言ったまでよ」
「え?!まさかクロードって妻子いるの?!」
「ばっ‥馬鹿たれが!居るわけなかろう!以前契約しておった奴の女の出産だ」
「あらやだ!何だ〜、前の人の奥さんね!へ〜、子供居たんだぁ。ねぇ、出産てどんな感じだったの?よく前世では鼻からスイカが出るくらい痛いって聞いてたんだけど」
「鼻からスイカ‥何を馬鹿な、それは不可能であろう?いや、我の空間魔法でなら可能か‥?」
「ぶふっ!ちょっとやめてよ〜!クロードの綺麗な鼻からスイカ出る所想像しちゃったじゃん!あはは!」
「‥…。出産は痛そうであったな。人が変わったように何度も叫び散らしておったぞ」
「だよね‥。お母様大丈夫かな。出産って怖いな‥」
「怖いのか?なら任せておれ、エヴァの出産には我が必ず立ち会ってやるぞ。魔法を使っ‥「はあ?!!わっ、私の出産に立ち会うって!え、ちょっと‥やだ!それ軽くセクハラだよクロード!!」」
「ぬ?!!な、何を言っておるのだ?!」
「あ〜!私、お母様が心配だからちょっと隠れて様子見てくるね!じゃっ!!」
天然記念物のクロードには困ったものだわ。
いくら以前契約した人の奥さんは許してたとしても、私は無理よ‥!出産のあられもない姿をクロードに見られるなんて恥ずかしい‥もうっ!クロードの馬鹿たれが!
そしてエヴァは真っ赤な顔をしてお母様の部屋の物陰に瞬間移動した。
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「た‥大変です旦那様!!さ‥逆子です!!」
エヴァが部屋に着いて間もなく、医師が血相を変えて叫んだ。
サカゴ‥?
さっきまでの浮かれた気持ちが一瞬で下らないものへと成り下がり、情報を求めてエヴァの全細胞が静かに研ぎ澄まされた。
「なっ…逆子とは何だ?!それよりエターリアがさっきから意識がないぞ!!何故だ?!説明しろ!!」
お母様は既に意識が無い‥お父様はパニックに陥っている為、正しい判断は出来そうにない。
「か‥片足が見えてきました!へその緒も先に出てるので、赤子は大変危険な状態です!!」
片足‥最悪の状態だわ!へその緒が出てるって‥赤ちゃんが窒息してしまうんじゃないの?!
帝王切開でどうにかならないのかしら?!
「エターリア様は体力も少なく通常に分娩する事はもはや不可能です!せめて今の内にお腹を切って赤子だけでも取り出さなければ、2人とも‥お亡くなりになってしまいます!!!」
「なっ‥!!エターリアの腹を切るだと?!!死んでしまうではないか!!ふざけるな!!!他に方法は無いのか?!!」
「エターリア様をお救いする道は‥残念ながらございません!!!」
この世界の医療技術は前世よりかなり水準が低い。
帝王切開=母体の死に繋がるなんて‥!!!
私の魔法でどうにか‥‥だ、だめだわ、どうやって考えても私の力じゃ今の状況で何も出来ない!!!
こんなの‥チートなんて意味が無いじゃない‥。
「そんな‥。エターリア!!!!」
「‥女の子なら‥ヴァイオレットの名に‥」
「エターリア!!気が付いたのか!!な‥何を言っている?!」
「あなた‥私とあなたの愛しい子を、どうか‥産ませてちょうだい‥?」
「しかし!エターリアが死んでしまったら‥僕は‥僕はっ‥!!」
「あなた‥愛しているわ‥。そして大丈夫よ‥、あなたにはエヴァーミリアンがいる。そしてこの子も‥。私だと思ってどうか愛してあげて‥お願い‥」
「エターリア………」
「男の子だったら‥ルーク。‥ルーク・アイゼンハワーよ。‥さぁ!お腹を切って頂戴!!!」
ルーク・アイゼンハワー‥‥
なん‥で、何でこんな時なの?!!もっと早く私が全てを思い出していたら‥!!!
ルーク・アイゼンハワー。彼が産まれたのと引き換えに母は死ぬ。
これは前世で私が知っている確かな情報であり、ルークという人物の性格を築く根底であり確固たる設定だ。
今まで引っかかっていた全ての事を思い出した。
王子が何者でも、私が何者かでさえも今はどうだっていい‥!!!
お母様‥‥!!!
神様‥聞こえているならどうか、どうか私にこの運命を変える力を下さい!!!
顔を涙でぐちゃぐちゃにして、両手を握り天を仰いだ先には彼がいた。
彼は優しくも少し悲しそうな笑顔で言う。
『エヴァよ。もうその力は持っておるではないか。我の力を使えばよい』
クロード!!!‥‥クロードの力‥?そうよ‥、クロードなら!でも、クロードの力は使ってはダメだって‥。
『家族に我の事が知れても構わんのなら、今すぐ力を使うがよい。この程度であれば我の力を使っても問題は無いのだ‥』
‥ありがとう、クロード!!!
エヴァはぐちゃぐちゃの顔を乱雑に片手でぬぐい、今にも腹が割かれる寸前である母の前へ飛び出した。
こうしてエヴァの誕生日でもあるこの日から、母子共に健康に産まれたルーク・アイゼンハワーと一緒に、時と空間を司る大精霊クロード・クライヴがアイゼンハワー公爵家の家族に加わったのだった。




