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「ちわーーっす、せんせー、いますかー?」

 しんとしている、返事がない、30歳のようだ。「違います、私は29ですぅうウ!?」


 お土産の氷を片手に、おはようございます、29歳。この世から自分の誕生日を知る者を消した女。そこはもう、とんがり帽子のような貧相で苦し気なワラという、今吹いたら消えてしまいそうな。何もかもが。


 しかもその中は一人で存在する孤高の場所であり、何か虚飾のようなさ。

 静かに入れてもらえばワラの上に人型をもじっておかれている衣服がすごく華やかで、それでいて全てにそれだけのような、薄気味悪い感じも示している。


 3体。


 しっとりと濡れた感触の湿気でここだけは静かで。



「あの聞きたい事があります、先生。良いですか」「うん、まぁ。あーー……。でも昨日は大変だったわぁ、ねぇ? あんた触られてたもんねぇ? いやー……、ほんっと我慢したねぇ?」

 ふふふ。

 選ぶことも難しくなった。昔と違いもうこの人は。この人、マフ麻薬の常習者だ、常に何かあるとマフ麻薬を摂取せねばならない。寂しいんだろうか、それとも前の世界の誰かを思い浮かべてて。


「あぁーぁ……、ヴァネッサは死んじゃったかしら。向こうの私の生活見られてるとか死にたいわ~」

 ここ異世界において恋しがるのは犬。犬だ。しかもメス。



 ――俺は危険を感じつつも彼女と話しているんだ、時折ふと、自分はレズだった事にしようかと悩む教師を見つめるのは悲しい。あまりにも哀しいんだ。

 缶ビールとかもないし仕事道具もノミもくわもない、この現世においてだ、火を前に一人正座しぼぉ……っと照らされて。

 エールってアルコールほぼ無くて酔いにくいんだよ。


 会話も気をつけなければならない。


「とりあえず日本の陶磁器を作ろうと思うんです、作り方知ってるって聞いて、あと先生ももしよろしければって」

「あぁーー……、いや、そうね。そう」

 口寂しく氷を舐めながら。痩せてて。とりあえず色々と話が脱線しながらもな、なんとか話を切り上げたんだ。胸をなでおろす、何せそこにある物が俺を見ていたから。



 外へ出てもなんとなく、太陽が見えない。ただそれでも呼ばれて耳がなんとか若さを。



「オマエ……、えとなは今日は休みだろう。遊んでて良いんだぜ」「うぅん? 私もね、一緒にいたいの、駄目かなぁ?」

 そうして一緒にいて、手は……繋げないけどな、朝市に寄って袋を両方から持って帰ったりして。

 それで共同で飼ってるミニブタの世話をしつつフンを捨てて、それで住処を掃除もしてやらないとだが。あとあと……、家のノミ処理か、もしくは武器の手入れか。



「なーんかさ、上手く陶器の販売が始まりそうだわー」「ホントに~? やったぁ~、楽しみだねぇ、私一度やってみたかったの~」

 嬉しそうなえとなに嬉しい。あんまりこう……、この暮らしを替えたくないっていうのも分かるんだ。結構いるんだよ。中世の仕事は比較的イヤな事が多くてその場しのぎで必死で汚くて、それでいて暇を持っていて自分らしいんだわ。


 農業だって一生懸命だけども、まぁ、なんとなくこんなもんだよなって思える。そう木漏れ日をまといながらさ、俺が持たされたかっぴかぴのお昼を先に開け。


「お前良いなぁ……」

「うーん?」俺はその目線を見て、少しだけでも華やかにと上手に盛られたそれを、「それでも黒パンは黒パンだよ」

 でもまぁ嬉しいのは確かだよ、そんな漫画やアニメみたいに上手な訳ではないけれど、でも毎朝作ってくれるエトナのパン。これはフスマや殻をそのまま使っていてかなりマズイんだわ。


「感じ的にナマ和紙がトッピングで入ったパンって感じ。この毎日の激マズパンをどーやってか美味しくならないかと思うんだけど、これが中世の限界かな~。でもそれがエトナちゃん特製だと思えるだけでいけるよなぁ……」

 課題だよなとは、それは中世全体の。


 だからオタケが指を伸ばすのではたき落としてやる。お手された、ちぃい。えとなが来たわ、一緒にご飯を食べるぜ。俺はえとなを吸い、おたけはマフ太郎を……、ぶたれてるな。


 3人と一匹で陶器制作の話をすると大盛り上がりだ。きっと暇をつぶせる。他愛もない時間が続く俺らは。

 あぁでも忘れてたわ。町へ出て今日の上がりを納めるんだったな、少しだけ上等な靴へと履き替えるんだ。えとなの隣でオタケはまだお手をやってるな、なんでかマフ太郎だけは一日で複数回やれて、それで何故かオタケには懐いてない、全く。


 俺は一人しっかりとした石畳の、木造の家らが見える一角へ歩き出す。


 ここらはしっとりした雰囲気で海外だなーって思えるほど。薄い靴底から感じるきちんと等間隔の足場の良さが。あと職人が必死に何かを叩いているのが聞こえていて、そうして色んな声が聞こえる。朝の売り込みに失敗した職人たちの和やかな談笑、オンナたちの噂話。



「あ、魔石の音だな」

 コイツだけはすぐ分かるんだわ、なんせ銅鑼の音に近いんよ。最初は綺麗なネコかと思ってたらシンバルだった、撫ぜたらそんなビックリで重奏が響き渡るんだ。

 アニメで見たような冒険者たちの姿があったりして、ここいらにいるのはそこそこ安全だわ。たくさんの装備品があるけれど、どれもやっぱり高いんだなって。


「お、トモオじゃねえのか、元気してるかい……?」ふと気軽に言ってくるが、相当イカツイおっさんだ。なんか顔の中央だけ滝のようなので打たれました?って感じのトーンが見える、苦しそうな眉間。

 軽装どころか和風っぽいダボっとした紺色の服で飄々としてる癖に妙に気持ち悪い雰囲気でな……。ただもうコッチは案外普通に接せれるが。


「あぁ、まぁまぁかなって。正直。まぁ割りの良い仕事あったら教えてよ~って」「オィてめぇ……ッ兄貴にどういった口の利き方だ、おぉい……? この方は気軽に呼んで良い相手じゃねえぞォ――」

 その瞬間に横からガンメンを掴まれたんだ、うなったその舎弟がだよ、「なぁオマエよぉ……、あれまだ城つきだぞ? 何あるか分からねえ。あとなぁ……? アイツ結構やるんよな、フヒヒ。上納が滞らねえのはアイツらが初めてヨ」

 す、すいません――あ、兄貴ぃ。「気にせず行っとけぇ、トモオ。いつ遊びに来てもいいようしとくから、俺らは姉さんには逆らわねえよ。いつでもォ……」

 来いよォ……?




 その邪悪な笑みがまた――。彼だけは特別だ。

 彼だけは。俺の直系の兄貴だから。

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