友人と想い人
「本当!? おめでとう、シャーロット!」
シャーロットはクラレンスと想いが通じ合い、父に2人で報告し正式に婚約する運びとなった。世間への発表はこれからだが、親友であるアマンダが遊びに来てくれたので先に報告していた。
「ありがとう、アマンダ」
そう言ってはにかんで微笑む、婚約は二度目のシャーロットである。
……が、その一度目の婚約は母の喪が明けぬ時に『王命』で決まった、当時から我儘だと評判のよろしくなかったエドワルド第二王子が相手。その後友人アマンダも婚約者の浮気に悩まされ……。当時の2人は日々ため息を吐いたものだった。
それがこの度、2人はめでたく? ほぼ同時にその困った婚約を破棄出来たのだ。シャーロットとアマンダの表情は実に晴れやかだった。
「しかもお相手はセリエ近衛師団長様!? いったいどういう馴れ初めで決まったのか聞いてもいいのかしら?」
アマンダは興味津々、目を輝かせてシャーロットに迫った。
シャーロットは苦笑しつつ答える。
「……実は、『王命』が出る前に両親とクラレンス様との間でそんな話が出ていたらしいの。そして今回の婚約破棄の時に近衛師団長であるクラレンス様とお会いしてとてもお世話になって……。
それからお話がとんとんと、ね」
───ええ、嘘は言っていないわ。
その『お世話になった』のが白猫と飼い主として、というだけの違いだものね。
「まあ、そうだったの。昔からお話があって、更に今回お世話になって話が合ったのならまさに運命、良いご縁よね。
本当におめでとう」
アマンダは頷いて嬉しそうに微笑んで祝ってくれた。
そしてその後少し考えてポソリと言った。
「───あのね。実は私も……、婚約が決まりそうなの」
シャーロットは友人の幸せな告白を驚きと喜びを持って聞いた。
……しかしアマンダが以前話していた『気になる相手』とはどうなったのかしらと心配になり恐る恐る尋ねる。
「───お相手は、前回話していた方……?」
「ええ、そうなの。……あの時はお相手の方はあまり積極的でなかったと話したでしょう?
それが、あの後彼から声を掛けて下さるようになって……」
「ッ! そのお相手って……」
シャーロットはアマンダの新たな婚約者候補が以前から気になっていた人だという事に安心しつつ、先日クラレンスと話した事を思い出していた。
◇
「───シャーロット。一つ尋ねたい。君の友人のベッツ侯爵令嬢の事なのだが」
シャーロットとクラレンスが婚約に向けての打ち合わせを2人でしていた時、不意に彼から尋ねられた。
「アマンダの事ですか?」
アマンダは婚約破棄する少し前までクラレンス(の筋肉)に憧れていて、次に婚約するならクラレンスのような人が良いと盛り上がっていた。
そして実際、行方不明だったシャーロットの事を尋ねる為とはいえ何度もクラレンスの居る近衛師団を訪れていた。白猫時代のシャーロットもその現場を目撃している。
白猫から人間に戻ったシャーロットがアマンダと再会した時には他に気になる男性が出来ていたようだったが……。
「ベッツ侯爵令嬢には決まった方がいらっしゃるのだろうか。彼女も今婚約者が居ないと聞いている。侯爵家では新たな男性を探しているとは思うが、それはどのような条件で……」
クラレンスはそこまで話してシャーロットを見て……、そしてギクリと固まった。
シャーロットは微笑んでいた。……ただしそれは、どこか凍てつくような空気を孕んでいたのだ。
「……あのシャーロッ……」
「ええベッツ侯爵家は新たな婚約者を探している事でしょう。アマンダは跡取り娘。新たなベッツ侯爵となるその人物はしっかりとした人物であらねばなりません」
シャーロットはクラレンスの言葉をスパンと遮ってゆっくりとしかし説得力のある朗々とした語り口で言った。
本能的に危険を察知したクラレンスはシャーロットに詳しく説明しようとした。
「シャーロッ」
「ですがそれにクラレンス様がどう関わりが? もしやベッツ侯爵家の婿の方が良いとかアマンダが魅力的だとかそのような事をお考えになっているのではありませんよね?」
またしてもクラレンスの言葉を容赦なく遮ったシャーロットの目は据わっていた。
クラレンスの背筋に冷たいものが走る。
「いやいや! シャーロット! 私の話じゃない、私の部下であるブルーノの事なんだ!」
クラレンスの人生で、ある意味一番動揺した瞬間だった。
そしてクラレンスから宰相の息子であるブルーノ モットレイの事情をシャーロットは聞いたのだった。
「まあ。……実はアマンダも最近気になる男性が出来たのだと話をしてくれていた所なのです。残念ながら、お相手の名前は教えてもらえなかったのですが……」
シャーロットの機嫌が治ったようなので、クラレンスは冷や汗をかきつつ心底ホッとした。
「そうなのか。……その『気になる男性』がブルーノならば良いのだが。……彼は仕事も剣の腕も良い、非常に優秀な人材だ。実家のモットレイ侯爵家は継ぐ気はないとの事だったが、その能力は充分に持っている」
「ベッツ侯爵家でも相手の身上は調べてゴーサインは出ていたようですわ。そんな人材はそうは居ませんもの。近衛騎士団で会ったという状況も合いますし、彼の可能性が高そうですわね」
そう言ってニッコリと微笑むシャーロットを見て頷き平静を装いながら、クラレンスは今日の事は絶対に忘れまい、不用意な発言は慎むべきだと心に誓ったのであった。
◇
……アマンダの気になっていた男性が、ブルーノ様だと良いのだけれど……。
シャーロットはドキドキしながら友人アマンダの次の言葉を待った。




