シャーロットの告白
「───私はまだ用事があるので王宮に残る。……セリエ近衛師団長。娘シャーロットを屋敷に送り届けてもらえるかね」
王妃の間から出て少し歩いた後、公爵は少し不機嫌そうな顔でクラレンスに切り出した。
「ッ!?」
「──は! 命にかえましても」
シャーロットは驚いて父公爵を見、クラレンスは真剣な顔でそれを受けた。
……お父様? 何を仰っているのですか! クラレンス様と、2人にするなんて……。
お父様は私たちの事をご存知なのね。そしてそれに反対はしない、私の意思を尊重してくださるという事……。
シャーロットは頬を染め猫モリーをギュッと少し強めに抱く。
「ブニャ! ニャ、ニャアオ(うわ! シャーロット、往生際が悪いよ)」
「!」
……あら、私モリー……いえブレンダの言葉が分かるわ。これはクラレンス様にだけロッティの言葉が理解出来たのと同じ状況なのかしら?
シャーロットはごめんねの代わりにモリーを優しく撫でた。
「シャーロット」
「……はい!」
不意に父から声が掛かったので、返事をしてから顔を見る。
父は、真剣な顔でシャーロットを見ていた。
「───彼には色々世話になった。屋敷に着いたらシャーロットが紅茶をご馳走してきちんとお礼を申し上げなさい。……私は今日仕事で遅くなる」
公爵はそれだけ言うとサッサとその場を立ち去ってしまった。
……ええと、それは屋敷で2人でお話ししなさいと……。父親公認で……?
シャーロットがパッとクラレンスを見ると、彼は真剣な顔でこちらを見つめていた。
「───それでは、公爵邸までお送りいたします」
クラレンスがそう言って手を差し出したので、恐る恐る手を出す。
互いの手袋越しに触れた手に、それでもクラレンスの体温を感じて少し頬が熱くなる。
……今までにも、他の方にエスコートされた事位は何度もあったのに。どうしてクラレンス様にはこんなに意識してしまうのかしら。
シャーロットは彼の顔を見られず、思わず俯く。……けれども、どうしてか彼の視線を感じる。
「フニャーオ……(初々しいねぇ……)」
「!?」
モリー(ブレンダ)の呟きに、思わず左腕に抱いたモリーを見た。
「ブ……モリー?」
「───その猫は、やはり魔女殿なのですか?」
シャーロットの様子を見て、クラレンスが尋ねた。
「! ……───はい……」
「そうですか……。それでは後ほどきちんとご挨拶をさせていただきますね」
ここはまだ王宮内。
近くに人は見当たらないが、近衛師団長がいきなり猫に挨拶をしたら余りにも不審である。
そう言ってからイタズラっぽく微笑むクラレンスに、シャーロットも思わずクスリと笑った。
───2人で見つめ合い微笑み合う。
……なんだか肩の力が抜けたわ。やはり彼は10日間一緒に居た、いつものクラレンス様だわ。
大怪我を負い弱っている設定のシャーロットはクラレンスに支えられるようにして王宮内を進む。
……やっぱりクラレンス様は温かくて優しくて、……そしてとっても素敵な筋肉をお持ちだわ。
白猫ロッティの時には、彼に抱かれながらその筋肉を猫の手でたしたしと思い切り味わった。
……アレは猫だから許された行為だけれど、もうあんな事は出来ないのよね……。なんだか少し寂しいわ。
そう思いながらも、クラレンスの剣だこの出来た硬い手を堪能するシャーロットだった。
◇
「───どうぞ」
シャーロットが自ら淹れた紅茶をクラレンスの前に差し出し、テーブルを挟んだソファに座り彼を見つめる。
「───ありがとうございます。いただきます」
その紅茶をクラレンスは丁寧に手に取り香りを楽しんでからこくりと飲んだ。
「───良い香りでとても美味しいです。ご令嬢は紅茶を淹れるのがお上手ですね」
シャーロットはホッとして微笑んだ。その横ではグレーの猫モリーが座って寝ている。
「……ありがとうございます。私自身が好きなものですから自分が満足出来るようになるまで練習しましたの」
「それは素晴らしいですね」
2人は初め当たり障りのない話をしながら、お互いの表情を見ながらどう本題を切り出そうか考えていた。
そして───。
「……今日は大変お疲れ様でした。そして閣下にお気遣いいただきまして、今こうしてシャーロット様とお話出来る事を嬉しく思っております。
そして私は、貴女への変わらぬ愛をお伝えする為にここに参りました」
クラレンスはシャーロットを見つめながらそう切り出した。
シャーロットは少し震えるような気持ちで口を開く。
「今日の事はクラレンス様を始め、皆様のご協力のお陰です。
心から感謝しております。そして……私もクラレンス様とお話出来る機会を持てた事を……とても嬉しく思っています」
シャーロットはクラレンスを見て話す内、頬が火照っている事を自覚していた。そしてそんな自分を優しく見つめてくれるクラレンス。
───ああ。私は……クラレンス様の事が、とても好きなのだわ……。
白猫姿で初めて会った時、投げられそうになった白猫を助けてくれた。行く宛のない白猫をそのまま大事に部屋に置いてくれた。白猫が怯えた時は側で優しく見守ってくれた。言葉が通じた時も気味悪がらず周囲にバレないようにしてくれた。白猫の我儘も聞いてくれた。
そして───、白猫を人間に戻してくれた。
クラレンス様は白猫の時も人間になった時も、ずっと味方でいてくれた。……優しく、守ってくれた。
「───私、シャーロット オルコットは貴方様をお慕いしております」




