オルコット公爵家の力
「……今回の王家の謝罪の際、急な案件を任せられ私が同席出来なかったのもやはり陛下の采配であった。王妃の真意は知らなかったと仰ってはいたが……。
本当に申し訳なかった」
改めてレイモンドは今回の王妃とエドワルドの暴走の件をオルコット公爵とシャーロットに謝罪した。
「───陛下には思うところはございますが……。
こうして素晴らしき王太子殿下がいらっしゃり、愛する娘が公爵家に戻った今は最早何の問題もございません」
最初無表情だった公爵は最後には意味ありげな笑顔を見せた。
「───そうだな。私は国の安寧を一番と考える。
そしてそれは……公爵家は本来の『力』を取り戻した、という事か」
レイモンドの言葉にオルコット公爵は軽く微笑み礼をとった。
それを見て『是』と受け取ったレイモンドは頷く。
『王太子が陛下を始め王家を監視していれば、『力』を取り戻した公爵家は力を貸すだろう』
……って事なのね、お父様。
シャーロットはまるでレイモンドに喧嘩を売るような言動をする父に内心ハラハラしながら2人の様子を眺める。
「それは、とても重要な事だ。それでこそ王国の安全は保たれる。公爵家にはこれからも共に王国の繁栄の為に力を貸して欲しい」
「勿論にございます。───王家が我が公爵家を尊重してさえくだされば」
「───肝に命ずる」
レイモンド王太子とオルコット公爵はお互いに笑顔で腹の探り合いのような会話をした。
───そして2人の言う『公爵家の力』とは……。
シャーロットは胸に抱く毛並みの良いグレーの猫を覗き込む。
「……ナアーオ」
そうひと鳴きしてシャーロットの腕に擦り寄る王妃の元飼い猫モリー。その中にいる魔女ブレンダこそが、『オルコット公爵家の力』。
モリーに扮したブレンダはその金の瞳でイタズラっぽくこちらを見る。
……ブレンダったら。ここは最後まで猫をやり切るつもりね?
シャーロットは仕様がないわねと、公爵との話が落ち着いた様子のレイモンドに話しかけた。
「……殿下。王妃殿下の飼い猫モリーを、私がお預かりしてもよろしいでしょうか」
レイモンドは少し意外そうな顔をした。
「勿論、構わないが。母達が何かおかしな事を言っていたが良いのか?
……確かに母のあの様子だと猫に執着するか逆恨みするかのどちらかになりそうだね」
レイモンドは魔法を見ていなかったようだが、ブレンダが猫モリーとして魔法を使った事で王妃のモリーへの態度は今後大きく変わる事だろう。これまで王妃と暮らし慣れたモリーには可哀想だが、とりあえず責任を持ってシャーロットがモリーを引き取るべきだろう。
「はい。私にもこんなに懐いてくれている事ですし」
「ナァーオ」
モリーがシャーロットに頬擦りした。
王妃の猫がシャーロットに懐く様子を見て頷いたレイモンドに、クラレンスが横から声をかけた。
「王太子殿下。……先程の、エドワルド殿下の側近モットレイの処遇はいかがなさいますか」
「───宰相の息子、ウェスリー モットレイか……」
レイモンドは手を顎にやり考えた。
「今回の王家の醜聞。……公爵家には申し訳ないが出来れば内々で済ませたい。であるからウェスリーの事は侯爵家に一任するつもりだ。建国パーティーでの時も、彼は自宅で謹慎処分だけだった。……まああの時の彼はエドワルドに付き合わされただけの立場だったようだからな」
「まあ余りにも軽くて少し腹立たしくはございますが……。
このような国内の恥をわざわざ外部に発表する事もないでしょう」
公爵がそう言ったので、レイモンドは少し申し訳なさそうに頷く。
するとクラレンスが事情を話し出した。
「……実は近衛に属するウェスリーの義兄ブルーノが心配しておりまして。前回グレゴリー伯爵家の彼の活躍の褒美の話で、何とか弟ウェスリーを良き方向に持っていって欲しいと、そう願われました」
クラレンスは部下であるウェスリーの義兄ブルーノの願いを聞いていたようで、話の補足をした。
「ああ。義兄は庶子で後継になれず近衛兵となっているのだったか。……それならばその義兄が侯爵家の後継となる可能性もあるのではないのか」
「……ブルーノは正妻の子である弟を退けて後継となる事は望まない、と……。今の近衛兵の生活に満足していると言うのです」
クラレンスの話を聞いた公爵は意外そうに言った。
「……随分と謙虚な青年なのだな」
「……はい。私もそんな謙虚な彼の弟がまさかこの場にエドワルド殿下と共に現れるとは思いもよりませんでしたが……。ウェスリー殿は侯爵家後継の座を離したくはなさそうでしたね」
「まあ、普通はそうだろう。
とりあえず彼の処遇は侯爵家に考えさせる。宰相の考え方次第だが義兄がそう望むのなら軽く済むのやもしれぬな」
そう言って話を終えたレイモンドは、王妃の間から出てこの事を国王に報告しに行った。




