魔女はグレーの猫になりきる
「───待って、待ってちょうだい、レイモンド!
……私の猫モリーは魔女だったの! だから私の言う事は聞いた方がよくてよ!?」
「そ、そうですよ兄上……! その猫は先ほどから私達と同じ言葉を話し、そして魔法を使うのです! これは凄いことですよ!」
興奮しながら話す王妃とエドワルドを呆れた顔で見た後、王妃の飼い猫モリーを抱くシャーロットを見る。
「ンナアーオ……」
モリーはそうひと鳴きした後シャーロットに撫でられゴロゴロと喉を鳴らしている。
「───猫が、何だというのです? ……ああ、貴女が妻メリンダの国の者を脅すようにして連れて来させた怪しげな魔術師はもう捕らえてあります。
……メリンダまで巻き込むとは、全く許し難い」
隣国の王女だった妻を深く愛するレイモンドは母と弟を強く睨んだ。
「まあ、あの女! レイモンドにそんな事を告げ口するなんて……」
レイモンドの、頬がピクリと動いた。……そしてその怒りを抑えてゆっくりと話し出した。
「……あなた方には、更に罰が必要なようですね。隣国まで巻き込んで、国家間の友好関係が悪化でもしたらどうするつもりだったのですか。やはりもっと強い罰が必要かもしれない」
王妃が愛する妻を悪く言った事で、レイモンドは更に怒り罪を重くしようとした。
やっとそれに気付いた王妃とエドワルドは慌ててレイモンドに言い訳を始めた。
「レイモンド! 私の言い方も悪かったのかもしれないわ。だからそんな事を言わないで? 落ち着いてちょうだい」
「兄上! 私達はたった2人の兄弟ではありませんか。そんな怖い顔をしないで、落ち着いてください」
王妃とエドワルドは慌ててレイモンドに縋りつこうとした。
しかしいつの間にか動けなくなる魔法はブレンダが解いていたが、今度は衛兵によって捕らえられて動けなかった。
「……落ち着く? 私は誰よりも落ち着いていますよ。───落ち着いて、どうすればあなた方に一番自分達の罪の重さが分かる辛い罰となるのかを考えている」
「は? 何ですって兄上……!」
「母に何ということを言うのですか……!」
戸惑う2人を無視してレイモンドは衛兵に2人を捕えるよう指示を出した。彼らはその姿が見えなくなるまで騒いでいた。
そしてレイモンドはオルコット公爵とシャーロットに向き合った。
「───この度も大変ご迷惑をおかけしました。今日は王家への謝罪の場を設けていただいたというのに、またしてもこのような事に……」
真摯な態度でこちらに頭を下げるレイモンドに公爵は鷹揚に頷いた。
「……王妃殿下は昔からエドワルド殿下に甘かったですからな。ある程度予測はしておりましたが残念な事です。
そしてまさにその甘さがエドワルド殿下をここまで愚か……自分勝手な人間に育ててしまったのでしょう」
……お父様、今エドワルド殿下の事をそのお兄様に向かって『愚か』って口に出してましたわよ。多分ワザとですわよね。
流石に不敬になりはしないかとチラリとレイモンドを見ると、彼は申し訳なさげに頷いていた。
「その通りです。オルコット公爵家には多大なるご迷惑をお掛けしました」
そう答えるレイモンド殿下。そうよね、殿下は常識人ですもんね。エドワルド殿下がぶっ飛び過ぎていたんだわ……。
「ナアーオ」
その時シャーロットの腕に抱かれた王妃の飼い猫モリーが鳴いた。
モリーの顔を見ると、澄ました顔でこちらを見ている。
……これは、多分ブレンダも猫になりたかったのね。
得意げにこちらを見るグレーの猫モリーを見てシャーロットは苦笑した。
先日ブレンダはぼそりと言っていたのだ。
『───私も猫になってみるかねぇ』
猫になったシャーロットを見て楽しそうだと思ったらしい。
……私、ブレンダにそんなに羨ましがられるほど、猫生活を楽しんでいるように見えたのかしら?
そう思っていたら、公爵の横に立つクラレンスと目が合う。
クラレンスはシャーロットに、優しく微笑みかけた。
シャーロットは、その微笑みにどきりと心臓が跳ねる。
『───1週間後。陛下との謁見の後に……この話の続きをいたしましょう。……シャーロット様』
不意に、1週間前にクラレンスに言われた言葉が頭に浮かんだ。
途端に、シャーロットは真っ赤になる。
……そうだわ。
私、彼と……。
話をしなければならない。そう約束したんだわ。
シャーロットは自分の心を落ち着かせる為に、ギュッと手を握り締めた。




