グレーの猫、元白猫に懐く
グレーの猫モリーはジッと王妃とエドワルドを見る。
『───まったく、呆れたものだね。『猫の分際で』『恩知らず』ではなかったのかい?
───それからそこのお前』
そう言ってからモリーはストンと床に降り、スタスタと歩き少し歪に見える書棚の前に立つ。
『王妃の部屋で刃物を持って隠れているなんて、それだけで反逆罪が適用されると思うがね』
そう言った後、書棚がゆっくりと開かれそこには短剣を握り締めて立つ1人の青年。
「私は……、殿下が危なくなればお助けしようとしただけでございます」
青年の後ろの書棚の裏は、狭い通路になっていた。……おそらく万一の時の王族の隠し通路なのだろう。
……エドワルド殿下はさっきここから入って来られたのね。道理で気が付かなかったはずだわ。それにこの方、殿下の側近の……。
シャーロットはまじまじと現れた青年を見る。
エドワルド王子の側近、宰相の息子ウェスリー モットレイである。
「ウェスリー! その生意気な猫を捕まえろ! 捕まえて言う事を聞かせるのだ!」
エドワルドがそう叫んだので、ウェスリーは慌てて猫を捕らえようと中腰になった。
しかし猫モリーはそれをひらりと躱し、シャーロットの腕に飛び込んだ。それを見た王妃は顔を歪める。
「モリー! 飼い主である私の所へ戻りなさい!」
しかしモリーはしれっとシャーロットに抱き付く。
突然飛び付かれ驚くシャーロットだが、美しく柔らかいその身体を抱き締めた。
するとすぐにクラレンスが現れ、盾となるような形で彼らに向き合った。
「モットレイ殿。───貴方も今回の件に加担しているのか」
「加担などと……! 私は殿下の忠実なる側近。主人を守ろうとするのは当然ではありませんか」
そしてウィスリーはシャーロットを睨んで言った。
「シャーロット嬢。……貴女があの時殿下の前から逃げたせいでエドワルド殿下は不遇な目に合われているのです! ……そして私も……! あの後、侯爵家の後継を考え直すと父にそう言われたんだ!
……全ては貴女のせいだ!」
ウィスリーはそう言って短剣をこちらに向けた。
『……馬鹿だねぇ』
猫モリーはウィスリーを冷たく見た。
「何だと!? ……うっ……」
ウィスリーとエドワルドは猫モリーに扮した魔女ブレンダの魔法によって身体が動かなくなった。
『───お前達は人を大切にしなかった。自分達に都合の良い事ばかりを考え行動した。それが全て自分達に返ってきた。……それだけの話だろう』
必死に動こうともがきながら、憎々しげにシャーロットと猫モリーを見るエドワルドとウィスリー。
「私は王子だぞ! 私の思うままにするのは当たり前だろう!」
『王家は国に対して責任を持つ立場。本来は自分の思い通りになるものではない。むしろ国の為、他の誰よりも自らを律する必要がある』
その正論にエドワルドが反論出来なかったが、ウィスリーが噛みついた。
「……自分のことを考えて何が悪い!? 思い通りにしたいと思うのは誰もがそうだろう! 私は何も上手くいかない。このままなら義兄に後継の座を奪われてしまう!」
その悲痛に聞こえる叫びにシャーロットは思い出した。
……この方のお義兄様は、以前グレゴリー伯爵家のネイサンに私が大使館で保護されていたと伝えてくれたブルーノ モットレイ様……。近衛師団のクラレンス様が信頼される方ね。確か庶子で、弟が家を継ぐので近衛に入られたと聞いたわ。
『───お前の父親には『考え直す』と言われたのだろう?
おそらくその時父親はお前に反省を促すだけのつもりだった。お前は王子から離れ別の場所から自らを見直すべきだったのだ』
「な、まさか……」
その時廊下の向こうから、バタバタとこちらに向かう騎士達と思われる足音が聞こえた。
モリーは王妃とエドワルド、ウィスリーを見て言う。
『───ああ、ほら。おいでなすったぞ。お前達はそれぞれの父親と一度きちんと話をした方か良い。……きちんと反省するのだぞ』
コンコンッ……
「失礼つかまつります」
そう言って入って来たのは騎士達と、その後ろからレイモンド王太子。
「……! やはり、ここにいたのかエドワルド」
「あ、兄上……」
エドワルドの顔が蒼白になった。
「───母上。これがどういう事かお分かりになっていますか」
レイモンドはスッとエドワルドから王妃に視線を移して言った。
「れ、レイモンド……。これはシャーロットが私やエドワルドに謝罪をしたいと言うから」
レイモンドの王妃を見る目は、最早侮蔑に近いものに変わった。
「言うに事欠いてそれですか。───今日は王家からシャーロット嬢に謝罪をする日だったのですが。……もうあなた方には何を話しても無駄ですね」
レイモンドは母と弟への関心を無くしたかのように、冷めた表情のまま衛兵に指示を出す。
「───幽閉先から逃走したこの男を貴族牢へ。そして王妃はこのままこの部屋で軟禁せよ。国王にはこれから話をする」
その言葉を聞き、王妃とエドワルドは真っ青になって顔を上げた。




