思わぬ再会
……ああ、王妃殿下はこれ程心無い事を仰る方だったかしら。
確かに『エドワルド殿下至上主義』ではあったけれど、その他はこれ程無茶を言う方ではなかったのに……。
シャーロットはそこまで考えてハッと気付く。
……そうだわ。王妃様がおかしな態度をとられるのはエドワルド殿下関連の事が多かったわ。まさか……。
前で騒ぐ王妃達ばかりに気を取られていたシャーロットは、何か嫌な予感がしてすいと後ろを振り向く。
するとそこには───。
「───やあ、シャーロット。あんな高い所から落ちた割には随分と元気じゃあないか」
サラサラの金髪に透き通るような青い瞳。……しかしその整った美しい姿から出て来るのは外見に反していつも身勝手な言葉達だった。
「エドワルド様……」
「君は私にどれだけ迷惑をかけたか分かっているのかい? ……あの時、まだ私が話している最中に逃げ出すなんて失礼で卑怯だとは思わないのか」
エドワルドはいつものように自分中心の身勝手な言葉を投げかけて来た。
まさかここでエドワルド本人が現れるとは思わず、シャーロットはエドワルドから目が離せないままギュッと手を握り締めた。
「ッ! エドワルド殿下!?」
「離宮におられるはずでは……!」
シャーロットの前へ出て王妃と対峙していた公爵、クラレンスや近衛兵は突然部屋に現れたエドワルドに驚いたものの、公爵とクラレンスはシャーロットの元へ、近衛兵はすぐに身柄をおさえようと動き出そうとした。……が。
「!? ……体が、動かない!?」
彼らの体は何故か動けなくなっていた。
オルコット公爵は眉間に皺を寄せギロリと王妃を睨んだ。
「───王妃殿下。これはいったいどういうことですかな? そしてエドワルド殿下を幽閉先からこちらに呼んだのは貴女様という事でよろしいのか?」
強気な事を言いながらも動けない公爵達を見て、王妃は実に愉快そうに笑いながら答えた。
「ほほほ……! お前達がいけないのですよ、オルコット公爵。
貴方達は私の可愛いエドワルドに酷い事をするのですもの。
ふふふ……、動けないのでしょう?」
「───これも王妃殿下が起こしている現象、という事でよろしいのですな?」
公爵は相変わらず睨みながらも冷静に確認するように問いかけた。
「おほほ……。実は隣国から魔術師を連れてきましたの。
……私の言う事を聞くのなら解いてあげてもよろしくてよ?」
王妃は先程までとは違い余裕のある勝ち誇った態度で彼らを見下すように見て言った。そして王妃の後方には怪しげに笑う侍女。いや、彼女こそが王妃の言う『魔術師』なのだろう。
……王妃は公爵や近衛兵達が先ほどの場所から動けない所を見て勝ちを確信した。そしてその間にエドワルドに目的を果たさせようと声をかける。
「───さぁ、エドワルド。舞台は整えて差し上げたわ。シャーロットときちんと話合いをなさい」
「分かりました。母上」
エドワルドはそう言って王妃に一礼した後、シャーロットを見てニヤリと笑った。
「シャーロット。君は罪を犯したんだ。王子である私を貶めるという罪を。……罪は、償わなくてはならないだろう?」
エドワルドはまるで舞台俳優かのように両手を広げて余裕のある態度で言った。
「───罪? 私がいったいなんの罪を犯したというのですか」
……エドワルド殿下は、変わらない。今回は周囲から随分と『婚約破棄』をした時の事を責められたはずなのに、全く理解していらっしゃらないのね。
シャーロットは内心ため息を吐いた。
「ああ、君はこれ程の事になっても分からないのか!
君はこれまで私に従順ではなかったばかりか、建国祭では私の話の途中に卑怯にも立ち去りベランダから飛び降りた。それを私の責任にし失脚させようと企んだのだ!」
怒りが込み上げて来たのか、最後シャーロットを忿怒の表情で指差した。
「……私は何も企んでなどおりません。そもそもエドワルド殿下が『婚約破棄』を宣言されたのです。その後私がどこに行こうとも殿下には関わりのない事ですわ」
「そういうところだ、シャーロット!!」
エドワルドはそう叫んでから首を振り、ふうと大きく息を吐いた。
「───まあいい。本当はとても許せるものではないが、この3年の婚約期間に免じて許してやろう。私のこの寛大な心でお前との婚約をもう一度結んでやる事にした」
「───は?」
普段公爵令嬢として外ではそれ程感情を表さないシャーロットだったが、彼が何を言っているか本気で理解出来なくてつい呆れた声が出た。
エドワルドは分かりやすく眉を顰めた。
「───本当に物分かりの悪いヤツだな。……そんなお前と結婚してやると、そう言ってやっているのだ」
「な……」
何を言っているのと、シャーロットはそう言おうとした。
……しかしそれよりも早く、周りが動き出す。
皆はエドワルドに怒り心頭だったようだ。
「───何を仰っているのですか! 最早貴方にはそのような権利などない!!」
後ろから鳥肌が立つ程の殺気を感じたかと思うと、クラレンスの地鳴りのような声が響いた。




