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婚約破棄されたので、猫になりました。  作者: 本見りん


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王宮、謁見の間へ


「───さぁ行こうか。シャーロット」



 オルコット公爵が手を差し出す。シャーロットは少し緊張しながらゆっくりその手を取った。



「───はい。お父様」




 今日は王宮で陛下と謁見。……という名の、公式の謝罪の場である。


 父と娘はそれに向かう為、公爵家の重厚な馬車に乗り込んだ。



「───あれから王宮内は特に変わりは無い。セリエ殿にも確認したが、元殿下がいる離宮も落ち着いた様子だそうだ」



 先日シャーロットから聞いた魔女ブレンダからの警告もあり、ここ数日は第二王子エドワルドを警戒していた。



「そうなのですか。……殿下は一月後には辺境の地へ旅立たれる予定なのですよね」


「そうだ。……陛下はシャーロットが無事だったのならばとお前に許しを乞うてその罪を軽くしようとしてくるかもしれんぞ。心して謁見に臨むように」



 国王は何とかエドワルド殿下を離宮への幽閉止まりにしたかったようだが、貴族達の目は厳しくそれは叶わなかった。



「───今日は王家からの謝罪の場なのでしょう? 殿下の件は今後私と関わりが無くなるならば罪の軽減は構いませんが……。でもそうなるといつの間にか何事も無かったかのように元の第二王子の立ち位置に戻っていそうですわね」



 国王夫妻は第二王子を猫可愛がりしている。エドワルドがシャーロットの婚約者だった時、公爵家に婿入りする立場だったが王子としてきちんと扱ってもらわなければ困ると度々公爵家に口出しされる程だった。

 今回国中の貴族達から相当な突き上げがあったようなのに、どうやらまだエドワルド王子の罰の軽減を諦めてはいないらしい。



「───王宮の敷地内の離宮に留まり続けるならばいずれそうなる恐れはある。

しかし元殿下の処遇については王家と貴族との間で正式に決まった案件だ。今日王家の失態の謝罪をする場でそのような話題が出たならば、その時点でこちらは場を辞して良いとレイモンド王太子殿下から許可を得ている」



 公爵は険しい表情で言った。シャーロットも真剣な顔で頷く。



「分かりましたわ。

───お父様、それにしてもこれ……。少し大袈裟じゃありませんか?」



 シャーロットはそう言って自分の今日のドレスを見る。



 本来未婚の貴族女性の服装は華やかだ。ある程度胸元は開き腕も出すのが最近の流行り。

 ……しかしながら今日のシャーロットの装いは。



「長袖に首の詰まったドレス。……実に慎ましい、シャーロットの清純さがよく現れたドレスだ。

───今日も我が娘は美しい」



 公爵は満足げに頷きながら答えた。



「……どれだけ身体に傷を負ったのか分からないようにする為とは分かってはおりますが……」



 シャーロットはそんな父に苦笑しつつ自分の装いを見た。



「……シャーロットはあの時、王宮のあの高さのベランダから落ちたのだ。下の植え込みがクッションになり助かったという事にしてはいても、擦り傷や怪我はしていなければおかしいのだからこれくらいはしておかねばな」



 そう言ってシャーロットのドレスに頷く父を見て、お父様は仕方ないわねと諦めのため息を吐いた。



「まあ、そうですわね。私もまだ傷が癒えなくて辛そうに見えるように1日お淑やかに過ごしますわ」


「それが良い。───くれぐれも全力ダッシュで走る事のないように」



 ……前回の『婚約破棄』の直後にシャーロットが全力で走ってその場を離れた事を揶揄われた。



「───当然です。もう二度とあんな事はいたしません。……無茶な賭けもいたしませんわ」



 少し拗ねつつ答える娘に公爵は微笑んで頷いた。



 ◇



 ───馬車の扉が開き、まず先に降りた公爵が振り返り手を差し出す。



「───シャーロット、手を。……抱き上げて行った方が良いか?」



 公爵は心配そうに娘を見ながら言った。シャーロットは少し困ったように答えた。



「……大丈夫ですわ、お父様。……少し、支えていただければ」


「うむ。無理をするでないぞ」



 シャーロットは公爵に支えられるように手を引かれ、肩を抱かれながら王宮の中を歩き出した。




 ───その姿を見た貴族達は騒めき出す。



「───オルコット公爵令嬢だ。ご無事というのは本当だったのだな」


「怪我はまだ全快されてはいないようだが……。公爵に支えられてやっと歩ける状態なのか」


「まあなんてお労しい……」



 父に支えられながらゆっくりと歩くシャーロットに人々は同情した。



「……あの服装はどうされたのだ?」


「───あの高さから茂みに落ちたのだ。おそらく……傷が残ってそれを隠されているのだろう」


「まあ。未婚のご令嬢のお身体に傷が付くなんて……」



 オルコット公爵とシャーロットは貴族達のその声がまるで聞こえていないかのように歩きながらも、狙った通りの周りの反応に内心満足しながら謁見の間に向かおうとすると。



「───閣下。ご令嬢。ようこそおいでくださいました。……ここからは私がご案内いたします」



 入口に入ってすぐに現れたのは、近衛騎士団長クラレンス セリエ。

 

 オルコット公爵は表情を変えずに頷き、シャーロットも俯くように静かに頭を下げる。


 そして数人の騎士達に警護されながら歩き、謁見の間の扉は開かれた。


 


 









 


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