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婚約破棄されたので、猫になりました。  作者: 本見りん


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クラレンスの告白


 父である公爵からクラレンスを玄関まで送るように言われたシャーロットだったが。



 ……御礼はさっき申し上げたし……。人間同士になったら何を話していいか分からないわ……。



 人間に戻ってすぐに公爵家に帰る道中は、人の目を避けての移動だった為にその緊張感で沈黙もそこまで気にならなかったのに。


 シャーロットは廊下で横を歩くクラレンスをチラと見た。

 すると彼もこちらを見ていたようで、ニコリと微笑まれる。しかしシャーロットはつい照れて目を逸らしてしまった。



「───こちらのお庭は大変素晴らしいですね」



 クラレンスは視線を逸らされた事を残念に思いながら、シャーロット越しに見えた窓の向こうの庭園を見て言った。



「───ありがとうございます。お時間が許すようでしたらご案内するのですが」



 先程の話が長引きクラレンスは早く王宮に戻らなければいけないと言っていた。庭を案内する時間はないだろう。



「ありがとうございます。機会があれば是非。以前も見せていただき……約3年ぶりですがここ程素晴らしい庭園はありません。王宮にも引けを取らないでしょう」


「───? セリエ様は以前にもこちらにお越しになっていたのですか?」


「───ッ!?」



 シャーロットのその言葉を聞いて、クラレンスは絶句していた。


 ……え? 私、何かおかしな事を言ったのかしら。3年前、クラレンス様は我が公爵家にお越しに……?

 そういえば父が言っていた3年前に出たという、どなたかとの縁談の話はその時されたのかしら。



 すると、意を決したようにクラレンスがゆっくりと口を開く。



「───私が、初めてご令嬢にお会いしたのはこの庭園でした。貴女は薔薇の向こうから現れた。……まるで薔薇の妖精でした」


「───!?」



 今度はシャーロットが言葉を失った。



「……私は以前、レイモンド殿下の側近をしておりました。そして殿下と共に公爵邸を訪れた折に……ご令嬢に何度かお会いしているのです」


「……え。レイモンド殿下と……」



 シャーロットは記憶を掘り起こす。


 レイモンド殿下は隣国の王女であった今の王子妃殿下とご結婚が決まるまで、何度も公爵家にシャーロットに会う為に来ていた。……その時確かに殿下は一人ではなかった。いつも後ろに護衛の方を連れていた。

 ……しかし当時国王の命令で心ならずもシャーロットの心を掴むべくやって来るレイモンド殿下を避ける事に必死だったシャーロットは、後ろに控える人物に全く意識を向ける事がなかったのだ。


 そんな中でうろ覚えの、殿下の後ろにいた人物を必死に思い出す。



 近衛の制服を着て背が高く身体の引き締まった、どちらかというと細身の男性だった気がする。



「───あの、きちんと覚えていなくて申し訳ございません。あの時は殿下との縁談を断る為に必死でしたので……。

それに、あの時殿下と一緒におられた方はもっと細身の方だったと思うのですが」



 シャーロットがそう問うと、クラレンスは切なそうに微笑んだ。



「───あの後殿下の側近を辞し、身体を鍛え直したのです。3年前から一回りは身体が出来たと自負しております」



 クラレンスはそう言ってから『そうでしたか、やはり覚えておられませんでしたか……』と残念そうに呟いた。



「申し訳ございません。……今思えば殿下にもセリエ様にも、とても失礼な態度でした。……お詫び申し上げます」



 シャーロットはそう謝罪した。



「! ……いいえ、謝っていただく事は何も。ただ私はあの時の事を忘れられないのです。

この庭園の美しさも、……貴女の美しい菫色の瞳も」



 最後の一言を聞いてシャーロットはまた頬が熱くなる。



「ロッティも、同じ色の瞳でした。私はロッティを通して貴女を見ていたのかもしれない。

───あの日ロッティにキスをした時も。貴女の事を思い出していたのです」



 クラレンスは自分の気持ちを偽りなく言葉にした。……5年前に初めて出会い3年前にはこの想いを自覚していた。しかし彼女に婚約者が出来た事からずっと胸に秘めることしか出来なかった想い。


 ───もう、後悔したくなかった。



 シャーロットは熱く自分を見つめるクラレンスを見た。



 シャーロットは約10日間、クラレンスの素の姿を見て来た。朝起きてから仕事をして、そして眠るまで。

 彼は穏やかで優しく、しかしその精神は強い。卑怯な事を嫌い、誠実にそして人に寄り添う事の出来る人。



「───3年前に貴方にあった『縁談』、忘れられない方とは───」



「───貴女です。ご本人である貴女には知らせていないと仰っていましたが、公爵ご夫妻から貴女にお声掛けをする許可をいただいたのです」



「───ッ!!」



 シャーロットは両手を胸に当て、クラレンスを見つめた。

 クラレンスもシャーロットを見つめている。


 ───シャーロットの手が震える。クラレンスに何か言おうと思うのだが、胸がいっぱいで言葉が出ない。



「団長。───会議の時間が迫っております」



 その時、近衛兵が廊下の向こうからやって来てクラレンスに声をかけた。


 シャーロットはハッとしてクラレンスから目を逸らす。クラレンスは残念そうに苦笑した後、近衛兵に今行くと返事をしてシャーロットに向き直る。



「───1週間後。陛下との謁見の後に……この話の続きをいたしましょう。……シャーロット様」




 そうしてクラレンスは王宮へと戻って行った。……シャーロットは馬車が見えなくなるまでそれを見つめていた。


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― 新着の感想 ―
おおーっとここで時間切れ………⁉ お預けですね……。 おとなしく待てをしています。
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