飼い主との再会
「───シャーロット。ご挨拶を」
父に呼ばれ入った応接間に居たのは父と───クラレンス セリエ近衛師団長。
一週間ぶりに会う飼い主……いやクラレンスに一瞬呆けたシャーロットだったが、すぐに淑女の礼をする。
「ようこそおいでくださいました。……セリエ近衛師団長様」
……そしてチラリと前に立つ彼を見た。
「お久しぶりです。オルコット公爵令嬢。お元気そうで何よりでございます」
そう言ってシャーロットを優しく見つめ静かに微笑むクラレンスが居た。
……ああ。猫だった時と同じだわ。
シャーロットは心の奥から嬉しさが溢れて来る。
「───! ……クラ……セリエ師団長様も……。
その節は、ありがとうございました」
シャーロットの言葉に頷きこちらに微笑むクラレンスに動悸が激しくなりつつ微笑み返す。……顔が熱い。きっと、赤くなってしまっているわ。
今日は公爵令嬢の捜索を主導していた近衛師団長であるクラレンスが本人に聞き取りをする、という名目で公爵家にやって来たようだった。
若い2人の様子を見て見ぬふりをしていた公爵がコホンと咳をしてから言った。
「───来週いよいよ陛下との面談だ。打合せ通りにゆくとは思うがまだ王家を信用しきれない面もある。……セリエ殿。王宮側から見て何かあればすぐにこちらにお知らせ願いたい」
「勿論でございます。まさか陛下が更に愚かな事などなさらないとは思いますが、一度はあのような事があった訳ですから疑うそのお気持ちは十分理解いたします。
しかし王太子殿下がこの度の件に対して相当お怒りでしたのでおそらくは大丈夫かと思います」
何やら不穏な話をする2人に若干引き気味のシャーロットだったが、ブレンダに言われていた事を思い出して言った。
「……その事なのですけれど。ブレンダが当日の王宮の警備をしっかりしておくようにと言っておりましたわ」
友人である魔女ブレンダは、シャーロットが人間に戻ってからは会いに来るのは2日に一度位。……猫だった時には時間を見つけては会いに来てモフっていったというのに。……ブレンダは本当に猫好きなだけであんなに会いに来てたのかしら、猫のままの方が良かったと想っているのではと少し疑っている。
あの頃のシャーロットは猫で不安定な時期だったからだとは思うけれど。
そしてそのブレンダから、ある人物にも気を付けるようにと言われていた。
「魔女殿が?」
公爵とクラレンスが驚く。
「───ええ。王宮内におかしな黒い影があるとかで……」
エドワルドの『婚約破棄』を見事言い当てたブレンダだが、本来彼女は未来視などは出来ない。だが不穏な事が起きる前には『黒い影』として感じるらしいのだ。
「黒い影、とはいったい……」
そう言って父は眉間に皺を寄せた。
「何か良からぬ事が起こるかもしれない、ということですわ」
「良からぬ事、ですか……」
クラレンスが難しい顔をした。
シャーロットはブレンダの言う事を信用している。……何しろ前回の『婚約破棄』では彼女の言った通りになり、自分は猫になってしまうという大失敗を犯したのだから。
「ええ。それから───」
父とクラレンスがこちらを見る。シャーロットは余り口にしたくない人の名を挙げた。
「───エドワルド殿下は、今どうされていますか」
……案の定、2人はあからさまに嫌な顔をした。
「───シャーロット。それは、いったいどういう事で?」
公爵は当然エドワルドに良い感情を持ってはいない。可愛い娘の口から出たむしろ憎いと言ってもいい男の名に、非常に不愉快な顔をした。
「まさか、会いたいと思われているのですか? ……まだ、愛していると?」
クラレンスは不快というよりも不安そうにシャーロットに尋ねた。
「ッ!? お二人ともお待ちください……! 私はブレンダからの伝言を伝えているだけですわ。私があの方に会いたいなんてことを思うはずがありませんわ!」
2人はシャーロットのエドワルドに対する拒否反応に安堵した様子だ。
「……それならば良いのだが。
それで? 魔女殿は元殿下に対して何と?」
『元』を強調する父にシャーロットは苦笑しつつ答える。
「何か、不穏なものを感じるのですって」
「……魔女殿がそういうのならばそうなのだろう。では当日は───」
父が頷き話し出すとクラレンスもそれに加わり当日の段取りと警戒すべき点を話し合った。
◇
「───では、私はそろそろ。王城に戻らねばなりませんので失礼をいたします」
クラレンスがそう言って席を立ち礼をする。
「ああ。忙しいところ感謝する。
───シャーロット、セリエ殿を玄関まで送って差し上げなさい」
父は自然にシャーロットにそう言った。
先日クラレンスと2人で公爵家に戻った時には随分と彼に警戒していたようだったのに、少し意外に思ったシャーロットは父に尋ねた。
「……お父様。よろしいのですか?」
「ああ。色々お世話になった分、きちんとお礼を言っておいで」
公爵はシャーロットを優しく見つめながらそう言って、二人の若者を部屋から追い立てた。




