高位貴族の跡取り娘
そんな友人を見てシャーロットは言った。
「───アマリア。大丈夫なの? 私達が恋をするにはしっかりとした下調べが必要よ。……分かっているでしょう?」
シャーロットの言葉にアマリアはスッと真顔になる。
「───ええ。分かっているわ。私達貴族の後継には色んな思惑の者が近付いて来るもの。特に私達のような跡取り娘には」
シャーロットとアマリアは先程までの柔らかな雰囲気ではなくなっていた。
───2人の共通の悩み。
それは高位貴族の後継娘であるが故に、次男以降の男性からのアプローチが余りにも多く辟易してきたこと。国中の貴族の次男以降のほとんどは可能ならば貴族の婿入りを狙っているのだから。
その中でも侯爵家と公爵家。高位貴族の2人には通じるものが多かった。
「───だからこそお父様はそれなりに頭がキレてお金に余り興味がなさそうなあの元婚約者を選んだ訳だけれど。別の意味であれ程酷いとはお父様も思わなかったようだわ」
そして当時は私の筋肉好きも却下されたのよね、と手を頬に当てアマリアはため息を吐きながら言った。
「……そうね。幼い頃から私達はそういう事を考えざるを得なかったのよね……」
2人で苦笑し合う。その共通点があったからこそシャーロットとアマリアは仲が良くなったのだ。
「私はそれでも恋がしたくて足掻いていたけれど、シャーロットはむしろ色恋沙汰から逃げていたものねぇ」
「───貴族はいずれ親が決めた結婚をするだけ。それまでは自分の心を迷わせたくなかったのよ。もしも叶わない方に恋をしてしまったら辛い思いをするだけだもの。それに色々あって男性不信気味になったのもあるけれど」
シャーロットはそう言って苦笑した。
だから一時、レイモンド王太子が国王の命令でシャーロットの心を掴むべく何度も訪ねてきた時も可能な限り避けた。両親が反対している以上はあり得ない話と分かっていたし、元々お兄様のような方だったから。
そしてエドワルドとの婚約が決まった時は致し方ないかと思った。決まった以上は素直に婚約を受け入れ共に力を合わせて家を盛り立てていこうと決意したのだ。
……それなのに、エドワルドには『家を盛り立てる』という意識が全くなかった。しかも彼は義妹と付き合い出して───。シャーロットは無駄な努力だと途中で諦め機会を待った。
アマリアもそう。彼女も早々に浮気者の婚約者に見切りを付けていた。
「それで? アマリアから見た『その方』。もう侯爵家で見定めは出来たのかしら?」
「───まあね。下調べは済んでいるわ。今の所彼に問題は無さそうよ。……あとは彼を振り向かせるだけなのよね」
「え? その方からアマリアに声を掛けてきたのではないの?」
「……声は掛けてきたわよ。私がセリエ様にお会い出来ず貴女の情報が入らなくて困っている時にね。……優しい方なのよ。
でもそうでなければ多分話しかけてくれていなかったわね」
「それは……。高位貴族の令嬢に対して適切な態度ではあるけれど」
「そうなの! だけど何度も話をしているのだからもっと向こうから来てくれてもいいと思わない!?」
「……こちらが好意を持っている場合はそうだけれど。そうじゃなければ怖いけれどね。
でもまあ、きちんと礼節を守る方か駆け引き上手な恋の手練なのか。……どちらなのかしらね」
今までに気のない素振りで気を引こうとする男性もいたから2人は疑り深くなっていた。
「とりあえず私は彼にアプローチを続けるつもりよ。……だからシャーロット、貴女も新しい恋に目を向けてね。きっと素敵な出会いがあるわ」
シャーロットはハッとしてアマリアを見た。
……アマリアは私に元気を出させる為にこの話をしてくれたのだわ。
たとえエドワルド殿下の事を愛していなくても、婚約者に浮気や裏切りをされるのは辛い事。その気持ちが分かるから、私が必要以上に落ち込まないようにと考えてくれているのね。
「───ありがとう、アマリア。……貴女が居てくれて良かった」
するとアマリアはふわりと笑った。
「……ふふ。私もよ。シャーロット、これからも一緒にいてね」
アマリアの微笑みと言葉にシャーロットは心が温かくなったのだった。
◇
「───アマリアの想う方って誰なのかしら……」
アマリアを見送り、シャーロットは部屋で1人考え込んでいた。「まだ秘密よ」と最後まで相手を教えてくれなかったのだ。
シャーロットが近衛師団でクラレンス以外で知っているのは副団長ダニエルくらい。しかし彼は妻子がいると聞いている。
「……うん、分からないわ」
そうしてぽふりとソファのクッションにもたれこむ。
……だけど、アマリアが好きなのがクラレンス様でなくて良かった……。
そう思ってからシャーロットはパッと顔を上げる。
これは……、そうよ。クラレンス様は別の方を想っているからアマリアが傷付かなくて良かった、という意味なんだから。
一人で動揺していると、父が呼んでいるとの侍女の知らせに慌てて応接間に向かった。




