公爵家の訪問者
王国の社交界ではオルコット公爵令嬢は婚約破棄騒動後に怪我をし隣国大使館にて保護されていたのを無事発見され、今は王都のオルコット公爵邸にて療養中だと発表されている。
しばらくしたら王宮に呼ばれ正式に王家から謝罪を受け全てを解決とする道筋が出来ている。
───そして今日、オルコット公爵邸には1人の客人がやって来ていた。
「……ッ! ……シャーロット……! 良かった……心配したのよ」
そう言って涙ながらにシャーロットに抱き付いて来たのは彼女の友人であるベッツ侯爵令嬢アマリア。オレンジ色の髪に青い瞳の美しい令嬢はシャーロットの姿を見て心底ホッとしたようだった。
シャーロットを心配し、近衛騎士団長室にまで突撃……問い合わせに来ていた行動力のある令嬢である。彼女には別の目的もあったようだが……。
「アマリア。……心配かけてごめんなさい。来てくれてありがとう」
シャーロットは猫の姿で近衛騎士団長室に来たアマリアと会っている。心配し探してくれていた事を見て知っているシャーロットは感謝の気持ちで微笑んだ。
「……シャーロット。何があったかは聞かないわ。今貴女が笑顔でいる事が何よりの答えですもの」
そう言ってアマリアも微笑み、お互いにクスリと笑って抱き締め合った。
「そしてシャーロット……。お互い不満だった婚約を無くせたわね! ……心配をかけたけれど私もあれから無事婚約を破棄出来たのよ。あの浮気男が見事にやらかして……。
よりにもよってあの浮気男は貴女が居なくなったあの騒ぎの中、評判の悪い未亡人に手を出した所を見つかったのよ!」
「ま、まぁ。なんて事なの……」
まさかその場に自分もいたとも言えず、アマリアの怒涛の婚約破棄の顛末を聞く事になったシャーロットだった。
あの後、元婚約者の浮気の証拠を掴んだアマリアの叔父は喜び勇んでアマリア達の元へ訪れた。親友シャーロットが居なくなりショックを受けていたアマリアに代わり、ベッツ侯爵が全て滞りなく手続きを済ませてくれたそうだ。
元婚約者はそれでも抵抗していたそうだが、王宮で多くの貴族達にも見られどう足掻いても言い逃れは出来なかったようだ。
「───それで、目出たく私の婚約破棄は出来た。
……だけど貴女が一向に見つからない。あれから王家も公爵家に公式に謝罪しシャーロットも無事婚約を解消出来たっていうのに……」
「アマリア……」
……ああ私は大切な友人を、こんなにも心配させていたのね。
「……それで! 侯爵家で情報が集まらないから私はあのパーティーで警備を担当していた近衛騎士団を訪ねてみることにしたの!」
「そ、そうなのね……」
……うん、知ってる。猫姿でその場にいたからね。アマリア、凄い『突撃』だったわよね?
「そうしてあのセリエ近衛師団長にお会いしたの……! ああ、あの素晴らしい逞しい筋肉、あの端正な顔だちに冷静な態度……。やっぱりとっても素敵だったわぁ……。
やっぱり次の婚約は彼のような方としたい。そう思ったわ」
アマリアはうっとりとして頬を染めた。
シャーロットはなんだかアマリアが心配になる。……あの時、明らかにクラレンスは彼女に全く関心がなさそうだった。おそらくクラレンスが昔婚約を望んだ相手はアマリアではない。
シャーロットはなんとかアマリアを傷付ける事なく話が出来ないかと悩んで口を開く。
「アマリア、あの……「……それなのに! 彼、猫派だったの!」───え?」
キョトンとするシャーロットをよそにアマリアは熱く語り出す。
「セリエ様は訪ねて行った王宮の団長室にまでご自分の飼い猫を連れていらしたわ。……私が超犬派だって事はシャーロットも知ってるでしょう? でも私はセリエ様がお好きならとその猫を可愛がろうと思ったわ。……だけどセリエ様は私に全く見向きもせずにその猫を可愛がっていらしたの」
アマリアはそう言って悲しげに目を伏せた。
「アマリ……」
「……屈辱よ。セリエ様は私よりも猫がお好きなようだったの。せめてその対象が犬なら一緒に可愛がり盛り上がれたのだろうけれど。……やっぱり私は犬派の方でないとダメみたい……」
そう言って落ち込むアマリアに、シャーロットは何も言えなくなった。
……クラレンス様は私ではなく『猫』がお好きだから可愛がってくださったのよ。私だからじゃあない。彼には、婚約を望む女性がいるのだから……。
……分かっているはずなのに、何故私はこんなにショックを受けているのかしら……。
「……でもね。それでも思い切れずに状況を聞こうと何度も彼を訪ねたのよ。でも多忙だからって断られちゃって……。
そうしたらね、訪ねた先の近衛兵の方がよくしてくださって。……その方が今ちょっと気になっているのよね」
「そうなの!?」
話の急展開にシャーロットは驚いた。
……あれからアマリアが師団長室に来なかったのは、多忙で面会を断られていたからだったのね。そして、アマリアにまさかの別の恋の予感!?
「ええ。……彼もとても素敵な筋肉なの……! セリエ様がガッシリした鍛え抜かれた筋骨隆々な身体なら、彼はしなやかな鋼のようかしら。そして何より彼、とても優しいの……! 落ち込む私を力付けてくださって……」
うっとりしながら話すアマリアは、完全なる恋する乙女だった。




