父への告白
途中から3日前の公爵目線の話になります。
王都の王宮近くにあるオルコット公爵邸はその屋敷は勿論のこと、庭園も大変素晴らしい。
今は薔薇が見頃の庭園を見渡すオルコット公爵の執務室で、シャーロットは父と2人で話をしていた。
「───では、叔父様達は今後は領地で暮らされるのですね」
「……『暮らす』というよりは幽閉に近い。基本的に屋敷付近から出る事は許されない事に決まった」
オルコット公爵は愛する娘を見つめながら答えた。
───今日はシャーロット オルコット公爵令嬢が乗った馬車がグレゴリー伯爵の雇った傭兵に襲われ、密かに王宮にてその罪を裁かれた翌日。
シャーロットは昨夜遅くに帰った父公爵の執務室に呼ばれて事情を聞いている。
父は長くかかった関係者との話し合いで日を跨いだ時間に帰ったようだった。
シャーロットは父の顔を見た。父は約10日程『猫』になって行方不明だった自分を探し続けずっと眠れぬ夜を過ごして来たのだ。少し痩せて、目にクマもできている。
シャーロットが人に戻ってからは滞りなく元の生活に戻れるように隣国の大使との調整、そして今回の叔父の件と立て続けの後始末に追われているのだ。
とても疲れているはずの父は話は後でいいと言うシャーロットに大丈夫だと言い切って、話し合いの場を設けてくれている。
……この後は、ゆっくり身体を休めて頂かなければね。
シャーロットはそう決意しながら父の話を聞いた。
そして最終的に罪を認めたグレゴリー伯爵親子は、今は大人しく粛々と周りに従っているそうだ。
「───分かる者は分かるのだろうが、今回の罪は公にはされない。我が家は実質的には被害は出ていない……が、心情的にはシャーロットに手を出そうとしたのだ。とても許せるものではない」
愛する妻の残した愛しいシャーロット。その大切な娘を害そうとした自分の弟一家。複雑な思いはあるが、やはりとても許せそうにはない。……しかし憎みきれない情もある。
今回の非公式での処罰の結果はそういう事だ。王家も巻き込んでしまったが、王太子レイモンドはエドワルドの件もあってか『是非頼ってくれ』と心強い言葉ももらった。おそらく次代の王とオルコット公爵家は上手くやっていけるだろう。
「まあ実際私はあの馬車に乗ってはいなかったのですし、幼い頃は叔父様達に可愛がられた記憶もあります。……私も厳罰は望んでおりません」
ブレンダから話を聞いて最悪襲撃の可能性があるからと周りから強く説得されたシャーロットは実際には馬車には乗らず、オルコット公爵邸で待機していた。そしてブレンダに魔法で事件の前から王宮での話し合いの場面までの全てを見せてもらっていたのだ。
「シャーロット。この件は……魔女殿に『視せて』いただいていたのだろう?」
公爵は魔女ブレンダと直接の交流はない。代々オルコット公爵家の後継は公爵家を護るその存在を聞かされてはいても姿を見る事はなかったそうだ。
その役目は代々『公爵夫人』だった。先代の公爵夫人が次期公爵を指名し、次期公爵の妻も先代夫人が認めた者。しかしほぼその相手は本人の希望と一致する。そしてその次期公爵夫人も魔女との交流を持つ事になる。
代々、それがオルコット公爵家と魔女との関わり方だった。それが続く限りは魔女はその強大な力を公爵家に貸してくれるのだ。
これこそがオルコット公爵家の力の秘密。
先代公爵夫人に後継者に指名され初めてこの全ての秘密を明かされる。一族でも他の者はこの完全なる秘密は知らない。だから当然、公爵の弟パーシー グレゴリーも知らなかった。
公爵の問いかけに、シャーロットは頷いた。
「───はい。お父様が大使に挨拶するところから、叔父さま達が王宮で罪を認めるまでの全てを見ております」
「───そうか……。魔女殿はそこまでシャーロットを大切にして願いを叶えてくださるのだな」
そう言って頷く公爵にシャーロットは少し苦笑した。
「まあ本当に猫の姿に変えたりと、一度言った事は本当に容赦なく実行しますけど……。その代わりちゃんとその後の面倒も見てくれますけどね」
シャーロットはそんなブレンダが好きなのだが。
シャーロットの言葉を聞いたオルコット公爵は困ったように笑った。
そんな話をしながら公爵は、行方不明になった愛する娘が10日振りに目の前に現れた日の事を思い出していた。
───時は3日前に遡る。
シャーロットは近衛師団長クラレンスの元で、魔法が解ける条件『シャーロットを愛する者のキス』を見事叶えた後2人の前に現れた魔女ブレンダによって人目につかずにオルコット公爵邸に帰った。
公爵の部屋の前まで気付かれず現れたシャーロットと近衛師団長クラレンスを見てオルコット公爵は非常に驚いた。
……突然目の前に現れた事と、何故かクラレンスと共にいる事に。
「───お父様、ご心配おかけして申し訳ございませんでした。実は私……」
公爵は、もしやこの男と駆け落ちでもしていたのかと思わず拳を握り締めた。
……この数日間何度も顔を合わせていたクラレンスと娘がもしもずっと一緒にいたのなら。この男を一発殴ってやらなければ気が済まないと本気で思った。
「───猫になっていたのです」
しかし続いたその告白に、ただジッと娘の薄紫の瞳を見た。




