友人と、兄弟と。
……捕えられた伯爵家の騎士達の証言はあるが、証言だけでは決定打に欠けるはずだ。
……だからこのまま否定すれば、この場さえ乗りきれれば……。
グレゴリー伯爵達はそう考えていた。
「おかしいですね……」
その時、静まる部屋の中で一人の青年の呟きが響いた。見ればそこには壁際に近衛兵が一人。
このままこの場を乗り切るつもりなのに、一兵卒如きが何を言い出すのだと怒りが湧いた伯爵は思わず言った。
「───何だね、君は!」
「父上、彼はブルーノです。あの、例の手紙の……」
ネイサンは父親に小さく囁いた。
ブルーノ モットレイ。宰相の息子ではあるが庶子であり、正妻の子である弟がエドワルド殿下の側近をしていたのとは違い近衛騎士団員として身を立てている。
「……私は今回公爵令嬢が発見された事を友人ネイサンに手紙でお伝えしました。ちょうど彼の家は騒動で謹慎中でしたので、お身内の喜ばしい話が伝わらないのではと思ったからです。この件は彼の父の実家である公爵家の事であり、令嬢が行方不明になってからその捜索状況をネイサンはずっと私に確認していましたから」
ブルーノの告白に、ネイサンは慌てて言い訳をする。
「わ、私が従兄弟を心配して捜索状況を聞くのはおかしな事ではないだろう!?」
「ええ勿論。しかし私は令嬢が無事発見されたので心配は要らないと書いたのに、伯爵はすぐに公爵家まで状況を確認に行かれました」
「それは、それだけシャーロットが心配だったから───」
「ええ。しかしその後君の家は慌ただしくなり騎士達は怪しげな動きをして傭兵と連絡を取っていた。
……ネイサン。グレゴリー伯爵家は謹慎中。気付いていなかったのかもしれないが、その行動の全てはずっと監視されていたんだよ」
「な……!?」
ネイサンを始めグレゴリー伯爵親子は唖然とする。
「全て、筒抜けだったんだ。……残念だよネイサン。君からの返事には令嬢を心配する事は書かれてはいなかった。ずっと、おかしいと思っていたんだ……」
ブルーノは残念そうにそう言った。
近衛騎士団長クラレンスが彼を憐れむかのように見てから伯爵達に言った。
「───お分かりになられましたか? 今回どれだけ伯爵が否定しても、その行動の全ては見られていたのですよ」
グレゴリー伯爵は青くなりがくりと膝をついた。
「私は───。長年兄との格差を思い知らされながら生きてきた。今度こそ私が兄より上になれると思ったのに……」
「───パーシー」
そこに現れたのは、怪我を負ったはずのトラヴィス オルコット公爵その人だった。
「ッ! ……兄上……!」
全く怪我などなくいつもの威厳あるその姿を見てグレゴリー伯爵は愕然としてから、卑屈に笑い出した。
「……ックク……! ……ああそういうことか……。我々はまんまと罠にハマったという事か!」
「パーシー。……私はお前がこのような事をしないと思いたかった。この結果を選んだのはお前自身。そしてお前の私を見る目が言葉と一致しない事も分かっていた。
───それより」
オルコット公爵はそこまで言ってグレゴリー伯爵をギロリと見る。
「お前は、この後どうするつもりだったのだ。これが成功しても失敗しても、本当の意味で子供達の為にはならない。お前は子供達まで愚かな道に引きずり込んだのだ。そして───」
グレゴリー伯爵は悔しげに拳を握り締めながらも兄を見た。
「……そして私の愛する娘シャーロットを害そうとした事を私は決して許す事は出来ない」
その、凍てつくような鋭い視線を見たグレゴリー伯爵は身体の底から震えた。……そして幼い頃、自分達を襲おうとした暗殺者から身を挺して自分を庇おうと前へ出て、その暗殺者を鋭く睨むこの兄の眼を思い出した。
あの時、自分を愛し守ってくれた兄の敵を見る眼が、今は私に向けられている───。
パーシー グレゴリーは震えていた。そして知らぬ間に滂沱の涙が流れていた。
「父上!? ……泣いて、おられるのか」
驚く息子達の声で自分が泣いている事に気付く。……それと同時に、自分がどれだけ愚かな事をしたのかも。
「あ……あに、うえ……。あにうえ……。許し……お許しください、私はなんと愚かな事を……」
幼い頃のように、兄に縋り涙を流す弟を見た公爵はその鋭い眼を逸らし息を吐いた。そして弟の肩をポンとキツめに叩いた後背中を向けた。
「───グレゴリー伯爵家は、今後オルコット公爵家との関わりを持つ事を一切禁ずる。たとえ我が公爵家の血が絶えようとも、グレゴリー伯爵家にその後継の役割が回る事はない。
───ただし、今回我が家に被害は出ていない。グレゴリー伯爵家は傭兵などを扇動して王都の治安を悪くした罰を王家より受けるがいい」
オルコット公爵はそう言い切って、そのまま謁見の間を出て行った。
グレゴリー伯爵親子は先程までの不遜な態度が嘘のように鎮まり泣き崩れ俯いていた。
国王とレイモンド王太子は彼らを見て一つ息を吐いた。
「───では、沙汰を言い渡す」
謁見の間の、王家と伯爵家少人数の重い空気の中でその声は響いた。




