認めたくない人々
───本当に、叔父様達は私を……。
シャーロットはとある場所から動揺する叔父達の様子を見ていた。一度は彼らの本性を見たというのにまだどこか信じられない思いだった。
……だから友人である魔女ブレンダが、猫から人間に戻ったシャーロットが元の生活に戻る策として隣国の大使の手を借りる事、そしてそれを周りの者が知った時どうするかを見てみるがいいと言われた時。……いくら何でもブレンダが考えているような、シャーロットをどうにかしようだなんて恐ろしい事をする人なんて居ないと思っていた。
シャーロットがクラレンスの前で人間に戻りブレンダと話をして密かに公爵邸に戻った時に、父であるオルコット公爵にその話をした。
父だってそんな馬鹿な事など無いと、そう言うと思った。
しかしオルコット公爵は少し考えた後、「魔女殿の言う通りにしてみよう。万全の対策を取って、それで何もなければそれでいい」と答えた。……今から思えば、父も弟一家に不審に思っていたのだろう。
シャーロットは驚いたが、確かに事が起きなければそのまま『怪我をし隣国大使館に保護されたシャーロットが公爵家に護送される』と人々に思わせる為だけの行為なのだから、と納得した。
しかしまさか、本当にその護送の車列が襲われるとは。……しかも、実の叔父一家の策略によって。
その全てを、シャーロットはブレンダから魔法で見せられていた。
───悲しくて苦しくて、唇を噛んだ。
そして謁見の間では、レイモンド王太子が前に立ちグレゴリー伯爵親子に語りかけようとしていた。
◇
「───グレゴリー伯爵。出て行く必要はないよ」
まるでグレゴリー伯爵一家を励まし助けるかのような、優しげな声。
しかしそれはこの謁見の間から退出しようとする彼らを止めるものだった。
グレゴリー伯爵一家が顔を上げると、そこにはこちらに笑顔を向けるレイモンド王太子。……しかし、最初ほっとしたグレゴリー伯爵は笑顔のはずのレイモンドを見て次の瞬間ゾクリとした。
レイモンドは確かに表面上は笑顔なのだが、視線は凍てつくような冷たさでグレゴリー一家を見ていたからだ。
「……殿下。お気遣いをありがとうございます。しかし私は兄と姪が心配で堪らないのです。今すぐその姿を確かめたく……」
本能が、早くこの場から逃げろと言っていた。グレゴリー伯爵はそう言ってこの場をなんとか辞そうとした。
「───心配? ああ、伯爵家の騎士が無事に帰っているかが心配なのかな。……それならば尚更ここにいた方がいいね」
『伯爵家の騎士』。
グレゴリー伯爵親子はビクリと震え王太子を見た。……レイモンド王太子は和やかに彼らを見ていた。
「……殿下。それは、いったいどういう……」
伯爵は恐る恐る尋ねる。……しかし次の瞬間、しまったと思った。
王太子はまるで狩りで獲物を見つけた時のようにニヤリと笑ったからだ。───そう、『獲物』は彼ら。
「どうとは……、伯爵達が一番よく知っているだろう? ……ああ、そうだ、彼らの事を『心配』しているのだったね」
レイモンドはチラリと近くに控える近衛騎士団長クラレンスに目配せする。クラレンスは軽く頷き衛兵に指示を出す。
すると謁見室の入り口から衛兵が数人の何者かを連れて入ってきた。
グレゴリー伯爵親子達は入り口を見てギクリと固まり青ざめた。
───それは、怪我を負い縛られた伯爵家の騎士達だった。
「───っな……っ」
言葉を失う伯爵に、レイモンド王太子は最初は優しく最後は促す。
「───声を掛けてやらないのか? グレゴリー伯爵家の忠実な騎士達だ」
グレゴリー伯爵親子は焦りながらも言い訳を始める。
「違う!! ……いえ、違います……! 私達はそのような者達など知りません!」
「これは何者かが我らを陥れようとする罠です!」
「我らは公爵の身内ですよ? 下賎な者の言う事を信じるとは失礼な話だ!」
「それに我らは謹慎中の身だ。そのような事が出来るはずがない! そいつらは我らには関係ありません!」
必死に罵倒し続ける彼らを見て、縛られた騎士達は絶望した表情をした。彼らとてグレゴリー伯爵家に忠誠を誓った騎士。主人の為ならと捕まり尋問されても決して伯爵家に不利になる話はしなかった。……それなのに、完全に自分達を切り捨て罵倒するとは。
「───だそうだが、お前達は言いたい事はあるか」
皆の前へ引き立てられた騎士達にクラレンスは尋ねた。先程まで主人を庇って何も話さなかった彼らは憑き物が落ちたようだった。
「───はい。主人の余りの情けのなさに呆れ果てております。……私達のした事は間違いでした。全てはグレゴリー伯爵が公爵位を得んがための行動」
「なッ!! 嘘だ! これは私たちを嵌める罠だ!」
最早これまでと観念した騎士達の言葉にグレゴリー伯爵は即座に反論した。
「……そもそも私達は謹慎中で、詳しくは何も知りません……!」
「───おかしいですね。昨日伯爵は公爵家に兄に会いに行かれたでしょう」
近衛師団長クラレンスはすかさず問いかける。
「~~ッ! いや、見つかって良かったと祝いを言いに行っただけで今日の話など何も聞いておらん」
「お会いしたのにご令嬢が次の日に帰る予定を何もお聞きにならなかった?」
「~~~~! ……そうだ。私は何も知らん!」
押し問答を続けたが、伯爵は決して罪を認めようとはしなかった。




