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婚約破棄されたので、猫になりました。  作者: 本見りん


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悲しみと疑惑

誤字報告ありがとうございます。


 王国が誇る絢爛豪華な王宮。

 ───しかし今日の王宮には重い空気が漂っていた。


 グレゴリー伯爵親子が案内され謁見の間に向かう途中で、重職に就く大臣や貴族達から不安げな様子で声をかけられた。



「おお、グレゴリー伯爵……! 何やら王宮内が不穏な様子。もしやオルコット公爵家に何かあったのですか!?」


「昨日、ご令嬢が隣国の大使に保護されていたと聞き安心した所だったのですぞ」


 人々は口々に心配そうに声を掛けた。



「───それが、私共にもどういう事なのか……。やっと姪のシャーロットが見つかったと喜んでいたというのに……」



 周囲から次々に公爵家の事を問われたので、グレゴリー伯爵は『兄一家を心配する哀れな弟』を演じそう口にしたのだが。


「……これは、保護されていたシャーロット嬢に何かがあったという事ですか?」


 聞き返されてギクリとする。

 ……いかん。周りがどこまでの情報を持っているのか分からぬまま余計な事を話すのは良くない。王宮からの書状には『至急王宮に来るように』とだけ書かれていた。直接オルコット公爵家の悲劇には触れてはいなかった。


 しかもその書状にはグレゴリー伯爵の息子達までもが呼び出されていた。てっきりもう公爵家の悲劇はある程度知れ渡り被害者家族として呼ばれていると思ったのだが、違うのだろうか?



「……いえ、我が家は末の弟までがここに呼ばれましたので、伯父達に何かあったのかと不安に駆られている所なのです」



 長男マイクが戸惑う父に代わって答えた。相手の貴族達も納得したようで、「やはり公爵家に何かが……」と表情を固くした。



「───グレゴリー伯爵、お早く。陛下がお待ちです」



 案内役の侍従に急かされ、グレゴリー伯爵親子は謁見の間へと入る。


 ───待つ事暫し。

 侍従が王の来訪を告げ、謁見の間に国王と王太子が近衛兵に囲まれ入って来た。

 グレゴリー伯爵親子は頭を下げる。


 国王の周りを始め謁見室の周囲には近衛騎士団が隙なく警備している。謁見の間には、国王と王太子、そしてグレゴリー伯爵親子と周りを囲む近衛兵達が緊張感が漂う中向かい合っていた。



 少し顔色の悪い国王は、挨拶もそこそこに話を始めた。



「───グレゴリー伯爵。よく参った。……実は、残念な知らせだ。

昨日良き知らせを聞いたばかりだと言うのに、オルコット公爵家のご令嬢が乗る馬車が何者かに襲撃されたそうだ。公爵は怪我を負いご令嬢は……」



 国王はそこまで言って俯いた。


 グレゴリー伯爵親子はハッと驚いて見せた。



「そんな……。なんという事。シャーロット……。無事だと聞き安心した所でしたのに」


 

 グレゴリー伯爵は一度驚いてみせてから悲しげな表情を浮かべた。

 ……そうとは見えないように喜びを抑えながらも、とうとうこの時が来たかとドクドクと胸が高鳴った。



 ───そうだ。これが私が辿るべき道。公爵になるのだ。……やっと私達の時代が来る。



 グレゴリー伯爵と息子達は表面上悲しげな様子を装いながら、心はこれからの輝ける公爵への道に高揚していた。


 そうとは気付かないようで、国王は尚も状況を話し続ける。



「───郊外から公爵邸に戻る途中に身元不明の傭兵に襲われたそうだ。王都を守る第二騎士団がそのすぐ後に駆け付けたそうで、今その者達を取り調べ中である」



「おお……。何ということでしょう。兄上、シャーロット……」



 伯爵は目頭を抑え俯いた。


 


「───郊外とはいえ王都で公爵とその令嬢が乗る馬車を傭兵が襲った事を、伯爵はどう思う?」



 王の隣でジッと話を聞いていたレイモンド王太子が、静かに問いかけた。



「───恐ろしい事でございます。国王の御威光を恐れぬ、罰当たりな者がこの国に居たとは……」


「そうだ。そしてこれは明らかに公爵家を狙ってのことだ。……という事は、今公爵家の不幸で一番得をするのは───」



 レイモンド王太子は間髪おかずそう言って、ジッとグレゴリー伯爵親子を見た。


 グレゴリー伯爵達は焦りつつ答える。



「何をおっしゃいますか……! 私は悲しゅうございます。娘とも思う姪の不幸を嘆き悲しむ私にそのような事を……」



 そう言って悲しげに顔を歪ませた。そして内心自分に言い聞かせる。


 ……大丈夫だ。これは状況的に少し疑わしく思われただけ。兄達に何かあるイコール私が何かをしたなどと、証拠も無しにそのような事を言えるはずがない。

 ───そうだ、証拠は何も無いのだ! 



「兄達がこのような事になり、私どもは本当に悲しみにたえません……」


 グレゴリー伯爵はそう言って俯き涙を堪えるフリをした。


「私達はシャーロット嬢と兄妹のように育ったのです。やっと彼女が見つかった喜んでいたというのに……」


「伯父上やシャーロットをこのような目に合わせたその者達が許せない!」



 伯爵親子は次々に悲しみを表したが、国王と王太子は淡々として動じない。



 その時扉がノックされ、謁見室に入って来た第二騎士団長が王太子に耳打ちする。



「───公爵一行が襲われた時、少し離れた場所でその様子を窺っている者達がいたらしい。第二騎士団がその者達を捕らえてあるそうだ」



 ───ギクリ。


 グレゴリー伯爵は表面にはそのまま悲しげにしているものの、内心非常に動揺していた。


 ……私が命じた傭兵の様子を見に行かせた我が家の騎士達は、報告だけ寄越しただけで屋敷に帰っていなかった。その後の動向などを詳しく調べているのだろうと思っていたがまさか……。



 グレゴリー伯爵親子は悲しげにしながら動揺するという器用な状態に陥っていた。冷や汗がダラダラと流れている。



「───陛下。私どもは兄達の様子を見に行っても良いでしょうか。……心配でならないのです」



 なんとか絞り切って出した言葉がこれだった。


 今は何とかこの場から逃れなくてはならない。




 グレゴリー伯爵は、今この場から逃れ作戦を練り直す必要があると考えていた。……もしくは兄に泣き付けば何とかしてもらえるかもしれないとも。


 自分達が傷付け排除しようとした兄に助けてもらおうと、本気で何とも思わず考えていた。



「───グレゴリー伯爵。出て行く必要はないよ」



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