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婚約破棄されたので、猫になりました。  作者: 本見りん


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猫を見れば思い出す



 ガチャリ……


「ロッティ……?」



 仮眠室にやって来たクラレンスは猫のベッドがもぬけの殻な事に気付き一瞬慌てた。が、部屋を見渡せば自分のベッドにちょうど猫位の大きさの膨らみを見付けクスリと笑う。


 そして静かに近付きそっと上掛けを捲ると白い猫が規則正しい呼吸をしながら丸くなって寝ている。



 ……私の猫は本当に可愛い。



 クラレンスはそれを見ただけで今日の疲れが癒やされていくようだった。



 そして優しく上掛けをかけ直してやり、物音を立てないよう静かに自分の寝支度をした。



 ……そういえば、一緒のベッドで寝るのは初めてだな。自分は寝相は悪くないはずだからロッティにのしかかったりはしないとは思うが。


 そう思って多少心配になり、クラレンスはベッドのロッティから少し離れた位置に入り込んだ。


 体を横にして、ジッとロッティを見る。ふわふわの毛並み、呼吸で上下する白い猫。

 

 ……やはり可愛い、可愛過ぎる。ずっと見ていたい。……触って撫でたい。触れたら、起こしてしまうだろうか?



 色んな煩悩がどんどん湧き出てくる。



 クラレンスは自分自身に少し落ち着けと言い聞かせて深呼吸をした。


 そしてもう一度ゆっくりとロッティを見た時、不意に何故か行方不明のシャーロット オルコット公爵令嬢の事を思い出した。



 ……ああ、もしかして瞳が同じ色だからか。



 公爵令嬢もロッティも、その瞳は澄んだ美しい薄紫色。



 そしてクラレンスは可愛いロッティを見つめながら、シャーロット オルコット公爵令嬢との出会いを思い出していた。




 ◇



 18歳で成人したクラレンスはその一年後には王太子レイモンド付きの側近兼近衛兵となっていた。レイモンドとは幼馴染でもあるので気心も知れた仲だった。



「───今から父上の命令でオルコット公爵家に行く」



 仕え始めてすぐの頃、あまり嬉しくは無さそうな態度でレイモンドが言った。


 友人でもある側近には、レイモンドは気軽に言いたい事を言っていた。



「───まったく、父上にも困ったものだ。7歳も歳の違う令嬢の機嫌を取れとは」



 父である国王へか令嬢へか分からぬ愚痴を何度も口にするレイモンドに、クラレンスはこの国で一番の力を持つ筆頭公爵家の令嬢が我儘を言って王太子を呼び寄せているのだと思った。



「公爵令嬢は、殿下をお望みに?」



 クラレンスもセリエ侯爵家の令息。次男とはいえ見目も悪くない名門貴族の自分に言い寄る令嬢はそれなりにいる。それが美男と名高い王太子殿下ともなれば令嬢達の憧れの的となるだろう。



「いや、違うんだクラレンス。……むしろ彼女には迷惑な話だと思う」



 この国の輝ける王太子であるレイモンドが『迷惑』?

 クラレンスは眉を顰める。



「殿下を迷惑などと思う者がおりますでしょうか」



 するとレイモンドは困ったように答えた。



「───そもそもオルコット公爵からは何度も縁談を断られていてね。それなのに、父は令嬢の気持ちを掴むべく交流を持てとこうして私をけしかけるのだ。……成人したというのに私にまだ婚約者のいない理由がコレだ」



 この時レイモンドは20歳。確かにこの歳の王太子が婚約者を定められていないのは遅い方だろう。周囲は高位貴族のご令嬢の誰かに既に内定していると思っているかも知れない。



「……ご令嬢は一人娘でしたね」



 その婚約者の最有力候補であるオルコット公爵令嬢はまだ13歳。彼女が成人するのを待っているのだとすれば納得は出来るのだが、彼女は公爵家の跡取り娘である。

 シャーロット嬢はこの国で王妃になるのに最も相応しい身分ではあるが、跡取り娘であるなら諦めるしかない。それなのに何故国王は王太子にオルコット公爵令嬢の心を手に入れるべく会いに行かせているのだろうか?


 そう話しているうちに二人はオルコット公爵邸に到着した。



「───これは……」



 初めて訪れた筆頭公爵家の屋敷は、小さな国ならば王宮だと思う程の壮麗さだった。

 クラレンスは冷静さを装ってはいたが内心は屋敷のその広さ豪華さにかなり驚きつつ、レイモンドに付いて屋敷内に入り応接間へと通される。


 そして現れたのは公爵夫人だった。



「レイモンド殿下。ようこそお越しくださいました」



 公爵夫人はプラチナブロンドの髪に青い瞳の美しい女性。確か公爵閣下とは恋愛結婚だったと聞く。



「夫人。……いつも迷惑をかける。今日はシャーロット嬢は?」


「ただ今友人が来ておりまして、庭を散策しておりますの。せっかくお越しいただいたのに申し訳ないですわ」



 ───さらりと躱わされた。


 公爵夫人はニコリと笑い、レイモンドは苦笑した。



 これは分かりやすく、令嬢に『会わせたくない』という事なのだと分かった。


 


 

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