気になる猫
「───ロッティ。君が私を庇おうとしてくれた気持ちは嬉しいが、もし閣下が言葉を理解していたなら大騒ぎになっていたかもしれないのだぞ」
近衛騎士団長室に戻ったクラレンスは真剣な顔でシャーロット猫にそう言い聞かせる。
「ニャニャアオ……(だってクラレンス様は一生懸命してくれているのに……)」
少し不貞腐れて答えるシャーロット猫の喉元を、クラレンスはこしょこしょとくすぐるように撫でる。
「……ありがとう、ロッティ。私の努力を認めてくれて。やっぱりロッティは私の最高のパートナーだな、力が湧いてくるよ」
クラレンスはとても嬉しそうな蕩けるような笑顔でロッティを見つめながらも、『でももう無茶をしたらダメだぞ』と釘を刺す事も忘れない。
そんな彼を見つめスリと見を寄せ甘えながらシャーロットはつい口にする。
「ミャア……ミャアオ(クラレンス様……聞いてもいいですか?)」
シャーロット猫は先程の父との会話が気になっていた。
クラレンスが笑顔で頷くのを見て問いかける。
「ミャア、ミャアオ(さっきの話、『過ぎた話』って?)」
シャーロット猫はその美しい薄紫の瞳でクラレンスを見つめ真剣に尋ねた。クラレンスは少し驚いた様子だったが、一瞬の逡巡の後ゆっくりと話し出した。
「───あれは……、以前私に来た縁談の事だ。色々あって話だけで終わってしまったが……」
「……ニャニャア?(……その人の事が好きだったの?)」
「───そうだな。お相手は内面から輝くような、素晴らしい方だった。……私には身に過ぎた話だったのだ」
クラレンスは少し寂しそうに笑う。
シャーロット猫の胸がズキリと痛んだ。
───クラレンス様に想う女性がいる。
彼は婚約者もいないと聞いていたし数日間一緒にいて特別な女性がいるようには思わなかった。途中突入して来た美人な侯爵令嬢の友人アマンダにもまるで関心は無かったようだったし……。
色々思い悩んでからハッと気付く。
……私、どうして悩んでるの。クラレンス様に婚約者やお好きな方が居ても、私には関係ないじゃないの。
そしてぷるぷるぷると頭を振る。そんなシャーロット猫をクラレンスは愛しげに見つめ、そしてふと気付いたように呟いた。
「───それにしても。今の所ロッティの言葉が分かるのは私だけのようだな。……これは可愛いロッティを愛する私の心が通じたという事なのだろうか……」
そう疑問を呈しながらも自分だけが可愛いロッティの言葉が分かるという事実にクラレンスは満足げだった。
「ニャニャア。ニャー……(そういえばそうよね。いったいどうしてかしら……)」
一人と1匹がそう悩んでいると、またバタバタと足音とノックの音が聞こえ現れたのは副団長ダニエル。
「あー、クラレンスまだ居た! 良かった……。休めって言っておいて悪いんだけど王太子殿下が至急でお呼びなんだ」
「───分かった。すぐ行く」
クラレンスはそう即答すると、シャーロット猫に向かって圧のある微笑みを向けた。
「ロッティ。今度はちゃんと留守番しているように。……お利口にしてるんだぞ」
「……ウミャア(……分かったわ)」
クラレンスはそれを見て頷き優しくシャーロット猫の頭を撫でた。
その横でダニエルが生温かい目でその様子を見ていたが、2人連れ立って急いで部屋を出て行った。
◇
クラレンス達が出て行き、近衛師団長室にはシャーロット猫だけになった。
シャーロットは先程クラレンスに感じたモヤモヤを考えたりと物思いに耽りながら、一人(一匹)で室内をウロウロする。
そこに不意に言葉が落ちて来た。
「───なんだい。随分思い悩んでるじゃないか」
「───! ニャア!(ブレンダ!)」
シャーロット猫が振り向くと、いつの間にかそこにはニヤリと笑う妖艶な美女ブレンダが立っていた。
「ニャア? ニャニャ? ニャニャ!(どうしてたの? あの時助けてくれたのブレンダよね? そうだクラレンス様に話が通じるの!)」
矢継ぎ早に質問してくるシャーロットに対してブレンダは余裕な態度でいなす。
「……ふふ。いつだって私はシャーロットのことを見てるのさ。そしてお前に手出しをしようとする者を許すはずがない。それに言葉が通じたのは半分魔法が解けかけているからだろう」
軽く質問に答えていくブレンダの、その最後の答えにシャーロットは食い付く。
「ニャ? ……ニャニャー!? ニャアオ?(解けかけている? ……もしかして例のキスで!? だからクラレンス様だけに言葉が通じていたの?)」
「それが解呪の条件だっただろう? あとひと押しなんだがねぇ」
「……ニャ! ニャアオ……(……でも! クラレンス様にはお好きな方が……)」
「ふーん、それで言葉だけなんて不完全な解け方をしてるのかね? 今度はシャーロットからブチュッといってごらん? すぐにでも解けるんじゃないかい?」
そう言ってカラカラと実に愉快そうにブレンダは笑った。




