話の出来る猫
「ニャ……ニャッ!?(私の言葉が……分かるの!?)」
クラレンスのその言葉に、シャーロット猫は驚いて彼の顔を食い入る様に見た。
「ニャ、ウニャア?(私今、猫だよね?)」
シャーロットはもしかして自分はもう人間に戻っているのかとパッと手を見る。……しかしながらそれは可愛い白猫の前脚だった。残念ながら人間に戻ってはいない。
「あぁ、猫だ。しかもとびっきり可愛い猫。……そしてどうしてだか、その君の言葉が分かる」
クラレンスはそう至極真面目な顔をして言った。シャーロットは猫姿の事を可愛いと言われているとは分かっているが、思わず照れてしまう。顔色が分かるなら、真っ赤になっている事だろう。
照れつつクラレンスを見ると、彼は怖いくらい真剣にシャーロット猫を見ていた。ドキリとして思わず焦って、それが本当か確かめる為に適当な質問をしてみる。
「ニャー? ニャーニャオー?(本当に? ……じゃあ例えばダニエルさんとの関係は?)」
「ダニエル? 彼とは領地が隣で小さい頃からの付き合いだな。
……ロッティは……ダニエルが気になっているのか?」
後半、クラレンスは声が低くなりこちらを嫉妬に燃えた目で見てくるので慌てて訂正する。
「ニャ! ミャアオゥニャー(違うわよ! 本当にクラレンス様に言葉が通じてるのか試しただけだから!)」
言い訳をしてから、何故こんなに必死に理由を説明しているのかしらと自分で自分を疑問に思う。
「ならば良いが……。いやしかし、本当にすごいな。可愛いロッティが人の言葉を話すとは。賢い子だとは思っていたがこれは本当にすごい事だぞ?」
クラレンスは最初は少し不満そうな顔を見せたが、猫と話が出来るという事実にだんだん興奮してきたようだ。
……というか、『ならば良い』って何が良いのだろう?
「ニャニャアオ……(でも本当に言葉が分かるのね……)」
これで、自分の言いたい事をきちんと伝える事が出来る。
しかし話が通じるのは嬉しいけれど、『人の言葉を話せる猫』がいると世間にバレると何かと騒がれる事になるのではと心配になる。
「分かるよ。……ああロッティと会話が出来るなんてまるで夢の様だ……」
クラレンスは何処かうっとりと夢見る様な顔をしている。
「ミャアオナオーン(でもこの事が世間に知られたら私はきっと物珍しさで酷い目に遭っちゃうわ……)」
不安そうに言ったシャーロット猫に、クラレンスは自信ありげに笑う。
「大丈夫だ、ロッティ。私といる時以外は話さない様にすれば良いだけだろう? それに近いうちに私の屋敷に連れて行こう」
「ウニャア?(クラレンス様のお屋敷に?)」
それは猫としてずっと暮らすなら安全なのかもしれないけれど、いずれ人間に戻らなければならないシャーロットには見知らぬ場所に行くのはかなり不安だ。
それに万一クラレンスの屋敷で人間に戻ったら、とんでもない事になってしまう。最悪クラレンスが公爵令嬢シャーロット オルコットを誘拐した犯人扱いをされる可能性もある。……猫の恩人をそんな目に合わず訳にはいかない。
勿論魔女ブレンダならば何処でも行けるだろうし人間のシャーロットを彼の屋敷から公爵家に戻す事も出来るとは思うのだが……。
……とにかく、今は王宮か公爵家以外に行く訳にはいかないわ。
「……ミャアオー(……私はここにいる方がいいわ)」
シャーロット猫がそう控えめに主張すると、クラレンスは先程までの嬉しげな様子から一変して真面目な顔で説得して来た。
「ロッティ。……君は人間の言葉を話せる事が周りにバレてはいけないのだろう? それに私もいずれは屋敷に帰る。その時ここにロッティだけを残していく訳にはいかない」
「ニャーオニャー(喋らない様にするし一人でお留守番も出来るわ)」
「いやしかし……」
そんなやりとりをクラレンスとシャーロット猫は繰り返す。これは二人とも決して譲れない案件だ。
……そんな時。
バタバタと足音が聞こえたかと思うと部屋が素早くノックされ、返事をするまでもなくガチャリと扉を開け慌てて入って来たのはダニエル。そして彼が入って来た時まだ2人は会話をしていて、彼の顔を見た途端にガチリと固まった。
ダニエルは怪訝な顔でそんなクラレンスとシャーロット猫を見る。
……もしかして、私が人間の言葉を話しているのを聞かれちゃった……!?
暫く夢中でクラレンスと話をしていたので、ダニエルが部屋の近くにまで来ているのに気付かなかった。今まで話をしていた声が聞こえていたのかしらとシャーロット猫は顔を青くする。……しかし白猫なのでそれは周りには分からないが。
「……どうした? ダニエルそんな顔をして」
黙ってこちらを凝視するダニエルを不審に思いクラレンスは尋ねた。
「───クラレンス。お前は……」
……ダニエルは、ゆっくりと口を開いた。




