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婚約破棄されたので、猫になりました。  作者: 本見りん


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魔法の解ける条件


 シャーロットは、クラレンスがまた『猫吸い』をしようとしているのだと思った。彼はよく癒しの為にそれをするから、今のシャーロットにとってクラレンスとの触れ合いは日常茶飯事だったからきっとそうだろうと。



 だから、なんとも思わずクラレンスの顔が近付くのを黙って見て受け入れた。彼の青い瞳が白猫の自分を映すのを見つめながら。



 そんな彼の顔はどんどん近付いて───。


 ……キスをした。



「ミャ……!?(ええ……!?)」



 一瞬、何が起こったのか分からなかった。


 クラレンスの顔はすぐに自分から離れて───。優しく自分を見て微笑んだ。


 


 ……キス、された?



 シャーロット猫は、余りの出来事に茫然とした。



 ……キス……。

 まさか……! ……『私』を想っての……キス!? 



 でも、『白猫ロッティ』へのキス、なのよね? 彼とは猫になってから知り合ったのだもの。飼い猫に対しての愛情で、それ以上でも以下でもないはず。


 恋愛的な好き、ではないなら、魔法の解除の対象外なのよね!?


 シャーロットは大混乱するその頭で必死に友人ブレンダとの話を思い出す。



『お前を愛する男のキスで魔法が解除される』



 ……実に愉快そうに、彼女は確かにそう言った。


 だとしたら……。



 今のは、ノーカウントなのよね……? だってクラレンス様は私が本当は人間だなんて知らないんだもの。彼の『猫ちゃん愛』とブレンダの言っている『愛』は別物のはずだわ。



 それとも、もしかして彼の『猫を愛する心』でも人間に戻れるの───?




 シャーロット猫は、ジッとクラレンスを見た。



 クラレンスは愛しげに自分を……猫のロッティを見つめている。



 ……もしかしてもしかすると、人間に戻れるのかも……しれない。

 もしそうだとすると、人間に戻るまでの時間は? あの婚約破棄の時には猫になるまで『5分』だった。


 だとしたら、今回も5分で『公爵令嬢シャーロット』に戻るのかもしれない。……クラレンス様の、目の前で?


 

 ───ダメじゃない! 猫から人間に変わるところを、よりにもよってクラレンス様に見られる訳にはいかないわ!!



 シャーロット猫の耳はピンッと立ち、この場から離れる為に立ち上がろうとした。……が、ロッティを心配し抱き込んでいるクラレンスが離す隙を与えるはずがない。



「!? ロッティ、突然どうしたのだ?」



 腕の中から出ようと暴れ出したシャーロット猫に驚きはするものの、決して離そうとはしない。そもそも、先程ダニエルと話をしていた通りクラレンスはロッティをこの部屋から出すつもりは全くない。執務室から廊下への扉は勿論仮眠室への扉も全て固く閉ざされている。



「……ミャア!(……どうしよう!)」



 ……このままじゃ、クラレンス様の目の前で人間に戻ってしまうかもしれないわ。そしてそれも困るのだけれど、今まで一緒にいた猫が今彼ら近衛騎士団を中心に必死で捜索している人間のシャーロットだったなんて、その後彼になんて説明すればいいの!?



 シャーロット猫はジタバタと暴れたが、それも虚しくそろそろキスをされてから5分が経過しようとしていた。



「ニャニャアオ!(クラレンス様に見られちゃう!)」



「───え?」



 突然目の前のクラレンスが周りをキョロキョロと見回した。



「ミャアオ!(今のうちに離れなきゃ!)」



「ッ!? ロッティ!?」



 クラレンスの意識がなにかに逸れている間に、シャーロット猫はなんとか彼の腕から飛び出す事に成功した。シャーロット猫を包んでいたブランケットがバサリと床に落ちる。


 シャーロット猫は慌てて何処か違う所、もしくは彼から見えない所へ行こうと部屋を縦横無尽に走りまくる。……しかしどこも出口はない。



「ニャニャアオ!(とにかく見られない所へ!)」



「ロッティ!?」



 シャーロット猫は焦り叫んだ。

 すると先程から何故かキョロキョロと周りを見回していたクラレンスが、不意にシャーロット猫を見て名を呼んだ。



「ウニャッ?(クラレンス様ッ?)」



 クラレンスの声にどうしたのかと振り向くと、彼は酷く驚いた顔でシャーロット猫をジッと見て立ち尽くしていた。シャーロット猫は思わず冷や汗をかく。


 ……どうしたのかしら? さっきからなんだかクラレンス様の様子がおかしいわ。


 シャーロット猫は信じられないといった表情でこちらを見るクラレンスを同じようにジッと見返した。



「───どういう事だ? ロッティ……、君の言葉が分かる」



 クラレンスは、シャーロット猫を食い入る様に見ながら呟いた。





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