今日はハードボイルドで①
クソッタレな1日の始まりは、緑色のタコが泳いでいる水槽に餌を放り込むことから始まった。
「ええ、ああ、はい。そうですね。」
タコって懐くんだよ。餌を与えると水槽の底に沈んでいる旗を振ってくる。そうかい、今日も良かったか。
その様子を表通りの子どもが楽しそうに見ていた。ディスプレイ用の壁水槽のタコは器用に別の足でその子に向かって「ドイツ唯一の三島由紀夫資料館へようこそ!」と旗を振って宣伝していた。
「ああ、おはようございます」
「おはようございます、館長」
くたびれた木製フロアに壁まで高く積み上がった本棚が特徴的な1LDK。リビングの窓を背にして新聞読みながら電話していた館長に挨拶する。
「何か面白いことでも?」
「どうでしょうね?ただ、我々のレディはあなたにご用があるのかもしれない」
水槽に置いていた左手にタコが絡んでいる。
もう少し食べたいらしいが、水槽の底にスナックを隠しているのは知っている。太るぞ?
「タコが太ったところで、たこ焼きの具が大きくなるのはいいことだと思いませんか?」
レディは急いで家に帰って「×」の旗を振っている。
「怖がらせないでくださいよ。」
「いや、タコって話が出来る海洋生物なんだと、実感したかった」
木製の机の上にあるコーヒーからは湯気が立ち上っている。
「ごーん、ごーん」
正面の壁掛け時計は午前9時を差していた。




