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第一王子殿下の恋人の盾にされました。  作者: 燈華


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幕間 "東"の貴族の処遇

「僕はまだ心配だよ。"東"はこれで本当に手を引くのかな?」


ルイが声を上げる。


エスト公爵令嬢が何もしなくとも"東"の令息令嬢が何か仕掛けてくる可能性は残念ながら残っている。

それをエスト公爵令嬢は本当に止められるのかという疑問も残る。


"東"の令息令嬢の最大の瑕疵はエスト公爵令嬢の統制力に疑問符をつけたことかもしれない。

本人たちにその自覚があるかどうかはわからないが。


いや、気づいていないのだろう。

わざわざ誰かがそれを指摘することはない。


公爵家について揶揄することはこの国では禁忌だ。

直接的な言葉では批判になってしまう。

だから自分たちの中だけで留める。


表だっては何もしない。

ただ自分たちの中での評価を下げるのだ。


そして公爵家のことはその地域全体のことと認識されるのだ。

指摘できるとしたらそれこそ同じ公爵家の者か、王族か。


あまり一地方が力を落とすのは歓迎されない。

度が過ぎれば注意はするだろう。

今は、どうだろう?


「引くと思いたいが」

「エスト公爵令嬢が一言声をかければ引くでしょう」


母の言葉に同意する。


「それで引かなければ問題だ」

「あれだけ短絡的な行動をした者が続出したというのに信じられるのかい?」

「確かにな。次代の"東"は程度が低い、というか短絡的だな」


エドゥアルトの疑問に同意したのは伯父だ。


確かに直接危害を加えようとする者が多かった。

それも"東"の公爵令嬢の影響だろうか?

それとももともとの資質なのだろうか?


「その責任が全て自分たちの"姫様"に被せられるということをわかってないしね」

「それが問題よね」

「今回のことで理解したのでは?」

「兄上は甘いよ」

「甘いか?」

「そうだよ。逆に成果だと思っていたらどうするの?」

「ああ。想い人に嫁ぐからか」

「そう」

「それで止められなければエスト公爵令嬢の資質が問われるわ」

「内定取り消しになるとか?」

「そこまではしないと思うわ。ただ、公然と叱責される可能性はあるわね」


それは不名誉であり、屈辱だろう。

エスト公爵令嬢だけではない。

"東"の貴族全てにとってだ。

それだけこの国では公爵家は大切な存在なのだ。


「気づいているといいけどね」


僅かに沈黙が落ちる。


「そんな心配のある令嬢が王族の第一妃に内定しているのは何故だ? いくら責任と枷のためとは言え、諸刃の剣ではないのか?」


その沈黙の隙を突くようにエドゥアルトが怪訝そうに訊く。


「政治的なバランスを取るためだろうな」


伯父が腕を組んで言う。


それに訝しげな表情になったのはエドゥアルトだけだ。

この国の人間ではないエドゥアルトはわからなくても無理はない。


そのエドゥアルトに向けて伯父は説明する。


「我が国では"東""西""南""北"と別れているが、その四地域とも極端に力を持ったり弱ったりしないようにしている」

「それは、どういう理由で?」


それは外側から見たらわかりにくいものだろう。

いくらこの国のことを知り、学んだりしても正確に知ることはできないものなのだろう。


「それぞれの公爵家、辺境伯家が対等であるためだな」

「対等である必要があるのか?」


エドゥアルトが怪訝な顔で訊く。

普通ならその時の情勢によって変わるものだろう。

実際侯爵家以下の家では情勢によっての浮き沈みはある。


「ある」


伯父がきっぱりと告げて説明する。


「公爵家、辺境伯家は貴族統治の要だ。だからこそ重要な役割がある」


それきり説明の言葉はない。

それ以上は機密事項なのだろう。

エドワールたちでもどのようなことを具体的にしているのかは知らないのだ。


知らないが国の重要な役割を果たしているということだけはわかっている。

それはたとえ身内だろうが他家の者には決して明かせない重要なものなのだ。


「重要な役割とは?」


それが訊けるのはエドゥアルトが他国の者だからだ。


「それは極秘事項だ」


素っ気なく伯父はあしらう。


「他家の者に告げることはできない。当然エドやルイも知らない」

「そうか。なら仕方ない」


エドゥアルトはあっさりと頷く。

それならば仕方ないと割り切れるのは侯爵家の嫡男だからだろう。


「だけどはっきりと瑕疵がついたのはそのベルジュ伯爵令嬢だけなんだろう?」


エドゥアルトはまだ今回アンリエッタに怪我を負わせたのが"東"の人間だとまでは知らないようだ。

軽い嫌がらせを繰り返していたことを指して短絡的と言っていたようだ。

この国の者でないのでどこの地域の者かというのにあまり関心がなかったのだろう。


「いや、今回アンに怪我を負わせたのも"東"の伯爵家の令嬢たちだ」

「ああ、だから程度が低いと言ったのか」

「そういうことだ」


エドゥアルトに少し説明しておいたほうがいいかもしれない。

学院内の出来事は特に他国からはわからない。

それに付随する結果も見えにくいだろう。

そう判断してエドワールは口を開く。


「アンがクロード殿下に利用されて以降の流れで"東"ががたがただ。特に伯爵家、五家全てに瑕疵がついてしまった」

「ああー」


各地域伯爵家は五家だ。

"東"はその五家全てに瑕疵がついた状態だ。

ベルジュ家と今回の壺を落とした令嬢のいる三家は皆伯爵家だ。


それともう一家。

アンリエッタが(さら)われそうになった事件。

ロジェとエドゥアルトのお陰で未遂に済んだため(おおやけ)にはならずに事を収められたあの事件。


主犯は家から縁を切られて放り出された。

監視をつけようとしたがウエスト公爵家のほうでつけるから、と言われて引き下がった。

公爵家に逆らうわけにはいかない。


アンリエッタを逆恨みするのだけが怖かったがウエスト公爵家がアンリエッタには絶対に近づかせないと言ってくださったので引き下がることができたのだ。

"西"に立ち入ることは許さないと告げたらしいからそのための監視なのだろう。


あの男は"西"の伯爵家の嫡男だった。

婚約者が"東"の家だったために一度婚約が解消されたのだ。

それを逆恨みしての犯行だった。


恨むのならアンリエッタにちょっかいをかけていた第一王子にすればいいのに。

まあ何かしらのことを王族にしでかしてしまったら自身も家も無事では済まされない。

だからこそアンリエッタを狙ったのだろうが。


別にその矛先を第一王子に向けろと思ったわけではない。

恨みの感情を持つなら第一王子にしろと思っただけだ。


正確な状況判断もできずに、公爵家からの通達も無視して自身の感情に従った愚かな男だ。

一片の同情もない。


今問題にしているのはそんな愚かな男のことではない。

その男に情報を流すなどして協力していた令嬢がいた。


それが"東"の残る一家の伯爵令嬢だった。

動機は同じ。

"西"の家と婚約していたのが解消になったから。


完全な逆恨みだ。

だが、罰せられるほどの罪を犯したわけではない。


アンリエッタの周囲を探り、行動を把握して、あの日あの時間にアンリエッタがあの場所に行くことを掴んで教えただけ。

それだけのことだ。


普通ならそれくらいなら罰せられることはない。

だが犯罪のためにその情報を欲しているとわかって情報を流したとしたらーー?


それは、無罪放免とはいかなくなる。

勿論罪として裁かれるわけではない。

だが家としての体面は悪くなる。


犯罪の片棒を担いだ娘のいる家。

これからも平然と犯罪者に情報を流すかもしれない。


そんな疑念の視線を向けられるかもしれない。

そうならないうちに早めに手を打たないと大変なことになる。

他の兄弟の婚約や学院卒業後の進路に差し障るかもしれない。

嫁がせた後でその情報を知れば騙されたと扱いが悪くなったり、離縁とともに賠償金を請求されるかもしれない。


かの家はその令嬢を三回妻と死別している相手へと嫁がせた。

曰くのある相手で評判のよくない相手でも嫁として受け入れている。

相手は同じ"東"の貴族だ。


"西"に嫁いでくるのに単位が足りなかっただけで"東"に嫁がせる分には単位は足りていたのだ。

前期に卒業したことになり、夏休みの間に嫁いだという話だ。


婚約相手が替わってすぐに卒業ということはあることだ。

逆に卒業が伸びることも。

必要な単位というのは卒業後の進路によって変わってくるのだ。


表向きは婚約解消後にいい縁談があったから、ということになっている。

嫁ぎ先は有力な家であることには違いないからこそ通る理由だった。

公表はされていないが知っている家は知っている。


「待って。五家と言ったね? 今回の三家とベルジュ伯爵家で四家だ。あと一家ある。多少の嫌がらせでは瑕疵にはならないよね? つまり何かやらかしているってことだ。何をした?」


エドゥアルトが鋭い視線をエドワールとルイに向ける。


「姉上が(さら)われそうになった事件は覚えている?」

「ああ、勿論」


エドゥアルトから冷たい怒りが噴出する。

今思い出しても許せることではないのだろう。

その怒りにも(ひる)むことなくルイが告げる。


「あの男に姉上の予定の情報を流していたのが残りの一家の令嬢だったんだよ」

「ほぅ」


エドゥアルトの口から低い声が漏れた。


「その令嬢は今はどうしているんだい?」


まさかのうのうと過ごしているわけではないよね? という無言の言葉が聞こえるようだ。


「曰くつきの相手に嫁いだ」

「曰くつき?」

「妻を三人亡くしている」

「へぇ?」

「それに、あの家は滅多に社交界に出てこない」


実質もう表には出てこないようなものだ。


「そっか。リエッタにこれ以上危害を加えられないならそれでいいよ。罰というのもいろいろあるからね」

「そうだね」


エドゥアルトの言葉にエドワールも心の中で同意する。

それぞれがそれぞれの仕出かしたことの重さに合わせて罰を受けている。

罪に問われることだけが罰ではないのだ。


エドゥアルトがふと気づいたように呟いた。


「それにしても五家のうちだとベルジュ伯爵令嬢が一番瑕疵が小さいのか」

「結果的には」


ベルジュ伯爵令嬢は傷害だが、壺を落とした三人は下手したらアンリエッタの命を奪っていたし、あの男に協力した令嬢はアンリエッタの社会的な名誉を汚そうとする企みに協力したのだ。

どちらも物理的か社会的かの違いだけでアンリエッタを殺そうとしたことになる。

ベルジュ伯爵令嬢だけが怪我をさせただけ、ということになるのだ。

その結果の重大さが彼女たちの処罰の重さに比例しているのだ。


「それで彼女の処罰が表向きは一番軽いのか」


実際にどの処罰が軽いか重いかというのは彼女たちの心次第なのだろう。


「そうなるね」


ルイの声には感情が乗っていなかった。

ルイからしたら彼女たちは等しく許せない相手だろう。


特にベルジュ伯爵令嬢は、彼女さえ第一王子と恋仲になっていなければそもそもアンリエッタがこのような目に遭うこともなかったと思っているに違いない。

いや全ての元凶はベルジュ伯爵令嬢だとすら思っているかもしれない。

……あながち間違いではないが。


やはり後で話を聞いてやる必要がありそうだ。


「まあ、ベルジュ伯爵令嬢のことはクロード殿下への慈悲もあるのかもしれないけどな」


伯父は軽い口調で告げる。


「慈悲?」


ルイがどういうことかと声を上げる。


エドワールは伯父の言った意味がわかった。

第一王子が外交担当になるからだろう。

だがそれはこの場では言ってはいない。


鎌かけか? それとも知っているのだろうか?


「さて、エドワールは知っているだろうが、アレクシア、ルイ、エドゥアルト、この先は他言無用だ、いいな?」

「わかったわ」

「うん、了解」


伯父の視線がエドゥアルトに向く。

エドゥアルトは肩をすくめた。


「内容次第、と言いたいけど、」

「なら話さないだけだ」


エドゥアルト抜きで話すなら別に今でなくともいいのだ。


「そうなるよね。わかった。誰にも言わない。リエッタに誓うよ」


伯父が一つ頷いて口を開く。


「王位継承権一位ではなく、妻を娶るということは、クロード殿下は外交担当になるのだろう」


エドワールは表情を動かさない。

ただ黙って伯父を見ているだけだ。


他の三人の視線も感じたがそちらには視線を向けない。

すぐに感じていた視線は消えた。


「あ、ベルジュ伯爵令嬢の押さえというだけじゃないんだ」


ルイが軽い口調で言う。


「まあ、その可能性もなきにしもあらずだが、無駄に人員を遊ばせておく必要はない」

「そうだね。余計な火種もいらないし」

「そういうことだ」


さすが伯父だ、頭が回る。

エドワールにできることは無表情を貫くことだけだ。

余計な情報は与えるわけにはいかない。


「外交担当の王族となれば、いざとなれば人質にも、切り捨てられる駒にもなる。それまではせめて好いた女を傍に置いてやる、とそういうことなんだろう」


人質になる時だろうと切り捨てられる駒になるーーすなわち敵対国への使者に、それもあまりよくない内容の親書を持っていく時の使者になる時にはリリアン・ベルジュ伯爵令嬢は一緒には行けない。

それならせめてそうなる時までは好いた女性を傍に置いてやるということか。


それだと何かきな臭いことでもあるのだろうか?

それとも可能性だけだろうか?

万が一の時の為、とか?


伯父やエドゥアルトの様子をそっと窺うが、二人に変化はない。

エドゥアルトの国のほうは我が国のように山脈を隔てているわけではなくかの国と国境を接している。

緊張関係ではあるのは自国も隣国も変わらない。

隣国のほうが脅威を感じているはずだ。


そのエドゥアルトも国防を担う辺境伯家の伯父も何の反応も示していない。

考えすぎだろうか?


「あー、なるほどね。それならまあ確かに慈悲か。これから大変そうだしね」


ルイの言葉を聞きながらエドワールは嫌な動悸が収まらなかった。


読んでいただき、ありがとうございました。


誤字報告をありがとうございました。訂正してあります。

なお、エドワール視点ですので、彼は"西"の貴族のため地域としての"東"から"西"へと嫁いでくる認識だったため、「嫁いでくる」という表記になっています。

ご指摘をありがとうございました。

わかりにくくて申し訳ありません。

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