病院、そして奇妙なヤツ
アムニを背負って、ずいぶん長いこと歩いた。ようやく一筋の光が見えてくる。もう朝になっていたのか。今が夕方じゃなくてよかったと心から思う。そうでなければ、そこら辺の魔物一匹にだって、魔力の尽きた私と昏睡したアムニは簡単に殺されていた。
「おお、冒険者様、ようこそお越し……こちらのお嬢様はどうなさったんですか!? 医者だ、早く医者を呼べ!! ここに手当てが必要な方がいる!!」
…………
病院内のクォーツ時計を見る。昨日、廃坑に足を踏み入れてから、もう十一時間が経っていた。
「君たち二人は本当に命知らずだな。この水竜はまだ幼体だが、それでもE級冒険者ごときが太刀打ちできる相手じゃない。いったいどういう了見で、自分たちが倒せるだなんて思えたんだ? まあ、それはいい。とにかく、早く責任書にサインしろ。期日までに入金すればそれで済む。それから、こっちに来なさい」
サインを終えると、私はこのてきぱきした医者に隅へと呼び寄せられた。「このお嬢さん、回復力がかなり強力でね、少し妙なくらいだ。君が連れ帰った時にもう気づいていたかもしれないが、傷口がすでに塞がり始めている。これほど特異な治癒能力は、普通の人間ではありえない……どうか気をつけて見てあげてほしい」
「わかりました」
…………
昨夜、アムニが突然あの恐ろしい力を爆発させた光景が、まだまぶたの裏に焼きついている。それに、この異常な治癒能力。まさか、彼女は人間ではないのか?
「ちがうよ、それはちょっとしたボーナスにすぎないの」
「え?」
はっとすると、いつの間にか私の手の中に奇妙な人形が握られていた。いつ私の手にねじ込まれたんだ? 全体的な髪色や瞳の色からすると、私をモデルにして作られた人形なのかもしれないが、この絵柄、本当に同じレイヤーで描かれてるのか? いや、今はそんなことに構っている場合じゃない。ついさっきまで考えていたことを、この人形は全部知っていた。まさか、私の心の声が聞こえているのか? こいつは、何者だ?
「まだ知る必要はないよ。昨日は本当に熱く滾った夜だったねえ。私まで闘志が燃え上がっちゃったくらいだもの。ったく、二人ともあとちょっとで死にかけてたくせに、今は私に感謝するべきなんじゃない? それなのに疑ってかかるなんて、ほんとに嫌な子。でも、そういうトワイライトちゃんもとっても可愛いよ~」
「はあ? お前、いったい何を言って……」
いや、ここで感情的になるべきじゃない。相手の挑発めいた話術は、明らかに私を揺さぶろうとしている。今は冷静になって状況を分析しなければ。この人形、あるいはその背後にいる「誰か」は、ずっと私とアムニの行動を観察していた。竜を殺せる力を授けられる存在だ、ただ者のはずがない。エセリア大陸通史に記されている中で、他者に力を与えられる存在は極めて少ない。それに、たった今、私の心の声を読み取ったということは──魔女か、神だ。
「えっ、もうそこまで推理したの? トワイライトちゃんすごーい、拍手拍手! 目覚めてまだこんなに日が浅いのに、必死で勉強してるんだもんね。ほんと、胸を打たれるなあ~」
この小さな人形、なぜ実際に拍手をしているんだ?
「命拾いしたあともろくに休みもせずに、まだこの子のことを気にかけてるの? この子を治してあげたい? そんなに大きな代償じゃないよ~」
「何が欲しいんだ」
「簡単なこと~あの竜の【すべて】を私にちょうだい。かなりお得な取引だと思わない? ひとつ忠告してあげるけど、この世界には治癒魔法なんて存在しないんだからね。一頭の竜と一つの命、さあ、どっちを選ぶ?」
「彼女を、起こして」
「あら~、てっきり損得勘定でしばらく悩むかと思ったのに。脳内フル回転のトワイライトちゃんが見られなくて残念。でも、そんなふうに即決しちゃうところも可愛いんだよね」
いっそ、楽にしてくれ。




