魔道具の街・リンドール
「これをやる、持っとけ」
ロイドが小さな袋を2つ取り出すとショウとミドカに手渡す。
「これは?」
「念水晶だ。これをお互いに持って相手を思い浮かべれば離れていても会話する事が出来る。何かあったらこれで呼べ」
袋の中には飴玉サイズの水晶玉が入っていた。透き通った水晶玉の中心には球状の光が入っており、その球体を支えるように光の線が両端に伸びている。ミドカが物珍しそうに光に翳して眺めていた。
「一応貴重品だからな、なるべくなら壊すなよ」
「保証はしかねますね」
「はっ、まぁいいさ。じゃあ行ってくる」
桜吹雪の間を縫ってロイドは去っていった。イブは屋根の上からロイドを見送ると、街の方角を見つめていた。
(──首無しか……)
『穏やかじゃないな〜』
「さて、俺達も行くか?」
ロイドを見送り終えると、街に向かうか訊ねる。
「おお!早く行こう!」
「それじゃあ……姫様、お手を」
「なっ……!」
少し俯きながらミドカの前へ手を差し出し、上目遣いで顔色を窺う。面食らった様な表情のミドカ、褐色の肌で分かりづらいが、少し赤くなっている。
「う、うむ!苦しゅうないぞ……」
「………ははっ、なんか喋り方、おかしくなってるな?」
「うっさい!慣れてないんだこういうのは!」
差し出された手を掴む。すると手を介して魔力が流れ、ミドカの体が浮き上がった。
「おわっ…!浮いた!」
「俺の魔法は相手が拒まなければ触れている間は生き物でも浮かせられるんだ。ここから歩いていくには距離もあるからな、街までは空中散歩といこう」
無邪気に笑うショウを見つめる。その姿に彼の面影を重ねてしまう。
(前も、こうして──)
「手を離すと下に真っ逆さまだからな、しっかり掴んでおいてくれよ」
「悪戯で離したりするなよ!?驚くから!!」
自力でも飛んでいけるが、今はこの状況に甘んじるつもりのミドカだった。
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「おーー!!」
まだ早い時間ではあるが、既に多くの店が開いており、多くの人々が出歩いていた。
「ミドカは街にはあまり行かないのか?」
「ふっ、甘いなショウ!ミィは城から抜け出すのが大得意!城下町にはよく行ってたぞ!城の兵士には『お嬢は賑やかなのに抜け出すのは上手いんだから不思議ですね………。前世はスケープリザードだったんじゃないですか?』といわれたぐらいだ!」
「あー……そうか」
会った事の無い兵士達のミドカを探し回る姿が幻視される。
「でも人間の街はこれが初めてだぞ、前は来なかったからな。楽しみだ!」
「──そうか」
ここ、リンドールは付近に危険度の高いモンスターの生息地が複数存在しており、そのおかげで高品質の魔石も多くとれる。当然、高いランクの冒険者もこの街には多く滞在していて、実力に自信のある冒険者や冒険者ギルドがここに拠点を移す事も多い。
だがここに来る冒険者の目当ては魔石による利益だけではない。リンドールでは高品質の魔石を使った魔道具造りも盛んであり、世界でも有数の魔道具職人の街である。高難易度のダンジョンへ向けて装備を整えたり、貴重な魔道具を探し求めてやって来る者も多い。
魔道具職人の朝は早く、それに伴い朝でも人が多い。
「ん?……………気のせいか?」
「どうかしたのか?」
唐突に周りを見回したショウを訝しむミドカ。
「いや………嫌な視線を感じたような気がしたんだけどな」
辺りには行き交う人々がいて、視線の主はわからなかった。背筋を走った悪寒が気のせいとは思えないが、それが誰かからの悪意ある視線によるものか、はたまた何かの悪い予感によるものなのかは定かでは無い。
「まぁいいか、一瞬だったし」
「おう坊主、今日は随分な別嬪さんを連れてるじゃねーか!しかも魔人たぁ珍しいな。坊主のこれか?」
以前果物を買った八百屋の親父が小指を立てて茶化してくる。
「そういう訳じゃないよ。あまり茶化すともう買っていかないよ?」
「これ?」
小指を立てて首を傾げるミドカをよそに、親父は高笑いしながら小粒の木の実の入った袋を手渡してくる。
「ワッハッハッハッ!!すまんすまん、これでもやるから帰りにでもなんか買っていってくれや。デート、楽しんできな!」
そういうとやってきた別の客の相手をしだした。
「なー、これってー?」
「気にしなくていいよ、ほら」
「んむっ!………ん〜〜美味い!」
小指を立てながら訊ねてくるミドカの口に木の実を突っ込む。少しの間もぐもぐと口を動かしていたミドカから賛辞の声が上がる。
ショウも一粒口に含む。噛むとプチッと音が鳴り、仄かな酸味と程良い甘みが広がってくる。
「確かに美味いな」
『んー、フルーティ……この甘酸っぱさが癖になる〜。前のりんごといい、あそこは良い物取り扱ってるねー♪』
いつの間にか抜き取って食べていたらしいイブ。満足気にまたショウの中へと戻っていく。
「もっと食べたいぞ!くれ!」
「はいはい、ミドカの好きに食べていいよ」
木の実を一粒抜き取ると、残りを袋ごとミドカに渡すと大喜びで口に木の実を放り込む。
「甘〜〜い♪」
幸せそうにもぐもぐと食べるミドカを見て少し微笑む。
「──帰りに寄っていかないとな」
密かに八百屋による事を決めたショウは口に含んだ木の実を噛み潰した。
ブチッ!
「うァァ………アレは、まずい。あれ程の………目の前にしたら、抑え切れないかもしれない。あァ、───きっと美味いだろうなとも」
街の何処か、それは溢れる涎を抑えながら悶えていた。その口は赤く染まっており、涎と混ざった赤い液体が滴り落ちる。
「機会があれば必ずや…………アアァァァッ!抑え込まなければ………」
再び悶え始めたそれの足下には、首の無い死体が転がっていた。
スケープリザード
Bランクモンスター
全身から音を鳴らし、音波と鋭い牙で攻撃する。自身より格上の相手には尻尾を切り、尻尾から大音量の騒音を出して敵の気を引き、その間に逃げる。
(語り部)
「ショウ達が食べていた木の実はプカンっていう実でね、お手頃な値段で割とどこでも売ってる子供のおやつ代わりらしい。一粒10円くらいかな。黄色に近い程酸っぱく、赤に近い程甘いらしいよ」




