失敗と首無し事件
『ショウはさー、失敗ってどう思うー?』
桜の枝に逆さまにぶら下がりながら、ゆらゆらと揺れていたイブが聞いてくる。
「失敗をどう思うか?まぁ……良くはないものだな。何かを間違えたって事だろ、やり方にしろ、タイミングにしろ。失敗よりは成功の方が良いに決まってる」
両手に持った魔剣を魔力で包みながら答える。
「理想を言うなら行う全てを成功させられたら、そんなに良い事は無い。──でもそれは理想でしかなく、全て上手くいく事なんて殆ど無いだろう。初めから全てを知っている奴でも無い限り難しいと思う」
両手の魔力を徐々に、ゆっくりと強めていく。それに伴い光も強まり、夜の闇が身を潜める。
『──失敗は悪いもの?』
「良くはないけど、大事なものかな。失敗のリスクが弛む気持ちを引き締めてくれる事もある。失敗を経験した者を奮い立たせてくれる事もある。恐れて踏み出す足を引かせる事もあるけど」
その日で最も強い輝きを放つも、込められる魔力は止まらない。
『──失敗は怖いもの?』
「怖いね。失敗してもいいと言える人はきっと余裕のある人なんだろう、失敗しても取り返しがつく状況、取り返しをつかせられるだけの力があるんだろう。でも余裕の無い時の失敗は誰しもが怖い。崖の下を覗き込んで、失敗の先はこの崖の底だと突きつけられれば足も竦む。───周りが恐怖に身動きがとれず、自身も先が見えない時であっても、人の背を押し、歩み出す勇気がある人を、勇者と呼ぶんだと思う」
深夜にも関わらず、日中と見紛う程の強烈な光に森のモンスター達も反応する。大半はその大きな魔力に恐れて距離を置こうと移動していく。
「失敗は進む者の足を止める毒であり、間違いを正す警告であり、次へと進む為の起爆剤、かな。良くないが故に無くてはならない必要悪って所だと思ってるよ」
込められる最大まで魔力を込めた魔剣同士を重ね合わせようとする。
「結合魔法ッ!!」
魔法名を呼ぶと同時に魔剣は反発するように弾け、魔力は辺りへと霧散し、闇夜の安寧が戻る。
「………で、今の雑談を踏まえた上での感想は?」
「俺が余裕のある人で良かったよ。取り返しがつく状況じゃなければ今ので終わりだ、やっぱり失敗は良くないな」
魔力を殆ど使い果たし、流石に疲れたのか、縁側に座り込む。
「俺のできる限りの魔力を均等に込めてやってみたけどこれも駄目か。魔剣の組み合わせも全部試したし、魔力量を変えても手応えなしだし、先は長そうだな……」
『出来るのはいつになるだろうね?』
「さぁな……そういえばこの魔剣達じゃあ難しいって前に言ってたよな。なんか理由があるのか?」
枝から足が離れ、落下するイブ。地面に激突する寸前に宙に浮き上がると、悪戯する子供のような笑みを浮かべていた。
『それを教えるつもりは今のとこないね〜』
「それが成功しない理由の答えって事か?」
『これはなるべく自分で気づくべきだと思うな、だからいくらでも考えればいいよ。時間が許す限りね』
空に舞う妖精に答える意思が無いと判断したショウは、これ以上聞きだそうとは思わなかった。再び魔剣を手に、庭に出るショウをイブが止める。
『もう終わりにしなよー、もういい時間だよ?』
見上げると、東の空が白み始めていた。
『朝ご飯の支度もあるし、風呂には入っとかないと。デートで汗臭いのはどうかと思うな』
「……それもそうだな」
魔剣を空間収納に仕舞い、屋敷に足を向ける。
「ところで、なんでさっき失敗について聞いたんだ?」
『私、失敗ってあまりしたことないからね〜。どんなものかなって』
「………それは嫌味か何かか?」
『ただの事実だよ』
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「眠ぅ………変に目覚めたせいで………眠れない」
ショウが出したベッドで寝ていたミドカだったが、中途半端な時間に起きたからか、二度寝しても良く眠れなかったらしい。いつもはまだ寝ている時間だが目が覚めてしまった。
「人に言っといて自分が眠そうとは……策士、策に溺れたな……ふふ」
意味も使う場面も何もかも間違っている。
「そうだ……メイドはいないんだった。洗面所……」
顔を洗おうと寝ぼけながら洗面所へと進む。
「確かここだった筈……」
扉を開けると、既に先客がいた。先客がいる事に問題はなかった───先客が裸である事を除けば。
「あ、ごめん。外に入浴中って看板出しとくべきだった」
「…………っ!!」
冷静に謝りながら腰を布で巻くショウとは対照的に、顔を真っ赤にして声も出ないミドカ。そのままどこかへ走り去ってしまった。
「不敬罪で殺されないかな俺?」
『大丈夫じゃない?余裕あるよりの失敗だよ』
「顔真っ赤だったけど……大分怒ってた気が」
『多感なお年頃ってやつでしょ』
「お見苦しい所をお見せしてすみませんでした」
居間で体育座りしているミドカに頭を深く下げて謝罪する。
「いや……それはもういいって。ミィが人がいるのに気づかず入ったのが原因だし……その……見たし……」
思い出し赤面をするミドカ。
(完全に目が覚めちゃったぞ……)
「ラッキースケベなんて初めてだぞ……」
「普通は立場逆だけどな。本当に逆の立場だったら大問題だけど」
軽口を叩きながら料理の支度を始める。
「ショウは料理が出来るのか?」
魔界の城では危険だからと調理場に入る事すら許されていなかったミドカは興味深そうに眺めていた。
「簡単な物だけだけどな。手の込んだものは作ったことないし、味の方も……そうだ、味見してもらえるか?」
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「おぉ……今日は当たりか。味がちゃんとしてる」
「今日はミドカに味見してもらいながら作ったんで」
朝食の出来に感心しているロイドにショウが答える。
「初めからそうしとけば良かったろうに……」
イブを睨みながらそう言うロイドだが、イブは我関せずとばかりに花びら掴みに勤しんでいた。
「そういや今日は前言ってた通り幸福んとこ見回りに行くけどよ、街に行くなら気をつけろよ。あの街は最近首無し死体が見つかってるらしいからな」
「首無し!?」
物騒な単語にミドカが驚く。
「殺しですか?」
「さあな。切り口からして喰い千切られたっぽいらしいが、モンスターらしい目撃情報は1つもないらしいんだよな。まぁ昼間に行く分には問題ないだろ、事件は真夜中に起きたらしいしな」
朝刊に載っていたらしい情報を語りながら飯を食べるロイド。
「まぁどちらにしろあの街は大きい分、周りにダンジョンも多い事もあってか冒険者も多いし、荒事も多い。気をつけるに越したことはねえ」
「そうですね、気に留めておきます」
「食事中にする話か」
首無し死体が頭を喰い千切られたらしいと聞いた辺りから箸が進まないミドカに咎められる。
「いやぁ悪い。今は忘れて飯食うか」
そして話題は他愛無いものへと変わっていった。
(語り部)
「失敗してもいいは呪いの言葉だ、失敗から何かを得なければ真の失敗である事を同時に伝えなければ失敗を繰り返し、失敗癖がついてしまう。───だが、同時に失敗に竦んだ足に勇気を与える魔法の言葉でもある。張り詰めた緊張を解してくれる事もある。使い分けって大事だよね」




