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STORY ~白銀の物語~  作者: 黒羽カウンター
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鍛錬の理由

「──美味い……。やっぱ三食俺が作るべきか……、いやしかしなぁ、食えない程って訳でもなし、ルーレット的な面白みがあるのも事実……」


 調理場でスープの味見をしていたロイドが唸っている中、ミドカは自主練しているショウを縁側に座って眺めていた。


(そういえば前に来た時、赤ちゃん抱いてたっけ。あの子がこうなるのかぁ)


 目線の先では、ショウが自身より巨大な岩を殴り続けていた。殴る度に岩にはヒビが入り、そう経たずに砕けてしまった。


「一撃でとはいかないな、ライガは出来てたが……」

「ショウは剣士だろ?なんで岩を殴ってるんだ?」


 再び岩を出したショウに聞くと、ショウは殴る蹴るを繰り返しながら答えた。


「剣が無いから戦えないなんて何の言い訳にもならないだろ?剣が無くても、魔法が使えなくても、戦う術は持っておきたい」

「ふーん……」

(そんなに戦いたいのか?ミィには理解出来ないぞ……)


 つまらなそうな顔をして足をふらつかせるミドカ。


「見てるだけじゃつまらないか。今から街に行くのは少し遅いし……」

「森に探検は?」

「流石に駄目、危険すぎる。それなら……的当てでもするか」

「的当て?」


 先程砕いた岩の破片を浮かせ、宙に漂わせる。


「ミドカは水魔法は使える?」

「使えるぞ」

「それじゃあ水魔法で俺が浮かせてるあの石達を撃ち抜いてみな」

「それくらい簡単……って、凄く動いてる!あの的動くぞ!」

「そりゃあ俺が浮かせてるんだから動きくらいするよ。浮いてるだけじゃ簡単すぎてつまらないだろうからね」

「……確かにな。いいさ、見てろよ!ミィの射撃の腕を見せてやる!」


 空中を不規則に動く石に狙いを定め、魔法を撃つ。


「ウォーターバレット!」


 拳サイズの水球が勢い良く石に向かって飛んでいくが、当たる寸前に石は軌道を変え、水球を躱した。


「おい今あの石躱したぞ!」

「俺が動かしてるんだから躱しもするよ。だから、躱す向きも考えながら撃った方が良い」

「むむむ……それなら」


 飛んできた水球を躱そうとする石、だが水球もカーブして軌道を修正する。


「よし!」


 今度こそ当たると思っていたミドカだったが、狙っていた石は他の石に当たり、軌道がずれて再びはずれてしまった。


「ずるいずるいずるい!!」

「対策への対策くらいするとも。だから頑張って俺の思惑を上回って下さい。もし当てられたら何か欲しい物でも買ってあげるから」

「言ったな!とんでもないもの買わせてやるから覚悟するんだぞ!」

「いや、あまり高すぎる物は買えないんでちょっと……」


 騒ぎながら夢中になって魔法を連射するミドカは実に楽しそうに笑っているように見えた。




「駄目だ……一つも当たらない」


 追尾させても時間差で狙っても当たらず、複数の水球を同時に遠隔操作してもどの石にも当たらなかった。


「複数の同時操作で俺に勝つにはまだ早いな」

「飯出来たぞー」

「あっ、わかりましたー!」

「隙あり!」

「あ!」


 ロイドの呼びかけに反応した時、一つの石に水球が勢い良く当たり、砕け散った。


「油断大敵だ!ミィの勝ち!」


 Vサインを見せつけるミドカに思わず苦笑する。


「あぁ、俺の負けだ。約束は守るよ。どうせ明日は食材を買いに街に行く予定だったし、その時にでも欲しいものが無いか一緒に探しに行こうか」

「おぉ、さりげなくデートの約束をされてしまった。さてはお前、女たらしだな!ミィをオトそうとしてもそうはいかないんだからな!」


 言うだけ言って立ち去ってしまった。


「あっ!でも明日は楽しみにしてるぞ!」


 戻ってきて付け足して今度こそ本当に立ち去っていった。


「どこに落とすんだろ……?」

『そういう意味じゃないよ』


 呆れるイブに頭を指で突かれる。


「しかし……意外といい練習になったな。遊びにも魔法の練習にもなる良い鍛錬だった」

『はぁ……、これだから鍛錬に脳を支配された子は。もう少し純粋に遊ぶ事を覚えた方が良いと思うなぁ』


 文句を言うイブを尻目に、岩の残骸を片付けて屋敷の中へと戻っていった。


_______________________


「また失敗……難しいな」


 真夜中に結合魔法を練習していたショウ。結合魔法自体は成功するようになってきたが、肝心の魔剣同士が上手くいかない。


「他が出来て魔剣が出来ないって事は無い筈だけど。魔力は寧ろ込めやすいし……」

「何してるんだ?こんな夜遅くに」


 振り向くと後ろにはミドカが立っていた。


「魔法の練習。ミドカは目が覚めちゃったのか?」

「自然がミィを呼んでいたんだ」

「……?そうなのか。まぁ気が済んだら寝ればいいさ」


 意味がわからず、夜風にあたりに来たのだと思ったショウは気にせず魔法の練習を再開する。


「ショウは寝ないのか?」

「俺は朝まで魔法の練習と素振りをしているよ。だから寝ない」

「明日はミィと出掛けるんだろ?眠そうな顔してたらビンタするぞ!」

「はははっ!大丈夫だよ、俺は毎日寝てないから。今日も別に眠そうに見えなかっただろ?」

「………いつも寝てないのか?」

「んー………月一くらいでしか寝てないな。あと倒れた時くらいか」

「毎日朝までこんなことしてるのか?」

「毎日やらなきゃ身につかないものだからね」


 さも当然のように言うショウを、ありえない物でも見るような目で見るミドカ。


「一つ、聞いていいか?」

「どうぞ」

「どうしてそこまでするんだ?鍛錬なんて辛い事ばかりで楽しくもないし、ましてや剣や魔法なんて……。子供の仕事は食べて遊んで寝る事だって父上が言ってたぞ!」


 ミドカの疑問にショウの手が止まる。少しだけ考える素振りを見せた。


「子供の仕事は食べて、遊んで、寝る事、間違ってないんだろうな。なら俺は遊ぶ事より鍛錬に重きを置いて、寝もせず剣を振る不真面目少年だ、職務怠慢も甚だしい」


 おちゃらけた言い方をしているが、ショウの表情は真剣だった。


「だけど正しくは、子供の仕事は成長する事だ。発展途上の心身を育てる為の必要な栄養、必要な情報を蓄え、吸収する事。それが今俺達がすべき事。食事はしっかりと取っているし、鍛錬は体を成長させる。だから問題はない。それに休息はちゃんととってる」

「ちゃんとは嘘だ」

「ちゃんととってるって。今も頭の半分は寝かせてる」

「………?」


 意味のわからない事を言うショウを怪訝そうに見つめるミドカ。


「まぁ……それでもここまでする必要があるのかと言われれば普通は無いんだろうな……。程よく遊びをいれて、夜は寝るべきだ、そう言いたいんだろ?」

「そ、そうだな。ここまでやると狂気を感じるぞ」

「そもそも俺は鍛錬を辛いとはあまり思ってない。望んでやる苦労は思っているよりは軽い。大変だけどやりがいがあるって事、あるだろ?」


 勉強は大変だけど理解できれば楽しいし、褒められれば嬉しい。将来に向けての物でもあるし、やり甲斐もある。わからない話ではなかった。


「俺はやりたいから鍛錬し続けてる。じゃあなんでここまでしたいのか?って最初の疑問にもどるんだけどさ………しいて言うなら、いつかじゃ遅いからだよ」

「いつかじゃ遅い?」

「ああ。いつかやればいい、じゃあ間に合わないんだよ。いざその時が来た時、何もできなかった、あと少し手が及ばなかった自分がいる。あの時もっとやっておけば、もっと前からやり続けていればって思う事になる」


 ショウの顔は穏やかだが、その拳からは血が流れる程強く握られていた。


「この世で最も早い時は、思い至った時だ。もっと早く気づけば、思い至ればとは常に思うけど言うだけ無駄だからね。なら始めるのに最も適した時はいつだと思う?」

「それは……思い至った時……か?」

「その通り。極東の国、大和には『思い立ったが吉日』って言葉がある。思い立った日が最良、それ以降じゃ遅い。今でなければならない。そう思うと、今できる事をしようとするとさ、時間がいくらあっても足りないし、俺のできる事はやりたい事に全く追いつかないんだ。鍛錬を終えるたびに思うよ、『これだけしか出来なかった、これで本当に足りるのか?』ってね」


 最早懺悔に近いショウの話を聞いているミドカは、ショウの過去に何があったのかが少し気になってくる。


「ようは不安だから鍛錬し続けてるわけだ、臆病が過ぎて情けないだろ?」

「………ミィは後悔しない為の行動を笑わないぞ」

「──ありがとう。そういう訳でだ、俺はこの後もそこそこに休憩をはさみながら魔法の練習をするから、ミドカはもう寝た方がいい。夜更かしは女性の敵らしいしな」

「そうする。じゃあおやすみだ」

「あぁ、おやすみ」


 部屋へと戻るミドカ。その心の中は複雑な思いが渦巻いていた。

(語り部)

「どれだけ努力しても結果が伴わない事ってよくある話らしいね。世の中はままならないものだね……。とはいえ、努力しない者は嘆く資格すら無い。君も文句はできる限りの事をしてから言った方がいい、努力の無い文句はただの戯言、行動が言葉に中身と重みを生み出していくのさ」

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