家出
ミドカは今立っている場所がロイドの屋敷の前である事に気づいた。
(──そういえばここ、小さい頃来た時以来だ)
懐かしさを感じながら突っ立っていると、
「うわっ…!?」
後ろから頭を撫でられる。振り向くと、そこにはもういないと宣言された男が立っていた。
「ポール……やっぱり生きて……」
ふと、違和感を覚えた。昔より成長した背丈なのに昔見た光景と変わらない。自身を見てみると、体が以前この場所を訪れた際の姿になっている。小さな少女を見下ろし、微笑むと、男は歩き出す。
「まっ、待って……」
呼び止めようと再び振り向くも、ポールの体が透けていき、足下から徐々に消えていく。消えていく体に抱きつこうにも体は意識に反して一歩も動かせない。精一杯手を伸ばし、叫ぶ彼女に、彼は振り返り──
手を伸ばしながら目にしたのは見慣れぬ天井。体を起こし、周りを見渡すと、窓が開けられ、夏の暑さを含む風が吹き、部屋から廊下へと抜けていく。
(夢……だって事はわかってたけど……)
たった今見た夢が、ポールが死んだ事を彷彿とさせる。
「それで……ここは……?」
自分が何故こんな所で寝ているのかを思い出す。
「ロイドにポールが死んだって聞いて……そうだ、見覚えあると思ったらここ、ロイドの家の中だ」
ベキバキャァァァァァァァァァッ!!!
「なんだっ!?敵襲か!?」
自身の所在を把握したところで巨大な破壊音がすぐ近くから聞こえてきた。確認しに外に出ると、そこには大きく穴の空いた壁と、そこから飛び出してきたであろう少年が地面に転がっていた。
「はぁ〜、しくじった……躱しきれなかった」
「大丈夫か?確か……ショウ」
「あ、目が覚めたのか、おはよう。これくらいなら問題ない、大袈裟に外まで飛ばされたけど怪我はないから」
駆け寄って確認すると何事も無かったように起き上がる。
「なんだ起きたのか。少しは落ち着いたみたいだな?」
ショウが飛び出してきたであろう壁の穴からロイドが出てくる。ロイドの言葉にミドカの顔が曇る。
「あー……まぁ、知ったばかりで受け入れ難いだろうな。泣きたきゃいくらでも泣いて構わん。時間をかけて呑み込めばいい。それでいずれ笑って生きてくれりゃああいつらも浮かばれる。あいつらはその為に闘って死んだんだからな」
「………うん」
「それで……?お前がなんでここにいるのかを聞かなきゃな?この危険区域を、護衛もつけず、お前一人でほっつき歩いてた理由をよぉ?」
顔で笑って目を笑わせないロイドの表情は、心なしか少し怖かった。
「俺ん家の近くでお前に何かあったってなったら俺はあの王様に詫びを入れなきゃならん。ポールの事を聞きに来たにしても護衛はつけろよ」
「いや〜、それが……」
バツの悪そうなミドカが朝の出来事を語り始めた。
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「父上、ミィに何か用か?」
ミドカは魔王に呼ばれ、執務室へとやってきていた。
「ああ、ミドカに伝えておくことがあってな。近い内、お前の婚約者を決めようと思う。相手は向こうの世界の人間で何人か候補を絞っているところだ」
「それなら相手はポールがいいぞ!!」
「あいつは駄目だ。候補者のリストの中から見合い相手を選べ」
「なんでだ!?父上だってポールの事は信頼してるだろ!ポールがズッ友って言ってた!!」
(変な言葉を教えやがって……)
口調が男勝りなのは周りが比較的男が多い環境だからだとも思っていたが、たまに変な言葉を覚えてくるのはポールの影響かもしれないと頭を抱える。
「喧嘩して顔合わせづらいのか?仲直りはちゃんとしたほうがいいぞ?おまけでいいからミィも会いに行きたい!」
「そういうわけでもないし、会わせることも出来ん」
「なら政略結婚ってやつか?ミィは嫌だぞ!ミィは愛に生きる女だ!!」
「それは一向に構わない。元よりミドカが望めば結ぶつもりというだけの婚約だ。相手が向こうの世界の人間であれば重畳だな」
「なら尚更ポールじゃ駄目な理由が無いぞ!あっ、ポールが結婚してるからか!でも魔界なら重婚OKだぞ?モーマンタイだ!」
「そういう問題じゃないんだ」
「ならどうして?」
「──お前にはいつか伝えなければならないとは思っていたんだが……中々伝えられなくてな。お前にとって辛いことかもしれないがよく聞いてくれ」
「まさか………ポールとは血の繋がった実の兄妹……だった?」
「………いや違う」
深刻な顔をしながら呟く我が子に思わず呆れてしまうが、重い空気になるよりかはましかとも魔王は思っていた。
「いいかミドカ、ポールはな、既に死んでいるんだ」
「───ちょっとなにいってるかわからない。言って良いことと悪い事があるんだぞ。人を勝手に殺しちゃ駄目なんだぞ?」
「そうだな」
「じょ、冗談にしてはつまらな過ぎるぞ……父上」
伺う様に見た父親の顔は正しく真剣そのもの。微塵も冗談の入る余地はなかった。
「父上だって知ってるだろ!?ポールの強さをっ!!」
「ああ、知っている」
「だったら……死ぬわけないって……わかるじゃんか」
「そうだな。死ぬとは思えなかった。だが死んだ、紛れもない事実だ」
「───!!」
「おかしいと思わなかったか?あいつらがこの数年間何の音沙汰もないなんて。ポールの事だ、一、二年ならば旅に出ていたり厄介事に首を突っ込んだりして、何もなくても不思議じゃない。だが、もう8年ほど経つ。その間、連絡がとれるのはロイド一人だけだ」
「………」
「ポールは死んだ、もういない。だからポールと婚約する事は叶わない。理解してくれたか?」
「──そだ」
「ん?」
「嘘だっ!!父上の嘘つき!!ポールが来ないのは忙しいからだって言ってた!」
「いやそれは……」
「ポール達は全員巻き込まれ体質で事件が向こうから来るからって!」
「それは言ってない」
「ロイドが昔言ってた!!」
「ロイドか……」
「とにかく!父上は嘘つき、ミィは絶対信じないからな!!父上なんか、だいっきらいだーーー!!!」
そう言い残し、ミドカは飛び出していった。
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「というわけで、確認しに家出してきた」
話を聞いていたロイドがため息を吐く。
(とっとと言っておけとあれほど……。第一そのタイミングで言ったらポールの代わりを見繕おうとしてるみたいじゃねーか)
「ポールの代わりを充てがってついでに政略結婚しようって考えが気に食わんから、当分帰りたくない」
(やっぱり……)
「ということでミィは家出少女だ!!」
「間違ってないが高らかに言うことじゃねえよ。まぁ、いい。それなら暫くはここに置いてやる。こっちの行く宛他に無さそうだしな。で、帰りたくなったら帰れ。向こうはお前が世界渡ってこっちに来てるとは思っていないだろうから慌ててるだろうし、なるべく早めにな」
「うん!宜しく!」
「という事で、こいつが一緒に住む事になったからよろしくな、ショウ」
「はい。じゃあ改めて、俺はショウ、ショウ・シュヴァルツだ。これから仲良くしてやって欲しい」
「ミィはミドカ・ウォーカー。よろしくだ、ショウ!」
こうして夏の同居人が一人増えた。
(語り部)
「魔界じゃ重婚も認められてるし、年の差の10や20なら珍しくもないから誰も気にはしないけど相手がすでにいない今回はどうしようもないね。もしもの未来があったなら、彼女はショウの義理の母親になっていたかもしれないね。ポールには相手にされていなかったけど」




